第43話 ダンジョンにはよくある魔素

 俺たちはぐっすり寝たおかげか精神的にも肉体的にもかなり回復していた。それに俺は女性たちに許してもらえたので一緒に寝ることが出来た。


 というか俺が彼らに気を使ってこっちに避難してきたともいう。しかも一緒に寝たと言っても隣にテント張って寝ただけです。下ネタではありません。


 くそっ! あかねが来てからロリ達との肉体的接触どころかコミュニケーションが不足しがちなんだよ! でもクロエと良い雰囲気になったのは感謝してます! ありがとう!


「それじゃあ俺たちは少し距離をおいて追いかけるから、好きに進んでくれ。俺たちの攻略みて分かったと思うが見失う事もないし負ける事も無いから心配しないでくれ」


「それ言われると俺達形なし」


「キミヒト達なら攻略山なし」


「それでも譲れる優しさ感激」


 なんかノリノリでうざいな。無駄にポーズ決めてくるから余計に腹立たしいわ。こいつらにずっと腹立ってるな俺。イケメン男色家っていうのが響きすぎてるんだよ。ただのイケメンならたぶんここまで腹立たない。


「冗談抜きでありがとな。でもずっと後から来てくれていいぜ、階層またいだところで待ってるからよ」


 ロンドのメンバーはその言葉を残し先に進んでいく。回復アイテムとか必要なものは渡したが、かさばるものはまだ俺が持ってる。そこは気持ちよく攻略できるように提案させてもらった。


 というか若干死亡フラグみたいに聞こえるから感謝の言葉は聞きたくなかったぜ。


「あいつら攻略出来ると思うか?」


 なので俺たちの頼れる相談役のクロエに尋ねてみる。


「大丈夫よ。こっそりバフかけといたから」


 おうまじかよ。あいつらと会話全くしてなかったのになんだかんだでクロエ優しくて好き。彼らも戦えば体の調子が良くてバフかけられたことに気付くだろう。


 一緒にここまで来たんだ、少しくらい手伝わせてくれ。そう思っていたのが俺だけじゃなくて素直に嬉しい。


「じゃあ、俺達も少し待ってから行くか」


「いえー」


 この二十八階層は前人未到の地。ここまでの魔物は全部高くてもBランク止まりだった。数匹の群れで襲ってくることもあったが所詮はダンジョンの魔物、外のように連携を取って襲ってくることはほぼない。


 ダンジョンの魔物は外に比べて知能が低い。それは狩猟をするために知恵を絞る事がないからだ。知恵を絞らず自分の力のみで蹂躙する、それだけでいい。


 ダンジョンにはよくある魔素と呼ばれるものが充満し、魔物の原動力になっている。それは階層が深まれば濃くなるし、魔物も影響を受けて強くなる。


 そのため魔物の本能とも呼ばれる狂暴性が増しただの殺戮マシーンとなって襲い掛かって来る。友好的な魔物はダンジョンの中には存在しない。


 そのせいかクロエが使うような魅了はほぼ効果がない。あれは感情を揺さぶると言っていたが、もともと感情が狂暴性しかない魔物には効果が薄くなるらしい。


 その分外での力は絶大だが。


 そしてあかねはこのダンジョンに充満している魔素を散らせるのだからかなりのチート持ちだと思う。さらに意思疎通なら戦わずにやりすごせるっていうね。


 こいつの能力は底が見えませんね。戦う事より逃げる事に特化してるのが勇者から外された原因かもしれないな。


「あかね、この階層の魔素散らしたらどうなる?」


「んー、一週間くらいしたら魔物が弱くなるくらいかな。今いる魔物には影響しない。それにそのうち戻るし」


 どうやら階層を一気に弱体化とかそんな都合のいい能力じゃないようだ。屑鉄のダンジョンでは間引きしながら魔素散らして攻略していたらしい。


 そして引きこもってからはずっと魔素を散らし続けて安全を保っていたと。スキルの無駄遣いなんてレベルじゃないだろ。魔素が弱ってれば敵も弱くなるけど、そこに罠とか仕掛けて安全確保とかなにがしたかったのか。


 どれだけ人を避けたかったんだよ。ていうかもしかしてあそこの難易度高すぎるんじゃなかろうか。


「最後の階層がカラッポだったから良かったけどその前の階層は地獄かと思ったね。スケルトンは意思がが全くないから意志疎通して言うこときかせてなんとかなったけど生きた心地がしなかったよ」


 やばかったらしい。戻るのも怖かったし行くしかないと突っ切った根性は褒めて良いと思う。だからあんな殺意高いトラップおいてたのか?


「キミヒト、なんか聴こえる」


「ん?」


 イリスに服を掴まれ軽く引っ張られる。この仕草好きだよ。しかし耳を澄ますが何も聴こえない。エルフは耳良さそうだもんな。


 というわけで透視を起動してロンドの連中が向かった先を調べてみる。それと同時に俺達も移動を開始する。


「かなり複雑な構造してるな……」


 魔素が濃いためか、ダンジョンの壁に流れている魔力が非常に強い。透視で透かすのが非常に面倒な感じだ。というか初期の頃だったらたぶん見えなかっただろうなこれ。


 そして透視で見えるのと、俺にも声が聴こえてくるのは同時だった。


「くそっ! こいつら強いぞ」


「ダンジョンで連携攻撃とかシャレにならん」


「誘い込まれてしまったな」


 そして聴こえてくるのは壁の向こう側。透視的にはすぐ目の前だ。ロンドの彼らがゴブリンのような魔物に囲まれているのが確認出来る。


 その数は……三十くらいいると思う。プチモンスターハウスだ。


 彼らが迂闊にそんな場所に飛び込むとは考えづらい。罠で転移でもさせられたのだろうか。


 ていうか助けないと死ぬぞこれ。多勢に無勢すぎる。


「キミヒト、下がる」


 イリスもそう思ったのか呪文の詠唱を始める。結構ガチな奴っぽい。


「破壊の力を顕現し、威力をもって蹂躙せよ。かなり強めでお願い。ロックブラスト」


 ズガガガと道路工事をしているかのような轟音が響く。俺達に破片が飛び散らない様に防護壁も張ってくれる至れり尽くせりぶり。


 しかし壁にはすこし傷がついた程度でびくともしていなかった。ダンジョンの壁硬すぎる。


「むぅ。硬い」


 詠唱を入れたイリスの火力で壊せないなら最短距離で向かうのは不可能だ。しかし回り道をしていたら彼らは確実に死ぬだろう。


 仕方ない。俺が行くか。


「クロエ、あかね、警戒しながらあいつらの所に向かってくれ。回り道になるだろうがなるべく早く頼む」


 俺はみんなにそう指示をだす。クロエとあかねなら冷静に向かってきてくれるだろう。


「キミヒトはどうするのよ」


「俺? 俺は真っすぐ行く」


「ちょっとキミヒト君!?」


 みんな静止を振り切って俺は壁に向かって手を伸ばす。今までは動きながらこの能力を使ったことは無い。必ず両足が地面についた状態で発動してきた。


 そして確実に先が見える事を確認しながら安全に行ってきた。


 やろうとしたことはある。


 それでも失敗した時、俺の体が今までの物のように壊れてしまうんじゃないかと躊躇してきた。もしくは地面の中におちるのではないかと。その恐怖から俺は一度も成功させたことは無かった。


 しかし友達の危機を救うのに躊躇なんてしていられるわけがない。


 やれるかどうかじゃあない。


 やるしかない。


「スキル『透過』」


 『トオシ』の能力を使い俺は身の回りにあるもの、服や武器も体の一部と認識し、全身を透過させ壁の中に沈ませていく。


その光景はかなり不気味だろう。俺だってめちゃくちゃ怖い。


「キミヒトさん!?」


 フラフィーが駆け寄ってきて俺に触れようとする。しかしその手は俺の体を素通りする。俺は何か声をかけてやりたかったが、集中するのに全神経を使っていて声を出す事が出来なかった。


「フラフィー! 私たちは回り込むわよ! キミヒトを助けに行かないと!」


「ケモミミ、急ぐ」


 ああ、流石クロエとイリス。俺がやろうとしている事、そして向こうに俺が行ったとしても大して時間が稼げないことに気付いたのだろう。


 そうだよ、俺はあの三人を守りながら一人で戦い抜くことは出来ない。イリスのような大技も、クロエのような支援魔法も、フラフィーのような防御力も、あかねのような範囲を無力化することも出来ない。


 頼んだぜ、愛しのロリたち。

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