第36話 テスト

 気が付けば中間テストまでちょうど一週間。誰がどの教科のテストを作っているのか。また、授業内容からして難し過ぎないかボーナス問題があるのか。

 高い点数過ぎてはいけないし、かといって低過ぎるのもいけない。

 小学生中学年辺りから課せられたルールの一つ、目立つ事は一切禁止。たとえそれは怪我であろうと勉強であろうと変わらない。かなり理不尽だけれど、破ってしまえば過酷な暴力とい名の罰が待っている。


 今回のテストは基本的に七十超えしても大丈夫だろう。特に現文と数学は問題無しだ。ルーズリーフの端にそれぞれの教科の理想の点数を書き出し合計点数を計算する。


「百点は取らないのか? 今回は簡単なんだろ?」


 しかしここで百点をとってしまうと、クラスの中で頭が良い枠に入ってしまい、不満と妬みと教師に目を付けられ授業中に無理やり当てられるなど様々な問題が起きる。初めてのテストだからそこまではいかないだろうが、何かの拍子でバレて目立つことがある。すでにそんな事は経験済みだ。

 ということは今のところ五教科で三百点くらい取っておけば安心か?


「満点を取れる実力があるのに何故発揮させない」


「……」


 不満そうに文句を言う茨木のために理由を書いてやる。百点をとったら呪われるとでも書いておくか?いや、やめておこう。きっと話が通じない。


「目立ちたくない? そんなの気にするな。堂々としていればいい」


 それができればどれだけ幸せだろう。文字を書く気も失せてため息をつく。目標点目指して手を抜くところは手を抜いて、簡単な問題は些細なミスをしないように気を付けて、まずは出題範囲のすべての英単語をルーズリーフに書いてみて、スペルミスや和訳と合っているかを確認することから始める。



「気になったことがあるんだが一ついいか?」


 こっちはテスト勉強で忙しいのに、自由な茨木は机の前にしゃがんで目線を合わせてきた。しかしペンを止めることなく、聞き耳だけ立ててやる。


「RとLって、書くときも話すときも一体何が違うんだ?」


「……」


 確かに。なんて全然思ってないけど、何度も考えたことがあるのは言わないでおく。授業中に誰も指摘しないから私だって知らない。英語を考えた人に言ってほしい。





 せっかくの勉強時間だったのにRとLのせいで全然頭に入って来なかった。これもすべて茨木のせいだ。

 腹いせに隣で私の髪をいじっている茨木の手を払いのけて次の授業の準備をする。

 次は現代文だが、どうせテストの話しかしないから出題範囲さえ聴いておけばあとはどうにでもなる。授業態度だけは良くしておかないといけないけれど、普段はちゃんとしているから今日くらいは見逃してもらえるはずだ。


「まじめなんだな雪花は」


 別にまじめなわけではないけれど、強いて言うなら休み時間になっても話す友達や、席を離れる理由も特に無いせいで暇だから教科書を眺めてたりしてるだけ。それに勉強が好きってわけでもないし、それしかないからやってる。


「俺が他の人間にも見えていれば、雪花が喋っていても変じゃないのにな」


 そうなったらまず学校に入れないということを忘れている。

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