第30話 気持ち

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 生で見たのは初めてで、さらにこの世じゃないものにすら睨まれてると思うと、どこからかやってくる気持ち悪さに流石に恐怖する。冬でもないのに鳥肌になってしまった。


 ただ無心に道を歩き、自分の気配を無にして、自分は空気だと思い込んでいると、茨木が横から笑ってくるのが少し腹が立つ。


「もしかしてあれが怖かったから気配を消してるつもりか? 子供騙しにもならんぞ! 腹が痛い!」


「慣れてるからって調子乗って……」


「安心しろよ俺が雪花を攻撃しようとしてる奴がいたら俺がなんとかするから……ふふっ」


「言いながら笑わないでよ!」


 高らかに笑う茨木の横腹を少しだけ強く人差し指で押すと、着物越しから筋肉がお出迎えする。解せない。

 加減をしすぎたせいで全然痛くなさそうだし、逆にちょっかいかけられたと思って、目を輝かせて見てくるのに嫌な気配を感じた。


「ほんっとうに愛おしいな!」


「うわっ触るな!」


 危険予知は当たり、茨木はあろうことか抱きつこうとしてきた。当然避けようとするけれど、それを既に予想した茨木は一瞬で私の視界から消え、音も無く背後に回り込み、優しくも力強く体に腕を回して抱きしめた。

 悪い気はあんまりしない。けれど、こんな時間で誰が見ているかわからない場所でされるのは恥ずかしいし、他の人には茨木は見えないため、絶対変人か不審者扱いされるに決まってる。

 抱きついてくる茨木の頭を両手で押して嫌ということを分からせると、やっと離してくれた。


「どんなものからも守ってやるからな! 安心するんだぞ!」


「恥ずかしくもなく、よく言える……」


 とりあえずここに留まっているのは気まずい。道を急いで歩いていると、茨木は風が流れるように自然と車道側を歩くから、気づかいもできて優しい性格だと分かる。ただ、感情的過ぎるのが少し痛い。



「少し寄り道しないか?」


「何で?」


「雪花はいつも同じものしか食わんだろう? たまには甘い菓子とかどうだ?」


 確かに、お菓子なんて興味を失ってから本当に食べていない気がする。レーズン以外の間食もしていないし。


「でもお菓子なんて食べたら太るよ」


「その歳で体型など気にするもんじゃないだろう」


「大して運動もしないし、そもそも運動もあんまり好きじゃないし……ぶくぶく脂肪が着くのも嫌でしょ?」


「何を。雪花の触り心地が柔らかくなってさらに触れる面積が増えるんだから俺としては万々歳なのだが」


 きょとんとした顔で何言ってんだか。それで口説いてるつもりなのか、まさか素でこれなのか。……きっと後者だろうな。

 でもどうせ買い物中にコンビニとかの中を見てみたいとか、そんな理由も含まれているんだろう。


「……どうしてもって、言うなら」


「よしそれでは行くぞ! コンビニは左、スーパーは右に曲がって少し歩いたところだ!」


「それくらい私にだって分かってるってば」

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