第22話 召喚直後

 女神の言葉を受け俺達は王城に召喚された。その場所は牢獄のように薄暗く、しかし魔法の明かりで視界は確保されていた。


 俺たちは全部で二十人程いたが、それ以上に兵隊が百人近くいた。物々しい雰囲気を出してはいたが誰も声を発していないのでやたら静かだった。


 俺と同時に死に、ここに召喚された人たちはまず周りを確認するというグループだった。謎の空間で女神が俺達をまとめて処理していた時、このグループはなんだか落ち着いていたというか受け入れていた。


 たぶんラノベとかで転生自体は知っていたけどまさか、という感じだったんじゃないだろうか。そしてスキルがもらえたことでとりあえずは生きていけるだろうとタカをくくっていた。


「ようこそ、勇者様方」


 すると奥から一人の女性が出てきた。きらびやかなドレスを着こみ、明らかにこの中で浮いていた。しかし声には不思議な魅力があり全員が女性を見る。どう見ても王女です本当にありがとうございます。


「私はこのグラン王国の王女、エリザベス・グランと申します。ではみなさん、あとはよろしく」


 王女はそれだけ告げると周りにいた兵士たちにすべてを丸投げにしたようだ。出てきた意味あった? 指示だけ出しに来たのだろうか、偉い人なのだろうし。


 その直後魔術師たちが謎の呪文を唱え始める。そして俺たちの足元にある魔法陣が紫色に明滅する。異世界から召喚された俺たちは特に何も反応はしていなかったが、見たことない人たちは苦しんでいた。


「ちっ、また混ざりものか」


「本当嫌になるな。処分するのもめんどくさいと言うのに」


「文句を言うな。この術式は改変のしようがない、ずっとこれでやってきたのだ。おい、連れて行け」


 そして数人が連れて行かれてしまった。誰かが声をあげようとしていたが、どうやら声を出せなくなっているらしい。それを見て俺も声を出そうとしてみるが全く声を出すことが出来ない。


 なんだ? この異世界召喚は?


「次だ、やれ」


 もう一度魔術師たちが前に出てきて今度は別の魔法を唱え始めた。そして残った俺たちはこのやり取りを忘れ、王国に都合の良い記憶に書き換えられ兵士、いや人型兵器としての教育をされていくことになった。



――――――――



「ぐ……」


 どうやら召喚直後からの記憶が書き換えられていたらしい。少しずつ記憶を思い出しているがここからはかなりの苦痛が伴いそうだと直感でわかる。


 一度目の魔術は異世界人以外を取り除くための魔術。連れて行かれた人たちは使用人とか故郷に帰されたと記憶に刻まれているが、実際は殺されているんだろう。


 なんてことだ。王都は完全に腐っているんじゃないか。


 イリスの暖かさを感じながら、痛む頭を押さえ呪いの効果を少しずつ打ち消していく。



――――――――



「さてまずはスキルのチェックからだ一番、こっちにこい」


 俺達には首から番号が下げられていた。まさに家畜のような扱いを受けながら、それでも従順に従って行く。


 偉そうにしている兵士の前には水晶玉のようなものとプレートが置かれている。一番と呼ばれた人物が触れるとそこに名前やステータス、スキルが表示されていく。


「ほう? 『勇なる者』に『聖なる者』か。当たりだろうな。ステータスも軒並み高い。下がってよし。次二番」


 そうして次々と番号が呼ばれ鑑定が行われていく。そこではレアなスキルを持っている人物たちは当たりと呼ばれ、平凡なスキルしか持たない者は外れと呼ばれ別々にされていく。


 異世界のスキルなため見たことないスキルもあったらしく、そういったものは第三グループに分けられていた。『解放』や『愚民』と言ったこっちの世界では使い方がわからない物がそれだ。


 俺はそのスキルをじっと見つめると、内容が把握できることに気付いた。


『解放:状態を解放する』


『愚民:推しを崇める』


 ただしくっそ使えないことしかわからん。なんの状態をどんな風に解放するのか。生きてる状態の者の魂を解放し対象を殺すとかだったらマジでやばいぞ。


 愚民に至ってはなんだよ。愚民じゃねえか。


 そして俺の番がくる。


「次、一八番。『不屈』と『トオシ』? 『不屈』は使えそうだがもう一つがわからんな。お前も第三グループだ」


 そして俺も第三グループに振り分けられることになった。その後全員が振り分けられると兵士はおもむろに一番のグループに告げた。


「ではお前から順番に外れグループのものを殺せ。ああ、数が足りんな。数人で囲んで刺し殺せ。『火属性特級』持ちの五番は死体を燃やせ」


 俺たちに緊張が走ることはなかった。外れグループにいた連中も、一番グループにいた連中も、もちろん第三グループの俺達もだ。


 ただただ作業のように刺しては殺し、焼いて処分。


 正直気が狂っているとしか思えない光景だがこの時の俺は何も疑問に感じることはなかった。


「よし、では一番ステータスを見せろ」


 一番のステータスは軒並み向上し、伸びもかなり良かったらしい。兵士は満足そうにうなずき一番グループのメンバーと共にどこかに去っていく。


「お前たちは使い物になるかわからんからな、実験だ」


 まずはスキルの名前からその特性を推測して確認していくようだ。どうやらテンプレのような鑑定持ちがいないか、もしくは存在しないかだ。


 俺はスキルの詳細を見ることが出来るが、役に立つことでもなく発言を許可されていないため伝える術はない。


 そして次々に確認されていくが、どうしても判断が付かない物や意味の分からない物を持っている人物はまた別に隔離された。


 しかしその中から一人だけ特別扱いされる人物がいた。


「お前は使えるな。おい、これを持って一番グループにこいつを混ぜてこい」


「はっ! かしこまりました!」


 その少女のスキルは『魔法服』というものだった。鑑定結果は魔法服を作り出すという簡潔な内容だったため用途はそれじゃわからない。


 しかし俺達実験グループは様々なデバフを受けたり魔法を食らわせられたりしていた。その十三番少女はそのことごとくを跳ね返し、無効化していた。しかし殴られた時は普通にダメージを受けていたが斬撃は耐えていた。


 耐えていたと言っても中に衝撃が伝わっているため少女の体はボロボロだっただろう。斬るだけはなく槍で突いたりもしたため骨すら折れているはずだ。しかし魔法を纏った剣や槍の攻撃は完全に無効化していた。


 たぶん魔法服というものが魔法に関するものを全て無効化しているんだろう。ちなみに少女が着ていた上着が魔法を無効化した後、俺はそれを着せられ魔法の直撃を受けた。


 魔法服の効力はそのスキルを持っている人物のみだと言うことがはっきりした。俺は食らい損だったから少女の特徴をしっかり覚えることにした。もし会うことがあったら魔法での攻撃は絶対に避ける。


 そして俺はというと、ひたすらに頑丈、それだけ。俺に服を着せられた理由の一つでもあるが、どれだけ攻撃を受けても何とか立てるくらいのダメージで済んでいる。


 相手が殺さないようにしているのもあるが、他の連中は普通に倒れたまま起きてこない。死屍累々と言った感じの中、俺と少女だけが立っていたためだ。


「こいつは……わからんな」


 ダメージは耐える、デバフも食らうが耐える。一見使えるように見えるため俺はさらに攻撃を受け続けた。


 結果、俺の両腕は一時的に無くなった。


 衝撃や打撃では立つことが可能だったが、腕を斬られたら流石にまともに立つことはできなくなった。これにより俺の『不屈』の効果はダメージを抑えるのではなく、ただ耐えるだけと判定された。


 さらに自己治癒能力の強化があるのかと期待もされたがそれも一切なし。怪我が消えることもなく、ただ腕を無くした状態で転がる無様な人間がそこにはあった。


 それが判明したあとは、斬られた腕をもう一度つなげられ俺はお払い箱になった。


 しかし幸運だったのは、ステータスがどれだけ伸びるかの経過も見ていたため剣術が鍛えられたことだろうか。


 また魔術により強引に一般兵士の能力を上書きされた時にはひどい頭痛がした。その時の兵士たちは俺達を化け物でも見るかのような目で見ていた。


「何度も記憶の書き換えを行ってもまだ理性を保ってられるなんて。やはり異世界人は頑丈ですね」


「ああ。だからこいつらを使って魔王を倒すんだよ。こいつらなら代わりはいくらでも呼べる。ある一定の能力ならすぐに書き込める、これ以上便利な駒があるかってことよ」


「こちらの世界の人間では一回もてばいい方ですからね。まあ、倫理的にどうだって話ですが」


「はっ、こいつらはこの世界の異物だ。人権なんてねえよ」


 兵士たちが会話をしているが俺たちはただただそれを聞いているだけだった。


 一般的な剣術を学び、理性のタガを外され魔物の群れに放り込まれた。そして何度かのレベルアップを繰り返し、仲間はさらに減っていた。


「ああ、こっちは全滅だな」


 第三グループで残ったのは二人。『解放』と『意思疎通』を持つ二番の少女と、『不屈』と『トオシ』を持つ一八番の俺。


「お前らは運が良かったな。ここでの記憶は忘れあとは好きにすればいい」


 大量の金貨を渡された俺たちは、別々の日に街に送り出された。もしも同時に送り出し、何かしらの記憶を思い出したら厄介だと思ったのだろうか。


 いやそれならわざわざ逃がさず殺せばいい。つまりは逃がしても問題ないくらいに厳重に魔術が施されていると言うことだろう。


 それに勇者召喚をしたと言う事実を公表していたとすれば、その広告塔にもなる。魔物の討伐やらの時はギルドのクエストだったらしい。


 ギルドの許可なく大量の魔物を討伐したら流石に問題になるだろう。だからこそ勇者が好き勝手やっているという印象と、それにより異常な力を持っているという印象を一般人たちに植え付けた。


 俺たちは完全に掌の上で泳がされていた。人権を無くし、尊厳を奪われ、良いように扱われ続けた勇者たち。人を助けるために呼び出されたにも関わらず、その人たちからは化け物と呼ばれる。


 この世界の王は完全に狂っている。


 そして厳重に記憶が改ざんされ、ふたをされる。二番と俺はこうして城から追放されることになった。

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