第42話 雑魚すぎてあくびがでる

 女性陣とはきゃっきゃうふふしつつ、男性陣とは一定の距離を保ちつつ順調にダンジョンを進んで行く。


 あのあと二十階層で小休止をはさみ現在は二十一階層だ。ここまで来ると事前に調べた地図はもう役に立たなくなっているらしい。となると俺の出番かな。


「へいロンドのみんな、ここからは俺たちのパーティに任せてくれよ」


 というかロンドのみんなの疲労が結構溜まっている。連携に乱れはないが、一人一人の疲労がたまっては問題があった時に対処が出来ない。


 ならば温存されていた俺たちが戦いを務め、背後の隙を無くしてほしい。そうすれば彼らも戦闘を休めるし護衛という務めも出来るため仕事を奪ったことにはならない。


 それに予想以上に疲労しているのは背後にいる俺たちの事も守っているからだ。三人しかいないのに五人を守りながら進むのはかなりの疲労度だろう。


「いや待て。荷物持ちでついてきてもらってるんだぞ。それなのに任せることはできない」


「そうだ、それにここからはかなり危険だ。いくらAランクがいるからといって危ない」


「それにキミヒトを後ろから見るなんてなんだかいけない想像をしてしまうだろう」


 最後のやつうるせえ。というかAランクは確かにいるけどあかねに戦わせる気はあんまりない。フラフィーの訓練と俺たちの経験値稼ぎが目的だ。


「甘く見てもらっちゃあ困るぜ。これでも収納持ち、ステータスだって捨てたもんじゃあないんだぜ?」


「そうですよ! 私たちだってお役に立ちます!」


 ごつい盾を平然と掲げながらついてくるフラフィーに説得力を感じたのか、彼らは俺たちに先頭を譲る。彼らも疲れていたようだし、ここらで俺たちの実力を見せつけてやるか。


「なあフラフィー、体の調子は良くなってないか?」


「え? そうですね、前より盾が軽くなっているような?」


 やはりダンジョンクリアの恩恵を受けているようだ。となると受け流しの技術もより洗練されていると考えて問題ないだろう。このダンジョンは敵の強さのランクがC以上と推定されている。二十階層からはB以上の魔物がでる。


 なので探索者ランクはB制限がかかっている。BランクあればCランクの魔物は余裕で倒せる。Bランク以上の魔物が出てきてもパーティ単位で挑めば問題ないという設定だ。


 そして俺たちの総合戦力はAを超えていると思う。特に後ろのロリズ。俺は部分的に強いしあかねも強い。しかしロリズは俺たち勇者たちより火力がある。本当にこの世界の住人かよってレベルだ。


 あとはフラフィーの前衛能力だが、防御に特化しているためそれだけだったら充分以上に役立てる。それは強化スケルトンの攻撃を不十分な体勢ではじいたことからもわかっている。


 弱い弱いとなんだかんだおちょくってはいるが、安心感あるんだよな。


「じゃあ行くぞ」


「はい!」


 俺は強化された透視を使い、ダンジョンの中をくまなく探索する。このまま道なりに進んで行けば行き止まりになるので方向を示しながら行く。


 そして魔物も発見する。魔物の名前はシャウトウルフ。鑑定結果ではそんな風にでた。例によって特徴は書かれてなかった。ふぁっく。


「クロエ、シャウトウルフってどんな魔物か知ってる?」


「普通のオオカミよ。ただ、その名の通り叫ぶと麻痺にしてくることがあるから注意ね」


「あいよ」


 そして一匹目に遭遇し、思いっきり吠えられるがフラフィーがやらかしてくれた。


 こいつ、咆哮を受け流した。どういう原理やねん。


 あまりにも華麗な技だったが、その隙をついて普通に切って倒す。自慢のシャウトが利かないどころか普通に突っ込んでくる俺にもビビってたみたいで余裕だった。とりあえずフラフィーには聞いておこう。


「おいおいなんだ今の」


「なんでしょうね……なんか音の急所が見えたというか……受け流せました」


 無意識だったみたい。あれ、こいつも盾さえあればチートなのでは? もしくはこのゴンズのくれた盾に魔法的な能力が付与されているかどうか。


 それにしても音を受け流せるのはおかしいが。


 当然ロンドの連中も驚いていたようだ。


「まじかよあの嬢ちゃん」


「いや嬢ちゃんもすごいがキミヒトもおかしいだろ」


「あいつなんで平然としてるんだ」


 うん、俺は麻痺とか我慢できるからね。吠えるってわかってるなら突っ込んで行っちゃうよね。俺にとってそれはただの隙でしかないし。怪我したなら怪我したでクロエに治してもらえるし悪いことなんてなにもない。


 王城で受けたことは嫌な思い出ばかりだが、訓練においては感謝していることもある。おかげというのは癪ではあるが、間違いなく経験が生きている。


「イリスちゃん、キミヒト君たちいつもあんな感じ?」


「うん」


「そうなんだ……」


 フラフィーに武器を買わせようと思っていたあかねは、それがいらぬ心配だったことを理解した。


 その後も次の階層に続く階段にまっすぐ向かう俺たちにロンドの連中はテンションが上がっていた。


「収納持ってるのに探索スキルも一流とか最強かよ」


「うちにもキミヒト一人ほしいな」


「いや三人いないと体がもたないのでは」


 おかげで俺のテンションは下がっていった。こいつら俺を褒めつつそっち方面に思考誘導しようとするのまじでやめろ。


 そのまま俺とフラフィー、たまにあかねも交えて順調に進んで行く。というかまばらな戦闘ばかりなので魔法職の出番が全然ない。俺とあかねの攻撃力が結構高いのもあるけども。


 しかしそれは二十五階層に来た時に変わった。


「まじかよモンスターハウスだ」


「最悪だ。今日は帰るしかないのか」


「すまんキミヒト達。ここは俺達じゃ突破できない」


 モンスターハウスはまれに存在する魔物が大量に沸く階層の事を言う。屑鉄のダンジョンでは腐食竜がいたとこがそれに近い状態になっていた。


 なので今回も同じ手段を用いようと思う。イリスが暇そうにしてるしちょうどいいだろう。


「イリス、やれるか?」


「雑魚すぎてあくびが出る」


 イリスは杖を構えて俺たちの前に出る。敵から感知されない位置に立ち呪文を詠唱し始める。


「火の精霊たち、あそこのやつら全部こんがりした感じにお願い。あと風の精霊はドロップアイテムよろしくね。ファイアウォール」


 呪文っていうかお願いしてますねこれ。もしかすると前に使ったインフェルノは呪文が必要なくらいのものだったってことかもしれないが。うん、たぶんそうだろうな。あれはやばかったわ。


 あれを手懐けてスルーしたあかねも大概だが。ちなみにあかねのその力はダンジョンでは出来るだけ使わないように頼んだ。経験値入らないし見られても面倒だし。


 イリスのおかげで階層がこんがり焼けたので生き残りを確認する。見渡す限りすっきりしていたので少し冷めるのを待ってから進む。


「生き残りいたらもっかいやる」


「いや、大丈夫だ。ありがとう」


 うん、ロンドのみんなごめんね。俺達非常識なパーティなんだ。正攻法なんて知らないんだ。


「収納役雇ったら最強だった件について」


「幼女が木の枝振ったら魔物が全滅する件について」


「戦闘という概念が存在しない世界になってる件について」


 こいつらほんと仲良いわ。クロエがまじで暇そうだなしかし。誰も怪我しないわバフは一応してもらってるけど出番がまだない。


 おかげでロンドの連中があのお嬢ちゃんは何が出来るんだ? とかあの雰囲気は大物だ、ボス的存在に違いないとか実はあのお嬢ちゃんが全員操ってるんだとか色々言ってる。


 クロエはあんまり気にしてなさそうだけどその発言に少し引いてる。否定する材料も行動もする必要ないけどそのうちすごい評価を受けることになりそう。


 そして問題の二十七階層に到達する。


「ジーザス、俺達何もしてないのに最深部にきちまったぜ」


「感謝しかねぇ」


「これは宴の準備するしかないだろ」


 最深部だからなのかこの階層の特徴なのか、今回の安置はかなり広かった。今までも充分広かったが、体育館くらいあるぞここは。


 それに踏破スピードも尋常じゃなかった。本来であれば二十階層あたりからはペースが落ちてここまで数日かけてくる予定だった。しかし俺たちがチートしたせいでさくさく進み一日程度で最新階層だ。


 ロマンを求めた彼らには正直すまんかった。しかし楽しそうなので良しとする。


 安全地帯としてかなり広いので今回は見張りがいらない。出入り口に簡易結界と魔物除けを置くだけで確実に来ないだろう。


 ロンドのメンバーもあかねもそれは間違いないというので信じることにする。ダンジョン慣れしてる経験者の言うことは重要だ。


 というわけで食堂から持ち込んだ料理の数々を出してみんなで食べる。おいしい。


「うまい! ダンジョンでこんなうまい料理食えるとか意味わかんねぇ!」


「というか出来立てなのがさらに意味わかんねぇ!」


「でもおいしいからオールオッケー!」


 こいつらちょくちょくこっちの言葉喋ってる気がするけど変換働いてんのかな。食事が終わるとみんなで相談タイム。明日からガチ攻略になるからな。おれたちがやったらそうならないけど。


「キミヒト達まじで助かったありがとう」


「ここまでこんなに温存して来られることは初めてだ」


「だが明日からは俺たちに任せてほしい」


 ロンドのメンバーはここから攻略するために来たようなものだ。俺たちがやったらそらチートモードで行ってしまうだろう。だからこそ、自分たちの手で成し遂げたいとこちらに頭を下げてきた。


 それならこっちもその気持ちを優先するしかないだろう。


「おうよ! 俺たちは荷物持ち、お前らの無駄な体力を消費させないためにいるんだぜ! 思う存分やってくれ!」


「キミヒトお前嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!」


 俺たちは友情を確かめ合ってハイタッチをする。ハイタッチ好きだなこいつら。俺も嫌いじゃないけど。


 それにこいつらには万全の状態で戦ってほしい。もしものことがあっても嫌だし、こいつらの連携は見てて気持ちがいい。デカブツが出てくるようならその戦い方も見せてほしいしな。


「みんなもそれでいいよな?」


「おっけー。元からそういう話だったし」


「みなさんの戦い方は参考になります」


「もし怪我したら治すから安心していいわ」


「スライムフィッシュうまうま」


 みんなもそれでいいようなので俺たちは明日に備えて就寝することにした。

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