第4話 女の子と懇意にする
アジトは森からそれほど遠くない所にあった。と言っても召還された王城からは結構離れていて森について詳しく知っていないと見つけるのはそれなりに難しいように思える。
実際こういった捜索をしたことがないからわからないが、魔法を使ったり特殊能力で人の位置を探りそしてアジトに潜入するというのは中々大変だと思う。
というのもまず情報収集が思ったように捗らないだろうという所がある。盗賊だけあってその辺はしっかりしているようでアジトに行くまでにかなり罠が仕掛けられてもいた。
そのため魔法による探知者が必須だし、盗賊がいるとしても場所が分からなければ人の探知も容易じゃないだろう。探知の距離が何キロも可能だったら話は別だが、今まで見つかっていなかったことからそんなことはないはずだ。
とすると外にアジトを作って獲物を待ち伏せしつつ、街に行って適当に情報を流すだけでそれなりに人が釣れるんじゃないかと思う。
商人を逃がしたり、弱い冒険者だけを襲ったりとあまり目立つ行為をしていないのは結構狡猾な奴らな予感もある。この場合は俺一人という事を考えると普通なら逃げの一手で良いような気もする。
だが俺は行く。
だって恩を売りたいから。
この報奨金で奴隷買って仲間にしてもいい。異世界転生と言えば奴隷を買ってウハウハライフというのが通常だ。俺もそれに乗っかりたい。いや乗っかられる方が好きだけど。
「なああんた、案内したら助けてくれるんだよな……?」
どうやら目的地が近くなってきたようで盗賊は俺に媚びた視線を向けてくる。
「なあ頼むよ。俺はそんなに悪い事はしちゃいない。殺人だって毎回止めはさっきのやつがやってたんだ。俺は何も悪い事してねぇよぉ」
そう言って懇願してくるが、どう考えても悪い事してるじゃん。止めはって言ってる事からその直前までは一緒に甚振っていたって暴露しているようなものじゃないか。
俺が黙っているのをどう受け取ったのか気持ち悪い笑みを浮かべている。
「……アジトの中はどうなって何人いるんだ?」
成り行きに任せてやれるだけやろうと思っていたが、盗賊の気持ち悪い媚びのせいで全滅させたくなってきた。お頭を倒したあとに装備品やら何やら奪って報告終わりにしようかと思っていたけど、全滅させた場合は後に街に知らせにいくしかないか。
「へへへ……洞窟の中を改造してそのままそこに住んでます。お頭が土魔法で色々いじって住みやすくしたんですが、俺達子分たちは大部屋にひとかたまりでさぁ。攫ってきた人たちは特別に部屋と檻がありますがねへへへ」
「攫った人……だと?」
「ええまぁはい。特に女なんかはよく売れるんで。まぁ楽しませてもらってから捨てるなんてこともよくありますが。俺たちは全部で30人くらいいるんで流石にぶっ壊れちまいますわな」
虫唾が走る。異世界だし盗賊だから人さらいもしてるだろうとは思っていた。そしてあわよくば助けた女の子と懇意になんて妄想も膨らませていたが、話を聞くとそれよりも怒りのが沸いてくる。
だからと言って女の子と懇意にするっていうのをやめる気はないが。
「わかった。他に何か変わった情報とかあるか」
「さぁ……なにせ入ってからそんなに長くもないんで。あ、でも最近お頭が機嫌良いから何か良いものが手に入ったかもしれないですね」
ふむ、こういう時はドラゴンの子どもだったり吸血鬼の子どもだったりがテンプレだが果たしてどうなっているか。
「つきましたよ旦那。へへ……じゃあ俺はこの辺、でっ!?」
「ああありがとう。だが生かしておくと後が面倒なんで、さよならだ」
案内してきた盗賊の首をはねる。あまり長くない期間とはいえ王城で色々と鍛えられた体は、成り行きじゃなくてもすんなりと人も殺す事が出来た。
流石にあんな話を聞かされてただで返そうとは思わないし、最初に殺そうとしてきた相手を見逃してやるほど甘くもない。
平和な日本に生まれたのにこういった考えが出来るようになったのも異世界に来たのが原因なのは明らかだった。というよりも王城での様々な訓練により殺人に対する忌避感みたいなものはほとんどなくなっていた。
人は慣れる、なんて言葉もあるが異世界ではその慣れすらも魔法の力で何とかすることが可能なようで特訓で色々な事をした。この忌避感を消したのは最後の特訓の一つで魔物退治の時だった。
召還もそれなりに行っていて色んなノウハウの中で、防衛で仕方なく殺す事もためらう人たちがあまりに多すぎるから倫理観を上書きするという魔法を生み出したそうだ。
元の世界の倫理観を消すのではなく、こっちの世界で襲われた時に殺意を持てるようにだとか人殺しの後に鬱になりづらくなるようにだとかそういったよくある一般的な感覚を体に覚えさせるみたいな魔法だった。
簡易の奴隷魔術も似たような経緯で生み出されたらしく、とりあえずこれやっとけばこっちの世界でもそれなりに過ごせると言われた。
元いた日本に比べるとぶっそう極まりない世界だという事を事細かに説明された俺たちは、その魔法を受け入れるものが殆どだった。性格も変わらないし、俺達にやる前に他の兵士にもかけて安全を保障するという徹底的に俺たちのために作ったという術式だった。
長くなりそうなので王城に着いてからここに来るまではまた後で話すとして、今は目の前にあるお宝とフラグの眠る盗賊攻略だ。
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