第151話 端的に言うとなんかパンク

 その日はみんなで悲しんで一日はあっという間に終わってしまった。ぽつぽつと会話をしながら次の日から前向きに生きるためにこの時間は必要だった。


 そのおかげか次の日にはみんなかなり落ち着いていた。というか俺が一番取り乱していたからそのせいでみんなが取り乱せなかった部分は大きいかもしれない。


「さて、じゃあこの街にも用は無いしまた旅にでるか」


 というか勇者を見つけても呪いを解くことがもう出来ない。水の精霊のストーカーは呪いに侵されているかどうかはわからないが、侵されていた場合危険な事には変わりがない。


 俺達には害のない勇者はもういないだろう。いや呪いが完全に効いてないという一人がいるんだっけな。探す事も見つける事もこちらからはもう出来なくなってしまったが。


「それなんだけどキミヒト……」


 クロエが何かを言いかけた時、外から爆発音が聞こえてきた。今まで魔物が攻めてきているという話はあったがここまで街の被害が出るような事は無かった。


 魔物の襲撃だとしたらかなりタイミングが悪い。いや、もしかしてユウキがこういった魔物を全部やっていたのか……? 


「いきましょう」


 クロエも話が途中だったが率先してみんなと外に向かっていく。昨日までは六人いたのに一気に四人になって寂しくなってしまったな。なんてそんなこともちょっと考えてしまう。


 あかねの体は収納にしまう事ができ、どこか埋葬するのに良い場所を見つけたら埋めてやろうと思う。前世のやり方的に火葬するのもありかとは思うが、ひきこもりだったあかねなら箱詰めで埋めたほうが喜ぶだろう。もしくはダンジョンとかな。


 俺がずっと持ちっぱなしってのもありと言えばありだが、吹っ切らないといけないだろうしみんなも気にしちゃうからな。


 外に出るとやはり魔物の襲撃が行われていた。宿屋の主人が魔物に襲われそうになっているので間に入り攻撃を止める。そこまで強くない魔物だが街の人たちにとってはかなりの脅威となるだろう。


「アイスランス」


 逃げ惑う街の人を守るようにイリスは魔法を唱える。旅支度は既に整っているのが不幸中の幸いだが、相手は空からも襲ってきている。


 というかかなりの大群で街が囲まれているんじゃないかこれは。


 遠くを見ると火の手が上がっているし、そこかしこで兵士や冒険者たちが戦っている。ギルドのクエストもかなりの量が受注されていたようだし、昨日の時点ではここまでではなかったのにどうした。


「何があった?」


 近くにいた冒険者の助けに入りつつ状況を聞いてみる。この冒険者は初日にもいたし、複数の魔物を相手に戦っていた所を見るとかなりの手練れのおっさんだ。


「助かった、急に上空に魔法陣が出たんだよ。そしたらこの始末だ。転移魔法でかなりの魔物が送られてきて一気に襲われ始めた。この街ももうだめだな。お前たちも冒険者なら……いやさっきの魔法も凄かったが、女や子どもは逃げたほうがいい」


 そういっておっさんは街の中心のほうに向かって走っていった。俺たちのパーティは一見するとかなり子どもっぽいからそう言われるが、確かにこの現状をどうにかするには勇者の力が必要だっただろう。


 すまん、ユウキが出てこないならこの街の陥落は俺のせいになるだろう。


「キミヒトさん……」


 フラフィーは不安そうな目でこちらを見てくる。俺達が行ったところで多勢に無勢なのは間違いがない。おっさんの言う通り逃げるのが一番良いだろう。倒せると言っても倒したところで次から次へと出てくる。


「キミヒト、あなたの判断に任せるわ」


「私もそれでいい」


 いつもはこういう時逃げるという選択肢も提示してくれるロリ達だが、今回はどうやら違うようだ。というか俺も逃げる選択肢を考えていたわけじゃないんだ。


 悲しむ暇も与えてくれないこの魔物どもの空気の読めない行動に少しいらだちを感じてしまっていた。まともな戦闘をしていなかったし、ここらでひと暴れしてやるのも悪くないかもしれないな。


「そうだな、どこまでやれるかわからんが助けるか」


「キミヒトさん!」


 フラフィーは俺の判断に安心したような顔を見せる。こいつはなんだかんだでお人よしだし、それなりに街を満喫したなら楽しい事もあっただろう。そんな街が落とされるのを黙ってみてるのはつらいよな。


「おーけーキミヒト、全力でやってやるわ」


 クロエは俺達に最大限のバフをかけてくれる。さらには魔法のステッキを取り出し戦闘準備も万端になる。ついに魔法少女の物理アタックが見られそうだな。


 クロエの魔法はちょいと物騒だし範囲が広いしターゲットが絞れないと巻き込みそうだからな。獣人も多い街だから魔物をターゲットにしても巻き込まれる可能性が無いとも言えないからな。暴走の危険もあるし。


「お姉ちゃんの魔力は私が使う。まずは空中の連中を全部落とす」


「あら、精霊を使う気? いいわよ、持っていきなさい」


 そう言うとイリスは俺達を魔法で浮かびあがらせ、近くの民家の屋根に移動する。俺とフラフィーはそこに近づこうとしている魔物たちを防ぎ安全地帯を形成する。


「風、火、集まれ。精霊の力を持つイリスが願う。敵対の意志あるもの全て撃滅する力を貸して」


 魔法の詠唱、しかし呪文の名前はない。いつもは必ず最後に何か呪文の形となるものを唱えている。魔法はヒールであればヒール、氷であればアイス、火であればファイア等意味を成す言葉を使って発動する。


 しかし今回のイリスの魔法は魔法とは呼べないもののような感じがする。


 何故ならイリスが唱えた瞬間、目に見えない魔力の渦が高速で外に広がりそして収縮していく。透視を使っているからこそ感知できる魔力の流れだが、明らかにおかしい。


 そして収まった魔力は全てイリスの元へ。


「イリス、その姿は」


「精霊纏うとこんな感じ。条件あるけど」


 イリスの髪は銀色から赤と緑の混ざった色になっていた。混ざりきっているのではなく、ピンクやライトグリーンのような部分が出来ている感じだ。端的に言うとなんかパンク。パンクがどういうのかしらんけどこういうイメージあるよ。


 ゴスロリ着せて完全にパンク少女にしてやりたいわこれ。


「いってくる。おねえちゃんをよろしく」


 イリスは風をまとって空を飛び、この近辺の魔物を燃やし尽くしたあと飛んでいき瞬く間に小さくなった。そして上空でそのまま物凄い閃光を発しながら敵を燃やし尽くしていくのが見えた。つよすぎわろた。


「イリスは短時間だけど、精霊の力をその身に宿す事が出来るわ。イリスの魔力だけじゃ足りないから私のも使う必要があるけど。あとは、精霊達をとどめておく感情が必要ね」


 クロエはそう言ってその場にしゃがみ込む。慌ててクロエを支え、イリスに殲滅されて行く魔物たちを見上げ続けていた。イリスどこまでも強くなっていくな。

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