第37話 視線

 休み時間を数分過ごした後に授業開始のチャイムが鳴り授業が始まる。予想通りテスト範囲や重点的に勉強した方が良いところなどの話だ。話を聞いている限りでは、すでに目星をつけていた所が出てきたし、例外がない限り目標点と同じ点数になるはずだ。

 しかしワークに「〜はなぜそうだと思ったのか。」とかいう気持ちを考えて長文で答える問題がある。かなりめんどくさいが、大体こういう問題は点数配分が高いから、二点か三点くらいもらえればそこまで問題視しなくていい。

 模範解答を出してきて解答を見てみると、自分で考えた答えと違いすぎて腹が立つ。こんな気持ちの問題は作者じゃなきゃ分からないだろ。解釈違いだ。

 途端に面倒な気持ちが押し寄せて他さえ合っていればいいと思い始め、次に目星をつけている箇所に目を向けた。


「一旦休まないか? ずっと文字を追ってばかりで目が悪くなるぞ」


 誰かが出したままにしていた休みになっている前の席の椅子に座って眠そうに茨木は言う。授業時間なのに休むなんて内申点を下げられるから却下だ。


「こうやってしりとりでもしてよう」


 筆箱から探って出したもう一つのシャーペンを掴んで、目標点数たちが書かれたルーズリーフに下手くそな字で「しりとり→」の文字が書き足された。私が書きやすいようにルーズリーフを回転させて、茨木は少し目を輝かせて私の番を待っていた。


「ほら雪花の番だぞ?」


 自由なやつだと思いながら、→の隣に「りんご→」と書き足して紙を茨木側に回転させる。小さく笑って再びペンを握り、ごから始まる言葉を悩んでいる。そこまで悩むようなことも無いと思うのに、首を傾げて次の言葉を探しているように見えた。

 十秒くらい悩んだ末に「ごじゅうのとう→」が書き足され、他に考え付くのが無かったのかと片隅に思いながら「うりぼう→」と書くと「うじまっちゃ→」と書かれた。


「ふふっ」


 まさかこのくらいで悩むとでも思っているのだろうか。頭文字がやなものなんていくらでもあるのに。「やきがし→」から「しもがも→」となぜか茨木は京都に関係のあるもの縛りをしてきている気がする。まだ全然始めたばかりだから気のせいかもしれないけれど。


時々少し時間が空いて答えているけれど、これも全て京都関連のことを絞り出そうとしているんだろう。そんなに迷うならやめればいいだろうにと思っていると、昔何かのパンフレットで見た隠れた名所な場所が出てきたり、想像しただけでお腹が空いてしまうような物あって、完全に京都関連縛りだった。清水寺も三条大橋も大江山も八つ橋も出てきた。本人は得意げに笑いながら私を見て次を待っている。

 舐められてるのだろうか。こっちも何か縛りでしりとりしようかな。


「いつも真面目な如月がサボってしりとりか?」


 すぐ近くから先生の声が聞こえて、咄嗟に手と肘で隠した。しりとりに集中しすぎて、近づいてくる人の気配に気付かず、隠す行為もすでに意味を失っている。

 覗こうとぐっと近づいて来た頭から逃げようと逆側へ体を寄せた。


「もしかして一人でやってたのか?」


「違っ……いや、これは」


「息抜きも大切だがほどほどにな?」


 去っていく横顔に安心するも、私を見る眼差しはどこか気持ち悪さを感じるものがあって、心臓を手で触られたような感覚と寒気が襲った。

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月下鬼人 七坂 子雨 @suoiciled

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