第18話 変化

 暑さは治っても、騒ぎは静まらなくて逆に学校の大きな事件になった。誰かが先生を呼んで、怪我を負った男子と女子は担架で運ばれ、救急車に乗って病院へ搬送。特に女子の方は首の火傷が激しく、命に別状はないだろうけど、しばらくは入院生活だとかを噂で聞いた。


 私は突き指みたいになっただけで、保健室で氷を貰って冷やしながら事情を聞くために生徒指導などの先生に囲まれた別室で、何があったかを詳しく話した。

 もちろん茨木のことは言っていないし、話しても信じてくれないだろうから、急に発火したとか吹っ飛んだとかを言っていた気がする。

 先生たちは最初は私が暴力をして、火をつけたと思っていたらしく、かなり疑っていたけれど、あの教室にいた人たちに聞いて、私はその場にいたけど何もしていなかったと、多くの証言があったため、潔白が証明された。


 しかし、教室が急に暑くなって男子が吹っ飛び、女子の首が燃えたことはどうしてもわからず、妙な怪奇事件として処理されたんだと思う。

 それで分からずじまいで昼休みまで拘束されて、その教室で昼ごはんをとって、午後授業の後半から出席することに。


 ずっと側にいた茨木はまだ怒っていて、ブツブツ何か言っているけれど、私と目が合うと指のことを心配しているようだ。


 午後の授業を受けている時はチラチラと私を見ていたり、小声で話している人たちがいて、落ち着かない教室がとても心地が悪く感じた。



 放課後になって、まだ時間があるから人目につかない一階のトイレで茨木と話をする。


「茨木があんなことしたから、みんなすごい目で見てたよ」


 責めるようなことはあまり言いたくはないけれど、こればかりは流石にいけないことだと伝える。いくら私が傷付いたからってこんな事はしてはいけない。


「雪花を傷付けたらどうなるか知れて良かったじゃないか。もう二度とこんな事は起きないぞ」


「だからって、ここまでしろなんて誰も言ってないよ」


 見せしめになったとは確かにそうかもしれない。けれど、程度というものがある。

 今は妖怪とか不思議なことが日常にある事がないと思って生活しているのに、見えない誰かがいて火が出るとか、ポルターガイストの類いをどうやっても自然現象なんて言えるわけもない。だから変に注目されて目立ってしまうだろう。


「私は目立つのが嫌なの、あんなにたくさんの視線なんか無理。茨木が仕返ししなければこんなことにはならなかったんだよ」


「雪花の意思を分かっていなかったのは俺が悪い。だがそれ以上に痛そうにしてる雪花を見たくはなかった」


 悪気がない分強くは言えない。何も言わずに無言で黙っていると、目を離した隙に茨木がいつのまにか消えている。前にもあったけれど、鬼には急に消える能力みたいなのがあるんだろうか。

 そういうことを気にすると、何でもどこかで見てるんじゃないかと思って落ち着けないからできるだけ無関心でいる。



 茨木がいないまま、またあの教室で暴力を待っている。

 今日は週末ほどでは無いけれど、少し多い好奇の目を向けられていた。やはりあの茨木のことなんだろう。


 一人が目の前にやってきて私と視線が同じくらいに屈んで、無理やり目を合わせる。髪を掴んで合わせた目は悪意に満ちている。


「今日なんかやったんだって?他の学年まで広まってるよ」


 やっぱりそうだ。だから嫌だったんだ。何かしたらここでも何か言われて笑われて、貶される。


「もしかしてこれが嫌だからってキレちゃったの?」


「いくらお前がやったところで結果は変わんないんだから、他の子に暴力するのやめなよ」


ーー違う、私じゃない。やったのは私じゃなくて


「んじゃ今日もやるかー」


 ニヤついて利き腕を回し、私の制服の襟を掴んで今にも殴ってきそうな雰囲気に、痛みに耐えるため目を強く瞑って痛みを待った。


 目を瞑った瞬間に外の匂いがした。風に乗ってきたわけでもなく、急に現れた。

 目開けると顔のすぐ前に拳があり、その拳の腕をあの時の腕で掴んでいる茨木が立っていた。


 殴れずに焦って腕を引き抜こうと足掻いて喚き、他の仲間たちが不審がっている。

 腕が動かないと怖気ついてきたところで茨木は手を離し、踏ん張っていたため後ろに立っていた人たちを巻き添えに盛大にぶつかった。

 起き上がってすぐに品のない汚い言葉で罵倒して自分を正当化し、さも自分は悪くないというようなことを言って、さっきの自分と矛盾していることに気付かない。


「おい!どう言う事だよクソ!幽霊でも飼ってんのか!?」


 幽霊だったらどれだけ楽だろう。茨木はさっきの人を睨みつけて様子を伺っている。次に真正面から来たなら鼻を折られそうだ。


 仲間に私を囲むよう指示して、羽交い締めしようとしているらしく、私のすぐ後ろに回って脇に手を挟めようとしていた。

 でもそれはかわいそうな結末を迎えそうだ。後ろの人に向かって茨木が手を伸ばしたその瞬間に、ぶちぶちと音を立てて後ろの人がきっと叫んだ。

 後ろを見てみると茨木が大量の髪の毛を持っていて、抜いた毛根を床に容赦なく落とした。

 抜かれた方を見ると、頭皮が赤くなっているのが見えていて、かわいそうなくらい範囲が広かった。また生えてくる可能性はきっと低いだろう。


 恐ろしい現状に慌てていて、気味が悪いと私を見つめていた。私がやったわけじゃない。だけれど他にこんなことをする人がいないから疑うしかない。午前でも同じことがあってあまり気分が良くない。

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