第27話 窓辺の
思っていた通り、同じクラスに限らず私を見ると小声で何か喋っている。私に対してまた酷いレッテルを貼られているんだろうと思うだけで気が重い。
これ以上私の評価が下がったりすることは無いだろうけれど、最低値まで来たんだとすると、これまで以上に普通に過ごしづらいだろう。
朝のホームルームでも私と目があった担任は少しだけ嫌そうにして目を逸らし、今日の連絡事項を伝えた。
見て見ぬ振りをし続けた末に担任としていじめの発覚を問題視されることも、そして当然ながら私はまた先生に呼び出しを食らっていたし、午前の授業には出られない。でもあの場所には長く居たくなかったし、今日はめんどくさい授業ばかりだったからそこは嬉しい。
ホームルームが終わって担任と一緒に進路相談室という名のお説教部屋に行く。当然の如く廊下を歩いていると注目の的になっていて、落ち着かないし居心地が悪過ぎる。この時だけは誰にも見えない茨木を羨ましく思った。
「考えればわかることなのにどうしてわざわざ時間割いてまで話さなきゃいけないの」
「彼奴らは誰かのせいにしたいだけだ、気にするほどでもないぞ。いつも通り俺と過ごせば時間が解決する」
やっと今日の長い拘束時間から解放されて、昼休みなのにろくに休めずに、授業に出て受けていると教科の先生は、気を使って何も聞いたりせずに授業を始めていた。
はっきり言って勉強する気が無くて、黒板に書かれたものはノートに書き写すけれど、口で話しただけのことはノートの端に書くことすらしない、したくない。
もう疲れているのにそんなことまでする気は全く起きないから無理。少し眠くて瞼が重い。目を閉じていてもバレやしないだろう。
目は閉じて、耳だけはしっかり聞いて周りの状況把握はする。さらにペンを持って悩んでいる風にすることで普通は気付かない完璧な構え。
「俺が代わりに起きていようか?」
お前が起きててどうすると思う。一応私だって起きてるからどうと言うことはない。
「少し借りるぞ」
隣からさらに近く、覆いかぶさって耳元で囁き、温かい背中に寒気が走り、起き上がろうとすると体は動かない。
「っぅあ!?」
無意識に体は反って右手のペンは後ろに飛ぶ。ところまでは意識があった、かもしれない。
「……っんん、う」
「やっと起きたな、よく眠れたか?」
カーテンと窓が開いていて、終わりが近い春風が吹いている。私は教室の自分の席に突っ伏して眠っていたらしい。
欠伸をしながら起き上がって周りを見てみると、教室のドアはきちんと閉められていて、それとは逆に窓は全開でカーテンも風に舞っている。
茨木は窓のへりに座って揺れるカーテンの隙間からこちらを見つめて微笑んでいる。
「何したの」
「ん? 雪花の身体を借りて起きていたんだ」
「その間の私に記憶がないのは?」
「意識は眠っていたから記憶はされない。それだけだ」
無許可でよくそんなことするもんだと思ったけれど、寝させてくれたのは茨木にとっての優しさだろう。でも茨木が私の体に入っている間は、私の意識は覚醒することは無くて、ずっと眠っているという点ではかなり危ない。
茨木だったならまだ大丈夫?かもしれないけれど、もし他の何かが入ったなら、と考えるとゾッとする。
「次からは急にああいうことはしないでね」
「善処する」
きっとまたやるだろうと思いながら、私から見た茨木は逆光で、少し眩しいけれど、神々しさを感じていた。人ならざるものでもあり、人に害をなすものでありながらも綺麗だと思うものが存在する未知。
茨木の頭に掛かる白いカーテンは、結婚式で纏う花嫁のベールみたいで、思わず見惚れてしまうものだった。
「雪花もこっちに来てみるといい。人間を上から見下すのも気分が良いぞ」
手招きする手の通りに足は進み、茨木はカーテンを暖簾のように払って、二人だけの空間が出来上がる。風が吹いても少し揺れるだけ、追い出そうとはしない。
「幾分数が減ったが、それでもまだちらほらいるんだぞ。ほら、あそこに三人いる」
あの三人組は帰宅する。きっと友達で、趣味が通じ合っていて人柄に心地よさを感じたおかげで、ああやって仲が良さそうなんだ。
少なくなった桜の花びらを踏んづけて、明日のことを考えて遊んだりする仲ほど羨ましい。
「俺には雪花さえいれば良い」
「ふーん」
「誰よりも何よりも好きだ」
何を言いだすかと思えば。時々口説くようなことを言って何がしたいのか分からない。それを理解するまでもないだろう。
「嫌いでも好きというわけでもない」
「それだけで俺は十分嬉しいさ」
誰も呼びに来ない教室の窓辺で、静かな問答を繰り返す。
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