第20話 目が合っちゃいました

 俺たちはそのまま順調に階層を進んで行った。しかしあまりにも順調すぎることで疑問が浮かんでくる。


「なあ、このダンジョン本当に探索されていたんかな?」


「どうして?」


「俺達って初めてダンジョン潜っただろ? それなのにあまりにも順調すぎる。ドロップアイテムがおいしくないのは間違いない。けど探索投げ出すほどの難易度でもなくないか?」


 現在の階層は三階層。敵の強さも変わらずドロップアイテムも変わらず。そしてなにより敵の湧きが少なくもなく多くもない。一匹か二匹を同時に相手取ることが多いため練習には良いような気がする。


 それなのに他に人がいないと言うのもおかしいし、最下層までは無理だとしても訓練という意味ではこの辺りに人がいても不思議じゃあない。


「たしかに今のところ難易度は低いわね。でも探索者が引き返したっていう五階層がどうなってるかはまだわからないわ」


「そうだな、気ままに行くか……」


 そう思った瞬間恐ろしいほどの殺気を感じた。


「みんな逃げるぞ!」


 クロエとイリスもどうやら感じていたようで俺の声にとっさに反応し下がっていく。しかしフラフィーはその場で盾を構え動こうとしなかった。


「おいフラフィー! 早く来い!」


 思わず声を荒げてしまうが今は一刻を争う。どう考えてもやばい。スケルトンには気配がほとんどない。それなのにもかかわらずここまで大きな気配を漂わせている。


 おかしな話だが間違いなく相手がスケルトンだと言うことがわかる。しかし今までの相手の比じゃない。


「すいません、目が合っちゃいました」


「なっ!?」


 フラフィーは相手を視界に収めていたようだ。そして相手からも認識されにらみ合いの状態を維持していた。気配は突然現れたことから運悪くフラフィーの視界の先だったようだ。


 悠長なことを言っている場合じゃない。まともに戦って勝てる相手じゃないのはたしかだ。出来る事なら逃げたいがフラフィーを放っておくわけにもいかない。


「行ってください。ここは私に任せてみなさんだけでも」


「何馬鹿なこと言ってんだ! お前一人で何が出来るんだよ!」


「良いんです、みなさんと少しだけでも一緒出来て嬉しかったです。ゴンズさんに謝っておいてください」


 決死の覚悟を決めたフラフィーにかける言葉が見つからない。くそ! どうしたらいい!?


 俺が悩んでいるとクロエが敵に向かって走り出す。


「ホーリークロス!」


 鋭い発声に合わせて魔法が放たれる。スケルトンに対して絶大な力をもつ神聖魔法の一つ。ダンジョンに入ってからは下位互換のホーリーレイを撃っていたが上位魔法も使えるのか。


 その魔法の光によって相手の姿があらわになる。通常のスケルトンとぱっと見は同じだが、マントを羽織り大きめの剣を持っている。さらには禍々しいオーラを吹出していた。


 刃こぼれしている大剣は赤く染まり、その異形と相まって恐怖を感じさせる。


 恐ろしいまでの威圧感。見ただけで死を予見させるような死神がそこにはいた。


 上位と思われるクロエの魔法は確かに直撃した。しかしそれも足止めに過ぎない。だから俺は駆け出し、イリスも同時に走り出していた。


「ファイアランス!」


 イリスが十数本の炎の槍を生み出し化け物のようなスケルトンにめちゃくちゃに撃ちこんでいく。その攻撃をスケルトンは片っ端から叩き落としていく。


 今まで相手を消し炭にしてきた魔法がことごとく斬られていくのは恐怖だ。信じていた力が通用しなくなるのは怖い。しかも近づいてきているのだからなおさらだ。


「フラフィー! 一撃だけ耐えてくれ!」


「はい!」


 俺たちが駆けつけたことでその瞳には決意の色が宿っていた。だからこそ俺もそれに応えなくちゃいけない。クロエとイリスの魔法が効かなかった以上は俺がとどめを刺すしかない。


 だがやれるか? イリスの魔法すらも容易く斬るあの亡者相手に。


 いややるしかないんだ。やれるかどうかじゃない、やらなきゃ全滅するしかないんだ。こんなところで死にたくはない。


 そしてスケルトンは一番近いクロエに斬りかかるがフラフィーが何とかそれをはじくことに成功する。今まで全て受け流していたが、そんな隙も与えないほどの威力と衝撃。


 一筋縄ではいかないだろう。


 だが。


「ここだ」


 攻撃がはじかれ一瞬だけ硬直したスケルトンの胸骨の部分に剣を通す。トオシスキルを使って無理やりにねじ込んだそれをすぐさま解除する。


「グ、ガァァ」


 バキンと骨以外のものが砕ける音と共にスケルトンはその体から力を失って行った。放出していたオーラも霧散していく。


 俺の剣は半ばから折れていた。無理やりスキルを使って異常な硬さのものを突いたのだから当然ともいえる。


 生きている者に対してこのトオシスキルを使った場合は弱いほうが壊れる。だが内部に剣を通されたら普通死ぬ。だからこそ剣が壊れても相手を倒すことが出来るだろうと攻撃した。


 今までのスケルトンは核が心臓附近に必ずあった。全身を叩き壊したほうが楽なのは間違いなく、さっきまではそうしていたがこいつに効くかはわからなかった。だから俺は核を狙った。


 はっきり言って今のが決まらなかったらかなり危なかっただろう。その時は俺がおとりになって全員を逃がすしかなかった。俺一人なら最悪でも死ぬことはない。


「な、なんで」


 フラフィーが茫然とつぶやいた。


「言ったじゃない。仲間だって」


 クロエが優しくフラフィーの頭をなでる。


「仲間が死にそうなのに助けないなんてある?」


「でも!」


 怖かったのかフラフィーはクロエに抱き着き、涙ながらに訴える。


「また、みんな死んじゃうんじゃないかって……私が守らなきゃって……」


 消え入りそうな声でフラフィーは言葉を発する。一人でいる獣人、他に仲間がいないことからもしかしたらと思っていたが住んでいた場所が全滅させられたのだろうか。


 だからこその盾オンリーの時間稼ぎなのかもしれない。攻撃で敵を倒せないなら少しでも時間稼ぎをする、そうすれば他のみんなで倒すことが出来ると。


 静かな嗚咽が響き、クロエがフラフィーを優しくなでている。


「二人とも、すまないが今はとりあえず安全なところに行こう」


 感動的なやり取りが始まりそうだったが今は危険だ。階層の切り替わりのところは安全地帯なので急いで向かったほうがいい。スケルトンのドロップアイテムを拾い移動を開始する。


 というか普通に心臓ドキドキしてるから落ち着きたい。


 こんなやばいやつが三階層に出るなら冒険者が潜りたがらないのも納得だ。ドロップアイテムは何かしらの金属だと思うがそれは後回し。


 フラフィーの事はクロエに任せて俺はイリスと共に周りを警戒する。さっきのボスっぽいスケルトンがもし他にもいたならすぐにわかるように。


 トオシスキルを全開にして周囲を警戒する。視界がおかしくなるから地面の中は今まではやらなかったが今はそんなことを言ってる場合じゃない。


 壁から床まで何もかもを透かして見続け少しの危険でもすぐにわかるようにする。


 しかしそうしたことでおかしな部分を発見する。


「なんだこれ?」


「キミヒト、どうしたの?」


 俺が壁に向かって手を伸ばしているのを不思議に思って全員が近づいてきた。


「この壁の向こうに空間がある」


「まさか、隠し部屋?」


 ダンジョンの構造は解明されていない部分も多い。こういった隠し部屋があることもあるが、見つけるのは非常に困難と言われている。というか見つけるとしても偶然以外ありえない。


 盗賊の上位のスキルを持っているなら見つけることが出来るかもしれないが、そんな連中はごくごくまれにしかいない。勇者の中には一人いたがそのくらいレアなスキルだ。


 壁の周りを押したり叩いたりしていると隙間を見つける。ならばそこに何かあるだろうと折れた剣を突っ込む。力任せに押し広げるようにすると壁が動き出した。


「何があるかはわからんが、行くしかないよな?」


 正直怖い気持ちはあるが、見つけた以上は調べておきたい。というか奥に敵がいないのはわかっているので行く以外の選択肢は存在しない。


「一応、警戒する」


 クロエとイリスが呪文の詠唱準備に入り、フラフィーも盾を構える。


 奥に進んで行くとそこは行き止まりで広い空間になっていた。そしてこれ見よがしに部屋のど真ん中には宝箱が置いてあった。


「罠は……大丈夫だ。あけるぞ」


 意を決して宝箱を開けるとスクロールが入っていた。

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