第14話 思考
私は恋愛やコメディよりもサスペンス、ミステリー、ホラーなどのジャンルの方が好みで、その中でもたくさんの犠牲から勝ち取った真実や幸せという結末で終わる物語が好きだ。多少バッドエンドに近くても真実が掴めたのならそれでいいし、キャラクターが一握りの幸せで満たされたのならそれ以上は求めない。
逆に、主人公達が現れてすぐに解決してしまうのは、今まで解決しようとしてきた人達の努力が無駄になったみたいでつまらない。
全てを否定しているわけではないけれど、努力して得たという描写がなければ少し残念だと思う。マイナーかもしれないけど、自分のこだわりを持つことは大事だろう。
購入する本を持って、最後に棚を一巡していると、余所見していたせいで人とぶつかってしまった。
「すみません余所見していました」
「えっあっ……こちらこそ、すみません」
手から落ちた本を拾うと、少し吃る男の人は私を見て酸欠の金魚みたいにパクパクと口を開けていて、何か言いたいのかと思って口を見つめていると、顔を真っ赤にして早足に何処かへ消えた。
謝り方が悪かったからずっと見ていたのか、もっと遜れとか?
「今の男……許さん」
「うわっびっくりした」
いつのまにか後ろにいて、冷たい声で耳元で囁かれるのは心臓に悪い。
何よりどうやって足音無しで近くにやってきたんだろう。私には聞こえるはずなのに聞こえなかったし、茨木がいる気配も無かったから本当にどうやって近くまで来たんだ。
「いつのまに……?」
「それよりも雪花、今の男誰だ? あんなの、絶対許さんからな」
「は?」
さっきの男の人に何の勘違いをしているんだろうか。眉間にシワが寄っていて少し怖い。
男の人が去って行った方向を見て睨んでいる茨木にため息をつきながら、持っている本の会計を済ませようとレジに向かって歩くと機嫌悪そうにしながら付いてきて、後ろでもごもご独り言を言っている。
手早く済ませて本屋から出ると茨木が後ろをよく気にしながら歩いてくる。何かあるのか聞いてみると、何でもないと返ってきた。何でもないならいちいち後ろを気にしないでほしい。
帰り道、片手に三冊の本が入った袋を持って歩くと少し重くて重心が傾いた気になって注意しながら歩く。
そういえば、少し前までは桜色だった街路樹はとうに緑色になっていた。桜のシーズンは過ぎていたし仕方がないことだけれど、子供の時に見た桜並木は綺麗だと思っていたことを思い出した。
陽が当たるところはよく咲いていて綺麗な薄ピンクだったが、影になっているところもあって、そこだけは寒そうな枝に蕾だけがあった。
「蕾か」
「どうした?」
「何でもない」
考えた瞬間にどうで良くなったし聞かれるのも億劫だから早く帰ることにする。
帰っても特に変わらず楽しそうなリビングに静かな私の部屋に着き、買った本を部屋の小さな棚に並べてもう風呂に入って寝てしまおう。晩御飯は今日はいらないと伝えて、髪を乾かして、ベッドの布団に潜って……。
「雪花、今日腹に何か入れたか? 記憶が正しければ何も食ってないよな?」
「次に起きた時にでも食べるからいらない」
「あまりにも不健康! これでは身長も伸びない……っ!」
「うるさい」
痛いところを突かれるが怠さには逆らえない。身体測定では毎回150センチ代だけれど、来年からは160センチになるつもりだから今日くらいご飯食べなくてもいいだろう。逆に毎日食べてゴロゴロしてたら縦じゃなくて横に伸びたらどうするんだ。
ただでさえ自分を否定しているのにさらに自分が嫌いになったら生きていけない。
「本読んでて良いから、静かにしてて」
「文字は簡単な漢字しか読めんのだが」
「知らないよ」
「あっでもカタカナなら読める!」
「そう……」
目と口を開けるのも面倒になってくるとやっと静かになった。
服が擦れてる音と床を歩く音がして、茨木は暇を潰そうとどこかに行ったと考えると、近くに居る気配がしてまだ行ってはいないみたいだ。
しつこいと言おうとすると頭に少しの重みを感じた。昨日のと同じくらいで頭を撫でられていた。
「おやすみ、雪花」
「……」
こめかみ辺りに柔らかいものを押し付けリップ音みたいなのを残してから、少し笑って離れて行った。
考えるに唇らしきもの、なぜこんな事を。
「……目、覚めちゃった」
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