第64話 善意の塊

 イリスと盛大に遊んで疲れていたため少し寝てたらもう夜になっていた。なんだかんだで色々してたし気絶は睡眠に入らないし仕方ないかもしれない。


 イリスも俺の横で小さく可愛らしくなってすやすやと寝息を立てている。めちゃんこかわいいなこいつまじで。


 丸まってるところも可愛いしシーツ掴んでるところも可愛いし寝顔も可愛いし何もかも可愛いし幸せしか感じられないわ。


 起こさない様にそっと頭をなでて髪をすく。くすぐったいのか気持ちいいのか、穏やかな寝顔のまま体をいっそう丸める。最高かよ。


 女の子の無防備な姿は最高に好きだけど、寝てるときはガン見してても何も言われないからより最高だわ。


 イリスからは良い匂いがするしこのまま抱きしめてもう一度寝てしまおうかとも思う。しかしこの状態で抱きしめたら性欲が刺激されそうな気もする。


 あとイリスが起きていた場合確実に手遅れになる予感もある。この時間だしクロエとフラフィーも帰ってきそうだしちょっと怖い。


 もしもここでイリスと始めて二人に見られたら修羅場じゃなくて俺の死体処理場になるな。


 なのでひたすらなでる事に終始しよう。うむ、別にへたれているわけではない。


「ただいまですー」


「帰ったわ、キミヒト」


「ちっ」


 よしよししながら甘い時間を過ごそうと思った矢先にクロエとフラフィーが帰ってきた。あと小さく舌打ち聴こえたけどイリスさん起きてましたか?


 そして邪魔されたことに怒ってますか? このパーティギスギスしないよね、大丈夫?


 原因俺だけどな。


「おかえり、アクセサリー注文してきたんだって?」


 危険を察知していたのでイリスを抱きしめそうな態勢から、ベッドに腰かけてイリスをなでてましたスタイルに変更していた。危なかった。


 クロエなら大丈夫かもしれないがフラフィーはもういつでもぶっ刺す準備万端です! とばかりに包丁腰につける事にしたみたいだからな。


 今までは抜身の包丁持ち歩いてたから怖すぎたもんな。本当は盾に収納するようなタイプだったはずなのにどうして持ち歩くことにしたの君は。


 それ戦闘に使ったことないでしょ。


「ええ、とりあえず各種魔法ダメージ軽減人数分とそれぞれに合わせた奴も少し。後はフラフィー用の防具も特注してきたわ」


「皆さんについていくために頑張りますのでよろしくお願いします!」


「急に新人みたいだな」


 フラフィーの中で何かがあったのかはわからないがどうにもやる気がさらに出てきているようだ。俺たちの中で唯一地味な戦闘方法だっていうのもあるのかもしれない。


 正直フラフィーも充分以上に強いと思うけどな。たぶんミスリル攻略してまた強くなっただろうし弱いと思ったことはない。


 むしろスキルが強化されているはずなのに全然変わっていない俺の方が問題なんじゃないかと思う。勇者のスキルは特殊過ぎて強化されないとかだろうかもしかして。


 能力的に索敵とかは非常に便利だし、戦闘面でも役立たずって程のものでもない。でももしSランクとかの魔物が出てきたら俺達はどうなるだろうか。


 クロエとイリスは正直普通に戦い切れるだろう。そのくらいおかしい火力と魔力を持っている。イリスは相性によってはきついかもしれないが、クロエと協力すればほぼ無敵だろう。


 しかし俺はBランク止まりの実力、正面切ってスキルを使って戦ってAランクと戦えるかどうかぐらいしかない。二人においつくためにも何かしら自分を高めるためにやらなくちゃいけないだろう。そのためにはまず経験値を稼ぐ必要がある。


 分かりやすいのは新しいスキルを取得してどうにかみんなについていく事だろう。勇者組のスキルはレアなものが多いみたいだから期待している。


「お姉ちゃんたち、帰って来るの早い」


 そんなことを考えているとイリスが起きだした。寝たふりロリも可愛かったが拗ねてるロリも可愛い。最近可愛いしか言ってないけど可愛いから仕方ないな。


「イリス、もう夜よ。今日はいっぱい楽しんだでしょう?」


「うん、楽しかった」


 俺は死にかけたけどな。


「キミヒトさんも楽しかったんでしょう?」


 フラフィーが善意の塊みたいな笑顔で俺に問いかけてくるがなんとも言い難い所である。


「キミヒト、激しすぎて失神」


「ちょ、おま」


「へぇー」


 くそ、イリスのいたずら心が収まっていない! そして嘘じゃないからこっちも訂正し辛い。ほらフラフィーは包丁しまってしまって。


 しかし俺の願いはむなしくめちゃくちゃ扱い慣れている感じでくるくると包丁を回しながら俺に近づいてくる。なんでそんなに扱い上手いの?


「アトラクションのダンジョンに向かったのにどうしてそんなことになってるんです?」


 有無を言わせぬ圧倒的圧力の前に俺が一瞬口ごもると先にイリスが言葉を発した。あとやっぱり最初から行く予定だったのねアトラクションのダンジョンに。女子の連携プレイを見てしまったけど俺は死の境目を見てきたよ。


「キミヒト、あまりの高揚感に言葉無くして体液まき散らしてた。激しかった」


「うんうん、キミヒトさん、死のっか」


「早い早い早い結論が早い!」


 フラフィーを羽交い絞めにしようとして必死に抵抗を試みる。しかしフラフィーは華麗に俺のことを受け流し壁に押し付け俺の顔の横に包丁を突き立てる。


 こんな色気のない壁ドン初めてだよ。あと君盾じゃなくて武器持っても戦えるよこれ。


「キミヒトさんは外でもしちゃうんですか? イリスさんみたいな小っちゃい子に興奮するのは知ってますが、時と場所も選べなくなってしまったんですか?」


「時と場所選べばいいって事かな?」


「ふざけてるともう一本刺さりますよ」


 フラフィーはいつの間にか二刀流になっていた。君はどこを目指すんだフラフィー。もう一本で俺の顔をべちべちするのはやめていただきたい。


 イリスの方を見ると舌を出してしてやったりという顔をしていた。やっぱりイリスは俺を殺そうとしているとしか思えない。


 死ぬまでに叶えたいことを全部叶える前に死ぬときはロリに殺されるっていう夢が完了してしまうな。本望だ。


「ほら、フラフィーもキミヒトもふざけてないでご飯行くんでしょ?」


 クロエがフラフィーを俺から引っぺがしてくれた。首根っこをひっつかんで無理やり引きはがすさまはいたずらしていた子猫を連れていく母猫みたいでちょっと和んだ。


 状態的には和む要素が皆無だがこれも楽しみになっていきそうで怖い。


 その後アトラクションのダンジョンでの顛末を語った時の二人のなんとも言えない表情を見られただけで今日の事は良しとしておこう。

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