第16話 道中
「雪花はこのバスに乗っていつも学校に行っているんだな。なんだこの速さ、遅すぎる! 俺なら倍は出せるぞ」
「道路が動いているみたいだ……この線、白くて少し面白いな」
「なぜこんなに遅いんだ!! 他の車に追い抜かされているぞ! もっとスピードを出せ運転手! 燃やすぞ!!」
う、うるさい。初めて車に乗った子供か。
他の人には聞こえないとはいえ、聞こえている私にとっては迷惑極まりない状況に朝からエネルギーが吸い取られそう。いや、吸い取られている。
騒ぐなと言うにも、周りの人たちは見えない、聞こえない、触れないから私が痛い人になってしまう。
「はぁ飽きた、なぁ雪花これいつ着くんだ? 遅いし俺が担いで行くか?」
「……」
「む、無視……だがその程度では黙らないからな」
超うるさいし絶対他の人には見えないこと忘れてるだろ。というかこんな誰も喋っていない静かな車内でさらに話せるわけない。
ーーどうしたものか。
考えを巡らせると携帯のメモ帳で会話すればいいと考えついた。
早速文字を打って、茨木に見えるように見えやすいように、画面を明るくしてから画面を爪で二度叩く。
気付くと画面を覗き込んで文字を読んでいる、だろう。
「雪花」茨木が顔を上げて私と目が合う。
「俺、あんまり漢字読めない」
初めて誰かの顔を掴んでやりたいと思った。
「疲れた……」
結局全部変換無しで平仮名打ちをした。自分でも読みづらくて、誤字があったとしてもあまり気づけなかったと思う。
そういえば茨木は一昨日、漢字はあまり読めないって言っていたし、忘れていた私も悪いか。けれど、そんなに難しい漢字を使っていたわけじゃないのに読めないって何だ。いっそ文字を教えてあげるのも……と思ったけれど、なんで私がそこまでしなきゃいけないのか。
早くコンビニに行ってパンを買おう。それで、自分の席座ってご飯食べよう。
「ちゃんと俺はセンサーに反応するんだろうか」
「知らないよ……」
入店の音が響いて、後ろで感嘆の声が聞こえてくる。きっと赤外線?だから一応反応するんだろう。
「うおっ冷たい。何だこれ」
何となく嫌な予感がするし、何かあったら面倒だから早く買って出よう。うん、それがいい。
何にでも好奇心を持つことは良いけれど、度がすぎると何をしだすかわからない。こんなの大きい子供だ。
「コンビニはたくさん見てきたが、中は入ったことないから新鮮だった。あんなに食い物が置いてあるとは……」
「こっちはヒヤヒヤしてたのに」
何事もなく終えて、今度は学校に行くだけだし、流石にもう何かあったりはしないはず。あっても、きっと野良猫が道路渡ったとかその程度だろう。
「るーるるるー」
「……!?」
こんなコンクリートと街路樹しか緑がないところで、まさかキツネ呼んでる?
いくら北国だからと言ってもこんな場所にいるわけ無いし何で今?何でこんな急に?というか本当に来ると思っているの?何で知ってるの?
確かに人気だったらしいけど、昔のドラマなのによく知ってるな。何で知ったんだろう……少し気になる。
「そんなことしてもキツネ来ないよ」
「なんだとっ!? いつでもどこでもキツネを呼べるって」
「それどこ情報よ」
「昔人間がよく口ずさんでたぞ、るるるるーって」
すごい勘違いしてる。いつでもどこでもって、誰が言ったんだろう。それをいつまでも信じてるって逆にすごいな。
「キツネは来ないのか……そうか」
「こんなところにいたら大問題だよ……」
野生のキツネはエキノコックスって言う寄生虫を大体持っているから、手で触ったりして卵が口の中に入ったりでもしたら肝臓がエグいことになるらしい。
最近では猫とか犬とかでもいるらしく、無闇矢鱈に触ってはいけない。
「死にたくなかったらキツネは触らない方がいいよ」
「そ、そうなのか。バラの棘みたいな感じか」
キツネキツネと、繰り返し呟いてやっと大人しくなった。
しかし、あと少しで学校に着くのが辛いけれど、パンが食べられると思うと嬉しい。
にしても今日はイヤホンで曲を聴く暇はなくて、一日の始まりがあまり良くない。気分が良くないし、もう疲れたし、今日は落ち着けるように過ごしていきたい。
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