第32話 私利私欲に満ちた異世界生活

「おーけーあかね。またせたな」


 スープを飲んでまったりしたせいかあかねは少し眠そうだった。そういえば時間的に結構遅いような気がする。いや朝早いのか? ダンジョンの中だから感覚が結構わからんな。


 もしいつも寝てる時間なら悪かったな。夜中にメールとか電話するのって結構気が引けるよな。実際友達とかから来ると嬉しかったりするけど自分からはしないタイプだったわ。


「おーけーだよ。それでなんだっけ?」


「そうそう、王都にいた時の記憶ってどんな感じよ。他の勇者たちどうしてるかなーって思ってさ」


「うん? ずっと一緒だったから知ってるでしょ。他の勇者は何してるか知らないし」


「それがさ、十三番いただろ? あいつがどうやら結構派手にやってるらしくてさ」


「へーそうなんだ」


 あたりさわりのない話を振り続ける。とりあえずちょこちょこ話しながらあかねから話を切り出すのを待つスタイルだ。このひきこもり娘はあんまり人に興味がなさそうな気がする。


 いやひきこもりなんてみんなそんなもんだが。それにしては俺のことほとんど聞かなかったし名前を聞いたのも俺からだ。もう少し興味持っても良いと思うんだ。


「そういや俺訓練の時気を失ってたりしたんだけど、あかねってどんな訓練してたか覚えてる?」


 俺が訓練で気を失っていたことはない。しかしねつ造された記憶の中には訓練中に倒れたとか一般的な訓練の記憶がねじ込まれていた。


 その辺の記憶についてあかねはどんな感じになっているのだろうか。


「あー、確かにキミヒト君結構倒されてたねー。不屈のスキル持ちがだらしないとかなんとか言われて。懐かしいなー」


 どうやら一緒の記憶を植え付けられているらしい。となると王城にいるときの記憶でおかしく思わせるのは無理か。


「っていうかずっと気になってたんだけどクロエちゃんとイリスちゃんだっけ? この二人はどうしたの?」


 それ、その質問待ってた。ここからが勝負どころだ。


「捕まってるところを助けたんだ」


「助けられた」


「ええ、盗賊に捕まってたところを助けてもらって命拾いしたわ」


 実際には十三番の仕業だが、今は言う必要はないだろう。問題はそこじゃない。これで判断したいのはあかねの良心がどれだけ残っているかだ。


「そうなんだ。大変だったね」


 特になんの感情もなく言ってのけるあかねは異常だった。ぱっと見幼女にしか見えない二人が捕まってるとなれば多少なりとも心は動くはずだ。


 それが平和な日本から来た俺達ならなおさら。ロリコンが住み辛かったのは子どもが法的に守られている存在だと言うのと、見た目的に良心をかなり揺さぶられるからだ。


 それなのにあかねは何の感情も示さない。やはり呪いの力は倫理観を排除している。俺の場合は多少残っていたことと、幼女に対する愛情で動くことが出来たがあかねが俺と同じ立場ったら助けない可能性が高い。


 もちろん呪いを解けば助けるように行動するだろう。自分で行かないにしても心を痛めたり、今なら俺に相談くらいはしてくるようになるはずだ。


 もともとサイコパス気味だったらその限りではないが。


「あかねは幼女が盗賊に捕まってるって聞いて何か思わない?」


「何かって?」


「日本にいた時だとニュースとかでそういう報道いっぱいあっただろ? 被害者目の前にしてるにしては落ち着いてるなーと」


 少し言い方が悪いが感情を揺らそうとしているのだからこのくらいの言いかたで丁度いいだろう。普通なら被害者目の前にしてそういうこと言ってるお前がおかしいとなる。


「確かに……おちついてる私。いやでも異世界に来たし常識変わっても普通じゃない? 魔物もいるし」


 少し違和感を感じたようだがそこまで強い違和感じゃないんだろう。確かに異世界に来て魔物や盗賊が普通に存在する世界ならこんなもんと思うのも仕方がない。


 でも、本人目の前にして捕まっても普通だよねという感想はぶっこわれてる。少しは良心がなくなってることに気づくかと思ったがそんな気配は微塵もない。


 呪いの侵され具合は想像以上にやばいものかもしれない。ならちょっと強めに言ってみるか。


「あかねだったら助けたか?」


「私だったら? 盗賊たちと戦ったんだよね? うーん、無理そうだし助けないかな。というかなんでキミヒト君は助けたの?」


「俺はそれが普通だと思ったからだ。やれると思ったのもあるが、俺はロリコンだからな。幼女を助けるのは当然だ」


「あはは、何それうける」


 ここで自分にとって大事な人がいると俺はしっかりと伝える。自分が行動する原理を。それならいまのあかねにそんな人物が存在するか。答えは明白だった。


「あかねもこの人だったら助けたいって人くらいいるんじゃないか? 無理でも友達とかだったら助けたいとは思うだろ」


「思わないよ。……え? なんで思わないの……?」


 あかねは大事だと思える人がいないということに気付いたようだ。そう、実際にやるかどうかは問題じゃない。考えることをするかどうかだ。


 そしてあかねはちゃんと良心が存在する子でよかった。これで最初から良心ないタイプの女の子だったらどうしようかと思ったわ。


 そしたら仲間にする以前の問題というか呪い解いても何も変わらんみたいな状態になるところだった。ああ、人が死んだね、だから問題ある? みたいな。


「俺は助けた時、二人を助けてよかったと心底思ったよ」


「私たちは人から嫌われてる種族なの。それでもキミヒトは私たちを助けてくれて、一緒にいてくれるって言ってくれて本当に感謝しているの」


「至上の感謝」


 二人が本当に俺に感謝しているのがわかったのだろう。命の危機を救った感謝の言葉は自分に向けられていなくても説得力がある。


 それは良心から来る安堵。今のあかねにはほとんど存在しないものだ。


「え? 私ってこんなに冷たかったっけ……?」


 あかねは自分の感情がちぐはぐになっていることに違和感を持ち始めている。ここから一気にたたみかける。


 二人と出会ってすごく楽しかったこと、一緒にいると幸せになること。ロリコン的な意味だけでなく人間的に満たされていることを三人で細かく話す。


 そしてさっきは伝えなかった、二人を捕まえたのが本当は盗賊じゃなくて十三番だったことを伝える。


「嘘! だって私たちと一緒に訓練してたじゃない! その後は他の子達と一緒に魔王討伐するためのパーティに入るって! 兵士の人たちが言ってたじゃない!」


 さっきの流れではたぶん普通にそうなんだで終わっただろう。だが自分に違和感を持っている今ならそれを否定したくなる。


 それは自分が同じようなことをしてもおかしくないという強迫観念にとらわれているからだ。そして実際にやっても心が痛まないという事実に驚いてもいる表情でもあった。


「どうやら洗脳されてたみたいなんだ」


「せん……のう……?」


「あぁ、どうやら俺たちは倫理観を消されていたらしい。このメモは過去に召喚された勇者のメモだ」


 ここまでくれば、俺と同じ条件だ。それが人からもたらされるか自分で気づいたかの違いしかない。あかねは日本語で書かれたその文字を読むにつれて体が震えていた。


「あかね、最後に書かれている呪文。使って良いぞ」


「……」


 メモに描かれた使い捨ての呪文。あかねはおそるおそる触れながら起動する。


「あぁ……あああああああああ!」


 そしてあかねは気を失った。


「ねぇキミヒト、大丈夫かしら?」


「たぶん……。最初からいきなり解呪するよりかはずいぶんましなはずだ」


 なるようにしかならないだろう。これで失敗だったらその時はその時。潔く勇者の事は諦めてロリ達と共に私利私欲に満ちた異世界生活を楽しもう。


 ……こう考えるとそっちの方がいいような気がしてくるから困るな。


 気を失ったあかねを抱え、フラフィーが綺麗にした小屋の中に入っていく。


「キミヒトさん! 終わりましたか……ってなんで二人も一緒なんですか? ねぇなんで私だけのけ者にしたんですか? あれ? 私は二人だけにしてほしいって言うから小屋の掃除を始めたんですが? え? 何でですか? 理解できない私がおかしいんですか? 答えてくださいよ。結局三人でいたいんですか? 私はおはらいばこでその女入れて四人ですか? 私はなんのためにいるんですか? 死んでやる!」


 ヒートアップするフラフィーをまたクロエに任せてあかねを寝室で寝かすことにした。イリスは綺麗になった小屋をみて関心していた。


 そして俺はまた土下座しながらフラフィーに謝り続けることになった。その反応が見られただけで俺は満足だよ。良い反応返してくれてありがとうフラフィー。おかげで俺の理性はこれからも安泰だと思えるよ。

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