第21話 違和感の正体がはっきりした

 そこは安全地帯のようでモンスターの気配どころか誰かが立ち入った形跡すらも存在しなかった。俺たちは疲れていたこともありその広間で休むことにした。


「キミヒト、そのスクロール何が書いてあるの?」


「まだ読んでないが、誰かの残したメモみたいだぞ」


 ダンジョンには隠されたお宝がある。それは貴重品だったり武器だったり鉱石だったり。その中には当然呪文のスクロールだって存在する。


 しかしこの部屋の宝箱に入っていたのは誰かのメモだった。宝箱も良く見るとダンジョン産というよりは持ち込み品のように見える。


「俺はこれ読んでるからみんな休んでて良いぞ。今日はここで一泊しよう」


 階層をまたぐたびに少し休憩はしてきていたが、感覚的にそろそろ夜になる時間だ。疲れのピークも来ているしここで一泊するのが正解だろう。


 魔物除けの簡易結界やアイテムなど色々と用意したが、この場所なら結界だけ張っておけば充分だろう。持ち込み品の中からテントや泊まる道具一式を出してみんなを休ませる。


 特にフラフィーはステータスも低く恐怖を一番最初に体感しただけあって消耗が激しい。俺に一言告げてクロエと共に就寝体勢に入った。


「キミヒト、私も一緒に見張る」


「いや、大丈夫だ。イリスがいると心強いのは間違いないが魔物が立ち寄った形跡もない。たぶん俺たちが初めて入った場所だろう。だから見張りは俺一人で充分だよ」


「それでも」


 イリスは絶対に折れないという意思を感じさせるまなざしで見つめてくる。どうしてもこのメモに集中したいのもあり、提案を受け入れることにする。


「わかった、じゃあ膝貸してやるから大人しくしててくれ」


「?」


 何故膝を貸されるのかわからなさそうな顔をしているが、普通に頭を乗せてくる。うん、可愛い。これでこのメモに何が書かれていようとも俺は冷静さを保つことが出来るだろう。


 そう、このメモ帳にはおかしな点があった。


 この文字はこの世界で一般的に使われている文字ではない。


 魔法に使われている文字でもない。


 古語とかそういった書物に使われている文字でもない。


 日本語だった。


「もし俺が何かあった時は頼むな?」


「よくわからないけど頼まれた」


 数日一緒にいただけだがイリスは俺に良く懐いてくれている。スキンシップもそれなりにあるくらいだし信頼もされている。へたれと言う程度には。


 だが、このメモには嫌な予感しかしない。わざわざ日本語で書くってことはこの世界の人たちに読まれたくないって事だろう。女神の力によって言葉を話すことはもちろん文字の読み書きだって習得している。


 全員に残したいなら間違いなくそっちを選択するはずだ。すこし怖い気持ちになりながらも俺はメモを読み始める。


『この文字が読めるだろうか。いやそんなことはどうでもいい。君は異世界からきた人物だろうか。私は日本という国から来た転生者だ。内容がわかる人に読まれていることを願う。


 君は王都の城で召喚された者だろうか。もしそうであればこのメモを最後まで読んでほしい。私は敵じゃない。ただ、味方であるかはもうわからない。だがここに書いてあることは真実だ。


 まず君は王城に対して良い想いしか持っていないだろうと思う。君を無理やり召喚し、特訓と称し拷問まがいな訓練をやらされ、無理やり魔法を行使されたにも関わらずだ。


 この認識には間違いないだろう。君が王都で召喚されたというのならば』


 衝撃だった。ここに書いてあることが嘘か本当か、普通なら区別のつけようがないだろう。でも俺にはこれが真実だとわかってしまう。


 どうやら俺の能力であるトオシは嘘か本当かを文字でも判別できるようだ。見通しているということだろうか。


 しかし、この文章は明らかに王都に対し敵対心を抱いていることが感じられる。そして俺はそれに対して妙な気持になっている。ここに書かれている通り俺は王城の人たちに対して不快な思いを全く抱いていないからだ。


 奴隷魔術をいきなりぶっ放され、常識を塗り替える魔術を受けたこともある。それなのに危機感どころか嫌な気持ちが全く沸かない。どう考えてもおかしい。


 俺の違和感はここにきてピークに達していた。


『召喚直後に受けた奴隷魔術。城の連中は強い奴らには効かないと言っていたがあれは本当は逆だ。強い連中にしか効果がない。どこで手に入れた魔術かは知らないが、俺たちは城の連中に良いように使われていたんだ。


 あの魔術は危険だ。抵抗出来た人物は私が確認した限りでは誰もいなかった。私がこうやって真実にたどり着けたことすら偶然だ。本当は死ぬはずだったがスキルの力によって蘇った。


 そして一度死んだことで私にかけられていた魔術や呪い、バッドステータスは全て破棄された。そして思い出した、本当のことを。


 よく聞いてほしい。そしてその呪いを解く方法はここに記しておく』


 ここに書いてあることが本当なら、この人は過去に召喚された勇者だろう。俺と同じ状況な事は間違いない。そして城の人たちは過去に何度も召喚を行っているようなことを言っていた。


 このメモの人物から言わせると犠牲者たちなのだろう。その後に書かれていたことは、城で行われた残虐非道の数々、訓練と称された拷問。そして記憶の改ざん。今まで感じていた違和感の正体がはっきりした。


 この文章を読んでいるうちに俺は体が震えそうになるのを必死で押さえていた。膝の上にイリスが乗っていなかったら吐いていたかもしれない。


 イリスの頭をなでながら平静を取り戻す。


「呪いの解き方か……」


 メモの最後には細かい呪文の羅列があった。そこに魔力を流せば呪いを解くことが出来ると書いてあったが俺はメモを丁寧に折りたたみ大事にしまう。


「俺のスキルをなめるなよ」


 状態異常に対して異常な耐性を誇っていながらもすべてを食らってしまう不屈。それならこの呪いもきっと同じ扱いのはずだ。


 俺が一時的に呪いを受け入れているだけであって、本気を出せば屈せずはねのけることが出来るはずだ。


「しかし、怖いな」


 もしこれで呪いを消すことが出来たとしても、その時俺の記憶は大きく書き換わりここに書かれていたような事を思い出すことになる。


 運が悪ければ発狂するかもしれない。そのまま廃人になってしまうかもしれない。


 俺が不安を感じているのを察したのだろう、イリスは優しい瞳でこちらを見つめてくる。


「キミヒト、私は味方。誰が敵になっても私が守るよ」


「イリス……」


 なんだよ。ロリで優しくて包容力もあるとか惚れる以外の要素がないじゃねえか。


「大丈夫、何があっても」


 イリスは立ち上がり正面から俺の事を抱きしめる。ロリ特有の甘い匂い、いつもは興奮するような匂いだが今は安心する。


 欲望ではなく安らぎ。恐怖と不安が一気に洗い流され冷静な気持ちになる。


「ありがとうイリス。俺は今からちょっと意識を失うかもしれない。騒ぎ出すかもしれない。暴れそうになったらイリスが押さえてくれ」


「わかった」


 俺が冷静になったのを見て取ってイリスはうなずいた。イケメンだ。イリスはただのロリじゃない。イケロリだ。新たな扉を開いてしまった。


 さて、じゃあ行きますか。


 スキル、全開。

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