第35話 新顔
「いっ……た」
頭突きの衝撃の音がきっと部屋中にきっと響いた。音からしても痛そうだったし、私だけじゃなくて茨木も痛いはず。というか私よりも痛いのでは。
起き上がるために床を探していると、髪の毛ばかりで手で押すには少し遠慮したい。
少し考えると今茨木のことを押し倒しているのではないかと思い着く。肌に当たる感触は布と人肌。急いで上半身だけでも起き上がるとやはり押し倒していた。驚いている茨木の顔がすぐ近くにあって、いつもと立場が違うから新鮮味を感じる。
「ごめん……痛かった、でしょ?」
「……」
下を向いているせいで鬱陶しく垂れる髪を耳にかけると、茨木は顔を真っ赤にして目を見開いている。まっすぐに私を見て、何も言わず口元に手を持ってきて涙目になっている。今気付いたけれど、耳まで真っ赤になっていた。
初めて見た表情と反応でどうすれば良いのか分からないけれど、床ドンしてるみたいで気に食わないから退けることにする。
「悪気はなくって……」
「大丈夫だ気にするな」
変わらず赤い顔を隠そうとするけれど、動揺しているからか私に触れていないからなのか、手が人じゃなくなっている。
とりあえず準備をするために私だけ部屋を出て階段を降りた。
*
*
*
あの気まずい雰囲気のまま家を出て、勝手に隣を歩いているけれど、あまり会話を進んでしようとしていなくて、やっぱり朝のあれのせいでいつも通りの騒がしさが無い。
「怒ってる?」
「そんなわけが無いだろう」
「じゃあなんで何も喋らないの?」
「そ、それは」
また顔を隠すようにすると目線だけ私に向けながらポツリと口から零した。
「その、雪花の顔が……急に目の前に、あるから……」
「は?」
「だ、だから! 雪花が綺麗だから!」
「いや待って……綺麗? 私が?」
鼻だけじゃなくて頭も打ったのか。それとも空耳?あまりにも頭が重症過ぎる。病院に搬送できるならしてあげているところだ。
「雪花お前……自分の顔の美しさを知らないのか?」
「変な宗教みたいなこと言わないでよ」
そもそも自分の顔なんて鏡すら見たくないくらい嫌いだ。それなのに綺麗とか頭おかしいのか。今まで一度も言われたことがないし、縁の無い言葉だと思ってた。
気の抜けた間抜け面で見続けるのをやめさせたくて思いっきり睨んでやると眉を八の字にしてきた。ムカつく。
「なんでそんな顔するの」
「雪花がムッとした顔するからだろう! 俺を殺す気か!!」
両手で顔を隠して道の端にしゃがみ込みながら「あー」とか「もー」とか唸ってるのを五秒くらい見たら、いつも通りバス停を目指した。こういう時にどういう反応をすれば良いのか分からない。
「待って置いくのは許さんぞ!」
じゃあその気持ち悪い顔を治せよ。
回り込んできたから額を指でぐりぐりしてやった。後悔はしてない。
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