第31話 言い訳はここまでにしよう

 さてじゃああかねの呪いを解いていこうと思うがどういったアプローチをかけていこうかな。普通の女の子っぽいけどどう考えても頭おかしいからな。


 それにいきなり呪いを解くことはできないと思う。というかやったら精神崩壊しかねない。俺は自分の記憶にかなり違和感を持ちながら、さらに不屈のスキルを持っていて平常心を保つことができた。


 精神攻撃をある種の精神攻撃で打ち消すわけだからな。何も備えがない状態でどこまで耐えられるかはわからない。賭けに出て理性を無くすようなことになったら目も当てられないしかわいそうだ。


 被害を出したくないから助けるんじゃない。助けたいから助けるんだ。


「なああかね」


「何、キミヒト君」


 キミヒト君!? あ、良い。すごくいいよその響き。幼馴染とか同級生とかそんな感じある。ロリ属性だけじゃないかもしれないぞ俺。


 どうしよう、俺もあかねちゃんって呼んだ方がいいかな。うわ考えただけで恥ずかしくなるな。初々しいって言うかなんかまじもんの中学生みたいだ。


「どうしたの?」


「いやなんでもない。ただ少し新鮮味を感じただけだ」


「ふーん」


 さてここで問題だ。流れ的には口説きつつ心の隙間を開いていきたい。そうすることで防御が甘くなり俺の言葉に耳を傾けやすくなるだろう。


 そうすれば王城の連中が呪いをかけていたって話した時に信憑性が増してくるはずだ。信頼関係を恋愛事情と置き換えて段階をすっとばす作戦だ。


 しかし、今俺の近くには全員いる。


 惨劇が起こるな?


 フラフィーは言わずもがな、イリスは絶対やらかす。クロエだけは信頼出来るけどどう転ぶかはわからん。


 うわぁ甘く見てたわ。ぱぱっとやってささっと解決! みたいな流れかと思ってたけど考えれば考えるほどきちぃ。


 精神が最初からいっちゃってれば無理やり解呪したんだけどな。どうなってもそれより悪くならないだろう的な感じで。


「で、キミヒトこの子をどうするの?」


「え?」


「え?」


 あれ、俺呪いの事は言ったけどあかねの呪い解くこと言ってなくない? 状況悪化したんだけど。忘れてた俺が悪いんだけどさ。


 いや待て俺はピンチをチャンスに変えられる男だ。むしろこれはみんなをあかねから遠ざけるチャンスと捉えればいいんじゃないか? うむそうしよう。


「あかね、タイム。みんな集合」


「うん? いってらっしゃい?」


 ぞろぞろとみんなを連れてあかねから充分に距離を取る。あかねは特に気にした風もなく作ったスープをちびちびと飲んでいる。


 くそうでかいローブを着てて萌え袖状態になって両手でカップ掴んでちまちま飲むとか俺の事を理解しすぎてる。そんなことされると好きになっちまうぜ。


 ただでさえ幼馴染キャラになりそうだってのにあんなの反則すぎるだろ。可愛い。俺はそういう仕草にも弱いんだ気をつけろ!


 ってか召喚されて顔とかも若干美形に修正されてるんだよな。俺の顔も自分で見た時若返ってるのはわかったけど少しイケメンになってたわ。骨の形が整えられたというかそんな感じで。


 おかげであかねもそういった補正がかかってるのか知らないが見た目は普通に可愛い。ああ、ハーレムパーティが出来上がっていくけど妙な属性持っていませんように。


「さてみんなに集まってもらったのはあかねの事だ。実はあかねも呪いを受けている。それで俺は解こうと思うんだが」


 かくかくしかじかと俺が考えていたことを伝える。主にあかねのスキルの事と呪いを解いてあげたいと言う気持ち。


 下手に好意を持っていると誤解されたくないので良心に訴えかけるように呪いの辛さをもう一度みんなに伝える。なんだかんだ人が良いこの子達なら了承してくれるはず。


「方法はあるの?」


「ある。だけどいきなり解いたら精神が持たないかもしれない。だから信頼を得て俺の言うことがある程度正しいって思わせたい。変な意味じゃなくな」


「それこそクロエさんの魅了を使ってしまえばいいのでは?」


 フラフィーが名案を投げかけてくる。確かに!


「だめよ。私のは精神を操るというよりは感情を高ぶらせるものだもの。それに大規模に呪いがかけられたみたいだし私の魅了より効果は高いでしょう。もし魅了かけて解呪したら最悪死ぬわ」


 ダメか。呪い解いた瞬間の感情のふり幅やばかったもんな。体感した俺だからわかるけどあれが強くなったらたぶん持たない。


 それやって精神壊れないなら最初から呪いにかからないほどの強靭さを持っているだろう。流石にあかねはそう見えない。


「キミヒト、何か考えある?」


「考えられる方法はあるが……」


「どうせ口説くんですよね」


 フラフィーの蔑んだ目、癖になりそうだな。


「それは最終手段だな。ダメだった時の」


「へぇ、やっぱりそうだったんですね。でも他にもちゃんと作戦考えてるとか成長しましたね」


 まだヤンデレ抜けきってないのか。爆弾抱えて過ごしてる気分なんだがいつまで口説き文句を抑えていればいいのだろうか。ずっと抑えてろって話もあるが俺にその選択肢はない。


 作戦は恋愛感情に訴えないなら普通に信頼関係を結ぶのが手っ取り早い。時間はかかるがそれなりに勝率の高い作戦だと思う。


 ただしこれをする場合、今の勇者たちを助けることがさらに難しくなるだろう。このタイミングであかねに会えたなら、王都から魔王のところに行くのを待ち伏せ出来る。


 しかし信頼関係を結ぶのに時間がかかったら待ち伏せは無理だろう。足取りを追いながら行くとしてもたぶん追いつけないからだ。倫理観を失って王城の手足となって働くとしたら最短距離で突撃するのは間違いない。


 王都としても自分の国で魔王を倒したいと宣言したいから勇者召喚したんだろうし、数か月みっちり鍛えたからには急ぐことだろう。


 あかねが見つからなかったら努力目標にしたかもしれないが、ここで見つけたならやるしかないだろう。


 という言い訳はここまでにしよう。俺はただあかねを口説き倒したいんだ。


「というわけで俺とあかねを二人だけにしてくれないか」


「なにがというわけなのかさっぱりなんですが?」


「今から信頼関係を結ぼうと思ってな。逆に聞くけど、信頼関係結ぶときに初めて会った人いたら緊張してそれどころじゃなくない?」


「む……確かに」


 フラフィーは俺のそれっぽい言葉に対して考える素振りを見せる。あいかわらずちょろくて助かる。


「それにどのくらい覚えてるかもしっかり聞き出す必要もある。故郷の話とかも聞いたりしてな。思い出話で盛り上がればそこそこ信頼関係結べるだろ?」


「そう、ですね。わかりました。私は家の掃除を引き続き行っています」


 そしてフラフィーはあかねに断りを入れて家の掃除に向かった。よしばっちりだ。あまりの素直さにびっくりだぜ。あとはクロエとイリスだが。


「私は聞いてても良い」


「良くないよ!? なんで断定したの!?」


 イリスが離れる気はないと告げてくる。どうやらクロエもそのつもりのようだ。やはり二人は一筋縄ではいかないようだ。


「キミヒト、別に邪魔する気じゃない」


「というと?」


「いい、キミヒト? あなたがあかねと信頼関係を結ぶとしましょう。それこそ故郷の話でもなんでもいいわ。でもこっちに来てからあなたが何してたかわからないんじゃ不安にならない?」


 そういえばそうかもしれない。一緒に召喚されたとはいえそんなに知った仲なわけじゃないんだ。俺も思ったけどあかねだってそうだよな。俺は焦っていたのかもしれない。


 それなのに信頼関係結ぼうとかちょっと人の心を簡単に考え過ぎてる。フラフィーがチョロすぎて感覚が麻痺してたな。反省しないと。あとでフラフィーには意味もなくお仕置きしておこう。


「それでキミヒトがこの世界で私たちを助けてくれた話をするの。あなたが王都で孤児院助けてたことも証言出来るし子ども達に好かれてたことも伝えられる」


「キミヒト、鬼畜だけど良い人」


 そうだよな、主観的意見だけじゃなく客観的な意見を取り入れることは大事だ。一人が言うんじゃ怪しいが、それが二人、三人となっていけば嘘だろうと信じされることが出来るだろう。詐欺の手口だが。


「そうだな、わかった。協力たのむ」


「任せて」


「任せなさい」


 俺も丸め込まれた気がするけどそれは気のせいだろう。実際に利があるのは確かなわけだし。うん、そういうことにしておこう。


 こうしてまたフラフィーだけ取り残して俺たちは絆を固くする。

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