第30話 異常なその光景

 日本語か。となると思い当たる節はそこまで多くはないな。二番、一三番、もしくは過去の勇者の生き残り。魔王討伐に向かう勇者たちはまだ王城で訓練しているはずだ。


 つまり望む確率がそれなりにある。さらに十三番という線も低い。奴隷狩りしているようなやつがこんなところに拠点を持つだろうか。しかもエルフを狩るほどの猛者を。


 十三番を飼い慣らしているやつは間違いなく手元に置いているだろう。実力者やアサシンを使う場合はすぐに指示を出せるところに置いておくのがベターだ。


 俺だったらそうする。たぶん、誰でも。


 となると問題は過去の勇者だった場合だ。あのメモを残した人物だったらものすごい助かるが、その可能性はあるかどうか。


 うん、考えてもわからん。とりあえず会話だな。


「元勇者の者だ」


 当然、選択するのは日本語だ。


「あなたは……もしかして十八番?」


「ってことはもしかして二番か……?」


 扉が少しだけ開いてこちらをうかがう目と出会う。間違いなく俺の記憶にあるとおりの二番の姿だ。よかった。過去の勇者だったらちょっと怖かったところだ。


 色々情報が聞けるのは確かだが、ダンジョンに迷彩された部屋を作り出す人物とはもう少し心の準備をしてから会いたいものだ。


「どうしてあなたがここに……?」


「色々わけありでな。王都からは出ることにした。というかお前こそ」


 二番がここにいた理由はなんだろうか。確かにケイブロットは来やすい場所だし足を運んだのは理由になると思う。偶然にしては出来すぎだが。


 数多くあるダンジョンの中でのこの出会いは怪しさを感じさせるには充分だ。もしかしたらここで何か別の使命を帯びているという可能性もある。


 確かに二番と俺は捨てられるという話だった。しかし城を出るタイミングが違った以上は本当かどうかはわからない。


 もしかしたら本当に捨てられたのは俺だけで、二番は十三番みたく別働隊として行動させられているんじゃ……?


 疑惑が疑惑を呼びかなり緊張してきた。


「私は、人と関わりたくないからひきこもってる」


「……」


 ただのひきこもりか。


「ここは人が来ないからとても便利。魔物も言うこと聞かせられたし、私のスキルでこの辺りはとても平和に出来た」


「……」


 ひきこもるために魔物おっぱらったの? アクティブってレベルじゃねえぞ。


「でも意外。ここまで来られるなんて。罠もいっぱいあったでしょ? 自信作だったのに」


「お前の仕業かよ……」


 狂ってやがる。ダンジョンを要塞にでもするつもりだろうか。いやそれにしてはかなり平和……なのはここだけで上はやばいか。


「それでなんの用?」


「いや、用って言うかダンジョン攻略中っていうか」


 どうしたものかなこれ。扉は決して最後まで開けようとしないから強引に話をするわけにも行かないし、ものすごい警戒されてるぞ。俺仲間だと思ってたんだけど。


「じゃあ諦めて帰って」


「それでもいいんだけど……ちょっと休憩させてくれないか?」


「だめ」


 拒まれた。なんだ、人を中に入れたくない理由でもあるのだろうか。俄然興味が沸いてきたぞ。そしてこの警戒心、もしかしたらひきこもりなのは借りの姿で本当の目的は別にあるかもしれない。


 すこし強引に言ってみるか。


「なあもしかしてなんだけど、入ったら何かまずいのか?」


「まずくない問題ないとても綺麗」


「じゃあ入れてくれないか?」


「断る」


 かたくな。やっぱり何か隠された使命を帯びているのかもしれない。俺がどうしたものかと思案しているとイリスがおもむろに扉に手をかける。


「ここがあの女のハウスね」


「お前こいつ知らないだろ」


 そしてそのまま思いっきり開ける。


 異臭がした。


 俺とイリスはとっさに後ろに下がって構える。


 そこには確かに二番と呼ばれる少女が立っていた。


 異臭を放つ、その場所に。


 明らかに異常なその光景の中、当然のようにたたずむ姿。


 俺が今まで見た中でも明らかに不自然。


 日本で暮らしている時にもこんな光景は見たことがない。


 いや、テレビで報道されていたことはあるかもしれない。


 それでも俺は実際に見ることは初めてだった。


 そこはいわゆる。


 ゴミ屋敷だった。


「くさい」


「二番……お前……」


「だから帰ってって言ったのに……。入れる状態じゃないから」


 片付けできない女かよこいつ。無駄にシリアスな雰囲気出して警戒めっちゃしたのに。何が隠された使命だよ。いや待て元からこうだった可能性もワンチャン。


「外に捨てるのすらめんどくさくて放置してたらこうなっちゃった」


 自白されました。どうしてこうなるまでほおっておいたんだ。生ごみ外に捨てるくらいは出来るだろう? ここダンジョンなんだからそれくらい惜しまずやれ。


「というかキミヒト、私たちにもわかるように話してくれる?」


「あ、ごめん」


 そういえば日本語で話すとクロエ達には何もわからないな。でも家がこんな有様だと二番を警戒するのは非常に馬鹿らしく思える。結構長いこと住んでないとこんな風にはならないだろう。


 仕方がないので外にテントをつぶした状態で置いてみんなが座れるスペースを作る。ついでに食事の用意でもしながら話をするか。


「こっちから聞いていいか?」


「いいよ、って言ってもそんなに話すことないけど」


 どうやら二番は追放されたあとまっすぐここに向かったらしい。王城の宿屋は人がいるし落ち着かないからダンジョンに潜ろうとしていたらしい。当然ソロで。


 しかしどこのダンジョンに潜っても人が多く、ひきこもりを満喫することが出来ないでいたある日、この屑鉄のダンジョンの事を知ったらしい。


 俺たちはこのダンジョンの事を給仕に聞いたし地図も買った。しかし二番は人と話すことを嫌っていたのでダンジョンはしらみつぶしにしていたとのこと。


 誰もいない現状に満足したが、魔物が結構強くて面倒になったらしい。


「そういや上の方の階層の魔物強かったけどどうしたんだ?」


「スキルで押しとおった」


「さいですか」


 二番のスキルは『解放』のほかに『意思疎通』というものがある。人間相手だけでなく動物相手には使えていたが、たしか魔物には使えなかったと思ったが。


「わかんない。王城でてからこっちにくるまでいろんな動物仲間にしたから出来るようになったのかも。なんだかテイマーになったみたいで楽しかったよ」


 確かに意思疎通して仲間にするのはテイマーっぽいな。スケルトンにも効くって時点で黒魔術的な何かになってしまうが。


 動物を仲間にすることが出来ます。メルヘンかわいー。


 魔物も仲間にできます。テイマーやったー。


 スケルトンやゾンビも仲間にできます。はい黒魔術。


 みたいな。いや偏見かもしらんけど。


「よくそれだけでここまでこれたな」


「うーん、結構大変だけど頑張った」


 やはり追放されたとはいえ勇者。この世界の住人に比べると戦闘能力が段違いに高い。第三グループで最後まで生き残ったから当然と言えば当然だけど。


 どうやら危険はないらしい。クロエも一緒に話を聞いて嘘が無いかを二人で見ていたが特に問題はなし。敵意も感じなかったしまじで家の中を見られたくなかっただけっぽい。


「あ、でもあのオーラ出してるスケルトンは死ぬかと思った」


「あいつはやばかったな……」


 意思疎通をもってしても無駄だったらしい。仕方ないので他のスケルトンに足止めさせ全力で突っ走って逃げたようだ。よく生きてたな。


「それでこの家はどうしたんだよ」


「最初からあったよ。荒れ放題の土地だったけど、汚染されてる土地を『解放』してあげたらだいぶ綺麗になった。他の階層にも影響でて魔物も弱くなっちゃったけど」


 あー、階層下がって弱くなったのはここが基準か。っていうか範囲広くないか。敵が弱くなったのは七階層あたりからってことを考えると異常だぞ。


「あと食事とかどうしてたんだ?」


「水なら濾過装置があるからそれで。食料は畑からとってる。どうしても、どうしても足りないときは街にいってるよ」


「え、結構かからないか?」


「ダンジョンコアおいてあるから一瞬だよ。帰りはめんどくさいけど」


 完全にここが家になってやがる。ここに帰るってお前ひきこもり度合が高すぎるだろ。お金は探索者としてドロップアイテムを売って稼いだらしい。銀取れるしなここ。


 敵も弱体化してればそれは余裕すぎるだろう。聞けば探索者ランクは俺達よりもはるかに高いAランク。一瞬で街に行けるからめちゃくちゃデカい鞄にドロップアイテム詰めて持っていくのを何回かしてたらそうなったとのことだった。


 そんだけ金あるならここのゴミ捨てどうにかしろよ。


「キミヒト、準備おっけー」


「つ、疲れました」


 フラフィーとイリスには家の中のゴミを片っ端から外に出してもらっていた。フラフィーが無理やり押し出し、イリスが風魔法を使って換気して匂いもだいぶましになった。


「わーすごーい」


 すごーいじゃねえよ。


「これ全部ゴミで良いのか?」


「うん、必要なものとか貴重品は全部寝室。客間にはゴミしかないよ」


「そうか、イリス、ゴー!」


「ファイヤー!」


 積み上げられたゴミに向かってイリスが呪文を行使する。炎はゴミにまとわりつき瞬く間に燃え上がる。そして見事に燃やし尽くした。


「すごい、この子欲しい」


「やらん。イリスは俺のだ」


「うわ、ガチのロリコンじゃん」


「まあな」


「キミヒトは情熱的」


 イリスが俺に抱き着いてくる。この場合炎ぶっぱしたし情熱的なのはイリスだな。


 二番は俺たちのやり取りに若干引き気味だ。ロリコンはあんまり表立って活動できる世界じゃなかったもんな日本。まじで異世界最高すぎるわ。


「ところで二番」


「何、十八番」


 そういえば大事なことを忘れてたわ。


「名前なんていうの? 俺はキミヒト、こっちはイリスでこっちはクロエ、あそこで疲れ切ってるのがフラフィーだ」


 自己紹介してなかったね。ずっと二番って言うのも呼びづらいし番号で呼び合うのは距離を感じる。今は俺だけの感情だろうが、呪いを解けば二番も同じ感想を持つだろう。


「名前ね、私はあかね。この一軒家の主よ」


「ゴミ屋敷な」


「なんてことを! 私のお城に!」


「お城ならもっと綺麗に保ってくれ」


 簡単な自己紹介も終わり、みんなで食事もとった。


 あとはあかねの呪いを解くだけになった。

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