第160話 でしょうね

 それから俺は説明をしていた。勇者が狂ってしまっていることと理性が飛んでて話し合いにならない事、たぶん呪いのせいで第一グループの勇者とそれ以外が敵意を持つようになっている事。


 そのせいであかねが死んでしまった事と、勇者が自由に動き回っているので魔王軍の進行を止めることが出来ず街が一つ滅んだっぽい事とかを丁寧に話しておいた。


「今俺とフラフィーしかここにいないのも魔王軍の手によって、なんです。女神様は世界の事知りたそうだったのでご報告させていただきました」


「……」


 俺が説明すると女神様は何やら無表情で固まっていた。


「ええと女神様?」


「……え!? はい!? ごめんなさい色々すっとんでました」


 女神様は驚いたように俺の声に反応しあたふたと正座をし始める。当然空中で。


「ちょ、ちょっと確認させてもらいますね?」


 そして何やら空中で手を動かし色々操作しているのが見えた。この世界の情報を調べているんだろうか? それだったら俺から聞かなくても問題なさそうなもんだけど違うのかな。


「うわー……えぇ……本当だぁ……まずい」


 何を見ているのか女神様はさらに忙しく操作しながら顔を段々と青ざめさせていった。こういう女神様見てると何か安心を感じるというかこれこそがこの女神様って感じある。


 余裕ぶっこいてるよりもこうやって焦ってたりひたすらに疲れ切ってる方が似合ってるよ。すんごい失礼なこと言ってる自覚あるけど真理だから仕方がない。だからこそ信仰し甲斐があるってもんよ。


「信者一号、このままでは世界が滅びます」


「でしょうね」


「でしょうね!?」


 俺が即答すると女神様はまじでこいつ何言ってんの!? みたいな表情で突っ込みを返してきてくれた。いやだって魔王軍が攻めてきて街一つ滅ぼしたじゃん? 大陸超えて拠点もったわけだしそらそうなってもおかしくないでしょ。


 だからこうやってフラフィーと共に逃げるわけだしこれからどんどん遠ざかっていく予定だ。手下っぽいやつであんな強かったし魔王が本気出したら世界なんて簡単に滅びるんじゃないの?


「なるほど、危機を察知していたというわけですか。流石私の信者一号です。この世界を救うために頑張ってほしい所ですが……色々と辛い目にあったあなたに頼むのはいけませんよね」


 女神様は世界を救う方向で考えているようだが何かあるのだろうか? 基本的に人間の世界には関与しないと言っていたのに、世界が魔王に支配されると問題でも発生するのだろうか?


 といわけで質問してみるしかないな。


「女神様、世界が滅びると何か不味いんですか?」


「信者一号は相変わらず感性飛んでますね。普通の人なら信託で世界滅びるとか言われたら焦りますしもうちょっと何かあると思いますよ」


 俺は世界を救おうなんて考えたことないからな。手の届く範囲の事しか助けられないって言うのはわかっているしそんな大きな力を持っていたとしても持て余すだろう。実際にはそれすらも助けられなかったから手の届く範囲すら怪しいけど。


 感性飛んでいるというかもう色々と諦めて達観しているといっていいだろう。じゃなきゃぁまともに生きていくのも難しいよ。


「何が不味いかでしたね、そうですね……もしこの世界が滅びると……」


「滅びると……?」


「私の女神の力が失われます……自分が管轄している世界の監督不行き届きとしての罰を受けることになるんです」


「女神様が力を失うとどうなるんですか?」


「……」


 自分の管轄している世界が滅びるとそんなことになるのか。いやでもこの女神様どこの世界も放置しているし監督不行き届きってそれもう管轄してる世界全部に当てはまるとおもうんだけど。


 なにせ気に入らない相手は嫌がらせの如くめんどくさい世界に送り届けたと豪語する猛者の女神様だ。とても真面目に仕事しているとは思えない。


 あれ、そう考えるとこの女神様もしかして最初からさぼる事しか考えていなかったのでは? 世界が滅びないように調整するって事は勇者を送り込んで魔王の力をそぎ落とすってことでしょ?


 そんでその力のバランスを見るためにさっき何か操作していたと考えると、本来は結構人に干渉するべきなのでは……? もし本当に完全に干渉ダメなら世界にこうやって降り立つのも無理だろうし。


 あかねもさっくり女神様を見ることが出来てたし勇者たちに何かしらの恩恵やら指標やらを授けておくのも本当の仕事なのでは……?


 いやそれはいいか。聞けば教えてくれるかもしれないけどさぼりたいならさぼってても良し。俺はこの女神様の幸せを第一に考えるよ。無理、ダメ、絶対。


「女神様が力を失うとどうなるんですか?」


「あえて黙秘したのに聞いてきます?」


「それはとても気になりますからね。信者的には女神様が不幸になるのは嫌ですから」


 胡乱気な眼でこっちをにらんで来た女神様だったが、俺の続く言葉でちょっと照れた感じで嬉しそうにしていた。ほんと褒められ慣れてないよなこの女神様。そんな状態だったので教えてくれた。


「罰って言うのは、その滅んだ世界を最初から作り直すために全ての力を使わされるの。そして力を失った女神は、女神として生きてきた記憶を無くして作り直した世界で人間として生きる事になるんだよね……」


「つまり逆に言うと世界を滅ぼせば女神様と一緒に冒険できると?」


「なんで!? 私を人間にしようとしないでくれる!? そもそも世界滅んだら信者一号も滅ぶからね!」


 そらそうか。


「じゃあ女神様の力になりますよ。魔王倒すのは無理ですが」


「流石信者一号! 愛してる! 女神の愛あげちゃう! じゃあちょっと女神本気出すから五日くらい経ったらもっかいお祈りして! よろしくね!」


 俺に頼むのはいけないって言っていたけど、俺が本心から女神様を助けたいと思っていることが見透かされたようだ。なので俺が力になることを一発で了承してくれた。


 女神様にはずっと元気でいて欲しいからね。こう言うとおばあちゃんみたいだけど女神様見た目は普通に若いからね?

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