第5話 頭潰せばみんな逃げるだろ

「さて……相手は30人くらいという話だったな」


 さっきの盗賊の話だと中には盗賊がいて一か所に固まっているらしいが、全員が全員中にいるとは限らないだろう。さっきの2人みたいに見周りもしてるだろうしもしかしたら街に繰り出している可能性もある。


 だがお頭が中にいるのならここを叩けば大丈夫だろう。魔法も使えるというし、罠もそれなりに仕掛けられていて中々慎重な性格ならそうそう外には出ないと考えられる。


 俺の能力的には大人数の相手は逆に楽だったりするので何も考えずに突撃したい所だが、こっちの攻撃が当たらないなんて事態になったりしたらちょっと面倒くさい。


 じゃあどうするかと言えばトオシを使う。


 引きこもっていたとはいえ能力は鍛えていた。そもそも戦闘向きではないと言われていたせいで勇者としての旅立ちを断念したこの能力は日常的には結構便利だった。


 その辺の話はとりあえず置いておいて、今は目の前の事に集中しよう。鍛えた今なら洞窟の中の人の配置くらいなら読み取れる。人がいると知っていなかったら少し難しかったかもしれないが、知っていれば能力はより分かりやすく発現する。


「1、2……全部で25人か。ほとんどいるな。盗賊でも休みの日とかあるんだろうか? それとも夜に活動するから今はあんまりで歩いていないとかか?」


 洞窟の中には寝っ転がったりしている男たちが20人と、隔離されている女性2人と、大柄な男1人に対して女2人が奉仕している。


「隔離されてる2人は身なりからして連れてこられたばかりって感じか……あの奥にいるのがお頭なら、子分倒して人質救ってからがいいか?」


 人の配置の確認のついでに罠も確認もしてみるがどうやら中に罠は無いらしい。俺のトオシでは罠の詳細は分からないが、怪しい所だったりはわかるため集中していれば安全に進むことが出来る。


 しかしお頭にバレずに子分20人倒すのは骨が折れそうだ。


 進む道は安全、子分たちは気を抜いている、人質の場所までは監視もなし、となると先にお頭やっちまうか。うむ、そうしよう。頭潰せばみんな逃げるだろ。


「よし、そうと決まれば行きますか」


 倒した盗賊の服を拝借して変装しようかと思っていたが、子分たちを見るに服装はかなり自由というか街に溶け込めそうな恰好をしている者ばかりだった。


 俺の服装もそんなに浮かないだろうという事でお頭の部屋にそのまま行くことにする。とういかそもそもバレなければそれでいいしな。


 お頭の部屋の前までは気を付けていたこともあって素通りで来ることが出来た。しかしお頭はどうやら奉仕されていながらも警戒は怠っていないようで扉の方を注視していた。


 もしかしたら俺の存在に気付いている可能性も否定できないが、それだったらもう少し何かあるだろうと思う。


 それなので、そのまま扉を開けて中に入る。


 お頭は少し驚いた様子を見せたが、平然とこちらをにらみつけてくる。


「おいおい勝手に入るなって言いたいところだが、どうやって扉を開けたんだお前」


 ボスは奉仕している女2人を押しのけ立ち上がり武器を取る。


「それはもう普通に手を使って押し開いただけだが?」


「そうか、じゃあ死ね」


 直後お頭が動いたと思った時には目の前に走り込まれていた。予想よりもずっと早い動きに少し驚いたが、それでも問題なく横に避ける。


「喰らいな!」


 それでもお頭はお構いなしに剣を振り下ろし俺のいた所に叩きつける。すると地面に波紋が広がり俺の足が埋まり身動きが取れなくなる。


「ははっ! 油断したな? ここまで入ってきたことは褒めてやるが、この洞窟は俺の魔法で作ったんだぜ。中をいじるなんて朝飯前よ」


「そうか。だが俺には関係ないな」


「身動き取れない状態で強がったって笑えるだけだぜ? じゃあな」


 今度こそ俺に向かって剣が振り下ろされるが、先ほどと同様に素通りする。


「なっ!? くそ、幻影魔法か!?」


 お頭が俺から距離を取り周りを見回すが、当然そんなものはない。距離が離れたので俺は安全に埋まった足を引き抜く。


「がっちり固めたのに簡単に抜けるとは……お前は何者だ?」


「まだ冒険者なり立てのものだよ。でもお前よりは強い」


「くそが……ストーンボール!」


 お頭が初級魔法を放ってくるがこれも俺を素通りしていく。そのまま俺はお頭に向かって剣を振るうがそれは防御される。


「何だ? 剣の腕は大したことないな!」


 剣を支点にしてぐっと俺を押し飛ばす。どうやらお頭は中距離での戦闘をご所望の様だが俺は近距離の方が戦いやすいのでもう一度突っ込む。


「バカの一つ覚えみたいに突っ込んできやがって」


「これが手っ取り早いんでな」


 迎撃されるがお頭の攻撃は俺の体を素通りする。しかし俺の動きを見切ったのか、俺の剣の軌道に合わせて防御の構えを取った。


「いくら剣が当たらなくてもお前の攻撃は俺には見え……うっ!?」


「だろうな」


 そしてそのまま剣を素通りさせて相手の胴体を深く突き刺した。


「お前……最初のはわざとか……」


 お頭は血を流しながらなんとか言葉を発しているが、もう長くはないだろう。


「ああ。油断したのはお前だったな」


「くそ……が……」


 お頭はその場に倒れ動かなくなった。瀕死の状態だが油断は出来ないため、しっかりと止めを刺しておく。これでギルドに報告すれば討伐依頼は達成したことになるだろう。


「「……」」


 人の気配を感じ振り向くと女がいた。そう言えば放置したまま戦闘に入ったな。よく騒ぎもしなかったものだと思ったが2人の目を見て合点がいった。


 お頭に奉仕していた女たちは放心状態で、視点が定まっていない。たぶん魅了か薬かはわからないが自我がなくなっているのだろう。流石に放置も可哀想な気がしたので一緒に連れて帰る事にする。


「あんたら、動けるか?」


「「……」」


 のそのそと立ち上がり、俺の指示に従って動き出した。どうやら誰に対しても従順になるように設定されているようだ。何も見えてなさそうな眼は妙な雰囲気を感じる。


 精神的に異常をきたしているいる人間は、まさに動く人形といった感じで非常に不気味だ。あんまり長く一緒にいるとこっちまで情緒不安定になりそうだ。


「出来るだけ静かについてこい」


 そう言って俺は残りの人質の部屋に向かう事にした。

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