第34話 無意識
昔から自分の家は他の人たちとは違うんだなって分かってたし、この姿もこの目のことも。
違うことが苦しくて、みんなと同じになりたくていろんなことをしたけれど、やればやるほど程遠くなってしまった。
「こんな目、無くなっちゃえば同じになれるのかな」
洗面所の鏡の前で、キッチンから取ってきたスプーンを泣きながら目元に当てていると、たまたま洗面所を通った母に切羽詰まった顔をして止められ、部屋に閉じこもった思い出も。
「治らなくなるまで刺したら治るかな」
何度傷付いても次の日には治っている肌に、治らなくなるまでカッターを突き刺そうとしても、やってくる痛みを想像して手は汗だらけになってカッターが滑り、何もできなかった臆病な性格も。
友達だと思っていた子の嫌味な目も。私を見つめる母の怯えた目も。兄の汚物を見るような目も。果ては私を認知しない父も。
息苦しい。
呼ばれなくなった私の名前すらもいっそ、暗闇の中で黒く塗りつぶしてほしい。
ーー罵倒
どうして。
ーー罵倒
私が何かした?
ーー罵倒
ーー罵倒
罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒罵倒
顔は見えないのに私を見て口を揃えて言った。
「生まれてこなければ良かったのに」
「生まれてこなければ良かったのに」
「生まれてこなければ良かったのに」
「……!」
目の淵から流れていた温かい涙が枕を濡らして、こめかみと背中から嫌な汗が出て、夏でもないのにとても暑い。
「ははっ……」
携帯のアラームの音に起こされて夢はひとまず終わった。締めきれなかったカーテンから漏れた朝日が眩しい。
「起きたのか……おは!? どうしたなぜ泣いている!」
「なんでもないし」
「何でもないで済んだらこの世に病院は存在しない!」
起きてすぐだと言うのにこんなに大声を出して私の異常を察して、赤黒いゴツゴツしている大きな手から人の手に変わり、目元の溢れた涙をを親指で拭う。熱を持っていたはずの目元は全く熱くなくて、流れていた跡も綺麗に無くなってる。
「あんたの魔法?」
「魔法……とは違うが、似たようなものだな」
「神通力というものらしい」と付け足し、人間の手で私の頭を二、三度撫でる。気を使っているのが丸わかりである。解せない。
「もう平気だから、手を退かしてもらっても?」
「撫でられすぎるのは嫌か? まるで猫のようだ」
やめてほしいと言っているのに、やめないどころか撫で回されている気がする。犬じゃないんだからこんなのされて喜べない。いい加減しつこい。
「ちょっと……さすがにもうやめて」
今日も学校は休みじゃない。朝の支度くらいさせてほしい。
「恥ずかしがらなくとも誰も見てないからあと少し」
「ほんとにしつこいっ」
撫でまわす手の指を一本ずつ頭から剥がしてベッドの外へ押し出すと、思っていたより体重が掛かって押した方向、茨木の体の方へ倒れていく。私が。
異変を察知した茨木は私を支えようとしたけれど、体制的には膝立ちだし普通に無理だろう。
予想は私の頭突きで鼻血で出る。そうしたどうしよう。茨木は普通の人には見えないから、血も誰にも見えないんだろうか。
頭突きではなかったけれど、私のでこと顔面は衝突した。でも分かったことがある。鼻の骨に当たると意外と痛い。じわじわくる。
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