第23話 距離感を誤った
俺は意識を失うこともなく、暴れるでもなく、ただただ悲しい気持ちになっていた。だってそうだろう? 良い人たちだと思っていたらとんだ悪人だった。
そして異世界に一緒にきた仲間たちの大半は死んでいるという事実。さらには俺と二番の少女が抜けてからも一番グループのみんなはまだあの拷問を受け続けているのだから。
もしかしたら一番グループは俺たち以上に過酷な事をされている可能性もある。あっちは期待されているグループだから俺たちほどじゃないと願うしかない。
しかし良かったこともある。もしかしたらあの二番の少女を見つけることが出来れば、みんなを助けられるかもしれない。
あの『解放』というスキル。もしかしたら洗脳や呪いから解放することが出来るんじゃないだろうか。試してみる価値はある。
そのために俺はこのメモの魔術を使わず自力でこの呪いを解いたんだ。使い切りのこの魔術は俺には新しく作り出すことはできない。
『トオシ』の力で解析しようにも技量が足りず表示がうまくできなかった。というかこれはもう鑑定と名付けていいな。『トオシ』をスキルとしてしっかり認識できるようになった今、色々なことが出来そうだ。
記憶の改ざんはどうやらスキルに対する固執も出来なくなっていたようだ。もっとたくさん使えば色々思いついただろうに、ここまで全然使わなかった。
必要な場面でのみしか使わないとかもったいなさすぎる。使えば使うほどスキルのレベルが上がるならそれは願ったり叶ったりだ。魔物に対しても使って行けばある程度知識もつくし。
でも今はとりあえずお礼だな。俺の心に安らぎをくれた、この優しくもイケメンのロリに。
「イリス、助かった。イリスがいなかったら多分俺は正気じゃいられなかった」
「ううん。キミヒトは私とお姉ちゃんを助けてくれた。だから今度は私がキミヒトを助けた。それだけ」
あかんめちゃくちゃ可愛い。抱き合った状態のままだが、意識した途端やたらと元気になってきた。今までこんなこと起きなかったのは呪いのせいか? 感情の高ぶりがほとんどなかったからな……。
「キミヒト……」
「す、すまん。話せば長くなるんだが、これからはこういうことになると思うからあまり触られると困る」
俺が少し距離を取るとイリスは俺のに視線をちらっと向け、何食わぬ顔ですぐに抱き着いてくる。ちょっとお姉さん聞いてました?
「私は、いいよ」
「俺も良いけどおおおおお!」
理性が吹っ飛びイリスを強く抱きしめる。めちゃくちゃ好みのロリに迫られて平常心を保つなんて出来るわけがない。イリスは少し驚いたようだが俺の胸にぎゅっと体を入れてくる。
しかし大声を出したのはまずかった。
「何!? 敵襲!?」
「大丈夫ですか!」
クロエとフラフィーを起こしてしまった。
そして俺とイリスが、というか俺が思いっきりイリスを抱きしめている。うん、まずいねこれ。しかもイリスが体を縮めたから無理やり抱きしめてるように見えるねこれ。
「キミヒト、へたれじゃなかった」
「うん、今は黙ろうね」
イリスの発言にクロエはキレた。間違いなくキレてる。今までみた形相の中で一番やばい顔してるわ。でも怒ったロリも可愛いからご褒美以外の何物でもないわ。説教どんとこい。
「ねぇキミヒト」
「はいなんでしょう」
「私はね、あなたを信用していたの。でもこれはどういうことかしら?」
「話せば長くなります。しかし一つだけ言ってもいいでしょうか?」
「なに」
「イリスが可愛すぎるのがいけない」
「死ね」
やくざキックを顔面にお見舞いされて俺は意識を手放すことにした。だって起きたらもっと蹴られるだろう? いやそれもかなりありではあるんだけど、無限ループに入りそう。
ここがダンジョンじゃなければマジでずっとやってもらいたいくらいではある。クロエの体力が限界になるまで痛めつけてもらって、その後こっちからくすぐりで逆襲するというまでがテンプレ。クロエの目のハイライトが消えるの見たい。
でも今は我慢だ。イリスがうまいことクロエを落ち着かせてくれることを祈る。
はい、だめでした。
俺が起きた時、クロエはもっとキレていた。うんまずいね。イリスさんあなたどんな説明したんだい?
フラフィーも俺から距離を取るのやめよう? 俺だって傷つくんだよ? 呪いから解放された今お前も普通に性的対象として見られるんだからな?
呪いの最中は本当に大切なことしか考えられなかったから興味なかったけど、世の中の男性は巨乳好きなんだよ? いやロリがいるし手は出さないと思うけど。うん。何もなければ。
そして俺は、クロエが怒り心頭だったので宿に戻ることを提案する。
クロエもこのままダンジョン探索をする気はなくなったのだろう。行きの時はあまり使わなかった広範囲の聖魔法をどかどか使いながら帰ることになった。
おかげで行きのペースの半分もかからずに宿に帰ることが出来たよね。ほぼ全力疾走だよね。
そしてそんなことをすれば当然体力も尽きるわけで。宿に着いた途端クロエは電池が切れたようにベッドにダイブし寝始めた。
「なんかすまんかった」
「キミヒトは悪くない」
「イリスが悪化させたんだけどな」
「反省はしているが悪いとは思ってない」
「それは反省してないって言うんだよ……」
俺もどっと疲れた。起きたばっかりだけどひと眠りしたい気分だ。
「あ、あの!」
ベッドに腰掛けて装備をはずしているとフラフィーが声をかけてきた。
「ん? 何?」
「キミヒトさん、なんか、変わりました?」
「あー、うん。クロエが起きたら改めて説明するよ。簡単に言うと呪いが解けたってそれだけ」
「呪い!? どういうことですかそれ!」
食いついてきたとこ悪いんだけど、近い。いかんな、今までそういった対象に見てなかったため距離感を誤った。俺はこのパーティで理性を保つ自信がなくなってきているぞ。
「近い近い。まあなんとかなったよ。だから落ち着け」
「そ、そうですねすいません。後でしっかり聞かせてもらいますから!」
俺の視線が泳いだのを見て少し照れていた。その変化に少し戸惑いながらも俺があまり変わらないことに納得したようだった。
そしてフラフィーもベッドにダイブした。そういえばみんなほとんど寝てないんだよな。俺は気を失わされたけどイリスはたぶん起きてただろうし、クロエもフラフィーも少しの仮眠だけだ。
実戦もしたわけだし消耗しててもおかしくないな。フラフィーに至っては格上相手の戦闘を繰り返していたわけだし。
「イリスも寝ていいんだぞ?」
「ここで寝る」
ずっと俺の横にくっついてくるイリスは本当に可愛いがマジで理性飛ぶからやめろ。今ここで始めたらめちゃくちゃ気まずいだろ。
「じゃあ俺はこっちで」
「なら私も」
どうしてもくっついてくるので仕方なくイリスのほうのベッドに行く。別に匂いを堪能したかったとかそういうのじゃない。そういうのじゃない。
「キミヒト、あったかい」
「俺もあったかいよ」
一部分はめちゃんこ熱いが。
少しすると規則正しい寝息が聞こえてくる。イリスはアタッカーだったから本来ならクロエと同じくらい疲れているはずだ。
たぶんだが、俺の変化を見て取って心配してくれたんだろう。結構まじな顔して俺を抑えてくれるように頼んだからな。申し訳ないことをしてしまった。軽いセクハラ程度はしてきていたが、こんなに接触をするセクハラをされたのは初めてだ。
俺を不安がらせないためにわざとこうやって気遣ってくれたわけだ。方向性はどうあれ素直に嬉しい。ただ、収まりがつかないものがあるのが困りものだが。
「目も覚めたし、外行ってくるか」
俺は頭を冷やす意味も込めて外出することにした。そういうお店を探しにいくわけじゃないからな?
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