第152話 待ってくれ

 イリスが空中をどうにかしてくれているので、俺たちは地上の魔物を冒険者たちと共に倒していくことにした。クロエはイリスに魔力が根こそぎ持っていかれているので、負傷者たちと共にひとまとめにされている。


 魔力回復ポーションもあるが、どう見てもそれ以外の症状も出ていたためポーションを渡して休むように言って無理やり置いてきた。イリスが離れたから暴走する危険もあるようだし本人も大人しくそこに残った。


「フラフィー! 右だ!」


「はい!」


 空中の魔法陣からは多くの魔物が押し寄せて来ていたが、それに乗じて街の外からも多くの魔物が押し寄せていた。ゴブリンやオーク、地上を這う昆虫型の魔物なども入り込みかなりの乱戦になっている。


 俺とフラフィーは少しでも数を減らすようにと街の中に押し寄せている魔物を討伐して移動していた。目標地点は空中にある魔法陣の真下あたり、イリスが戦っている場所だ。


 無差別に襲ってくる魔物もいれば動きの良い魔物もいる。たぶん動きの良いのが上から降ってきたやつらなのだろう。


「キミヒトさん!」


「おっけ!」


 しかしフラフィーの受け流しの前ではそれほどの脅威ではなく、体勢の崩れた魔物に俺が攻撃を加えて止めを刺していく。


 連携は段々と様になってきているのでスムーズにスイッチしたり後ろを守ったりと出来るようになっていた。


「あらかた片付いたな、次にいくぞ」


「はい!」


 近場にいた魔物を減らし、あとは兵士や冒険者に任せて先に進んで行く。俺たちの力が無くてもここの冒険者たちは強い。この辺りにいるのはCランクあたりだが充分以上に戦えている。


 たぶんこの先に行けばもっと強い魔物がいるはずだ。しかしその相手をするA級やB級の冒険者の数が足りず、こうやって後ろにまで魔物が漏れているという話だった。


 なので俺たちはイリスの元に向かっているが、冒険者として頼まれてもいた。俺の冒険者ランクは一応Bなので頼りにされている感じだった。


 走っているといきなり足元に大きな影が出来る。何事かと上を見ると巨大な黒い竜がこちらを向いて大きな口を開けていた。


「フラフィー、これはまずい」


 まずいと思っても逃げ場はどこにもない。竜の口の中には真っ赤な炎が見えていた。


「逃げられません、キミヒトさんだけでも絶対に守ります!」


 フラフィーはアダマンタイトの盾を構え俺の前に出る。


「死ぬ気か!? 自分の事だけを守れ! 俺なら耐えられる!」


「ダメです! 信じられません!」


 その直後竜からはまぶしいほどの熱量と光源を持った炎が吐き出された。フラフィーは盾の後ろに俺をかばい正面から炎を受け止めている。


 音すら受け流して見せたフラフィーなら炎でも受け流せたかもしれないが、俺をかばっていることでその行動は出来なくなっている。どうして逃げてくれないんだよ。フラフィーが本当に死んでしまう。


「ぐぐぐ……っ」


 フラフィーは盾をしっかり押さえているため身動きが取れない。そして炎の余波により周りの建物は吹き飛ばされ盾も赤くなり始めている。


 後ろにいる俺ですらめちゃくちゃ熱い。直接受け止めているフラフィーはこの比ではないだろう。いつ燃えてもおかしくないような状況だ。


「キミヒトさん、私が、死んだら、あかねさんと同じように、キミヒトさんがずっと持っててください」


「馬鹿言うなよ! 透過を使うから息を止めろ!」


 俺は後ろからフラフィーを支えて透過を使用する。そして一気に視界は火の中に飲みこまれていき一面が真っ赤に染まる。


 全身が透過状態になっている時に確認出来ることは視界だけだ。透視の要領かはわからないがとにかく見ることは出来る。しかし空気は取り込むことが出来ず、全身を透過させると空気を吸い込むことは出来なくなる。


 出来たとしてもこの炎の中じゃ呼吸なんてできないけど。


 そして全身で透過を使うときは足場を残しておくか、どこかを触れさせていなければならない。でなければどこまでも地面を落ちていくからだ。


 つまり今俺の足は燃えている。


 が、耐えるしかない。不屈に意識を割いて足が燃えるのを何とかして防ごうと試みる。じわじわと熱に侵されている感じがするがこの熱線にも似た炎を耐えるにはもうこれしかない。


 どのくらい耐えていたかわからないが炎は唐突に消えた。というかドラゴンはふっとばされていた。


「キミヒト、巨乳、無事?」


「イリスさん!」


 イリスは空中から俺達を見下ろし声をかけてくる。そのまま地上にゆっくりと降りてきて俺たちの状態を確認している。


「遅くなった、ごめん」


「イリス……」


 俺達にあやまるイリスだが、その姿は先ほどの変身した姿ではなく通常の状態の銀髪に戻っていた。そして鉄壁の防御を誇っていたエルフの秘宝と呼ばれるイリスの服がところどころ破けていた。


 それだけでなく腕や足から血を流し満身創痍といった感じだった。何が遅くなっただよ、お前こそ大変だったろうに。俺がそう言おうとしたがイリスはさえぎり上を見続けていた。


「思ったより強いのが来てる。キミヒト達じゃ無理。逃げて」


「何言ってんだよ。それなら一緒に逃げるぞ」


「無理。私は狙われてる」


 イリスはそう言ってまた空に浮かび上がっていく。どことなく頼りなさ気に見えるのは魔力をかなり消費したからだろう。今までどれだけ魔法を使っても魔力切れを起こしてこなかったイリスだが、今回はそこまでの相手がいるのか。


「お姉ちゃんも連れて逃げて。お願い」


 こちらを振り返り泣きそうな顔をしているイリス。


「イリス! 待ってくれ!」


 少しだけこっちを見てイリスは言葉を返してくる。


「今まで楽しかった。ありがと」


 なに死亡フラグみたいな言い方してるんだよ。待ってくれ……待ってくれよ……。

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