「ね、貸してたあの本、読んだ?」

 学校の帰り道、人気の少ない住宅地に入ったところで、私は友人に尋ねる。数少ない読書友達である彼女と私はお互いの本を貸し借りして、読み合い、感想を話すのが日課だ。

「読んだ読んだ! 短編も面白いね」

 大きな相槌をついて言う彼女、正直な性格だからお世辞は言ってくれないけど、そういう裏表の無いところが好きだし、次に貸す本の目当てもつきやすくって助かる。今回は本当に気に入ってくれたみたいで選書したこちらとしても満足だ。

「よかったあ、また他のも貸すよ」

「やった、楽しみにしてるからね!」

「ところでさ、どれが一番良かった?」

 そう問うと、うーんうーんと唸りはじめる。本当に迷っているのだろう、眉に寄ったシワをほぐしてあげたくなった。

「迷うけど……猫の話かな」

「わかった、膝の上でおやすみでしょ!」

「そうそう、それそれ!」

 想像してたより大きな声を上げてしまってつい周囲を見回してしまった、幸い同級生の姿は見えなかったのと、彼女が同じくらいの声で同調してくれたのが救いだった。だって、私も一番いいと思った話がそれだったから!

「死んじゃうなんて切ないよね」

「分かる、うちの猫もあんな風に考えてるのかな」

そっか、と心の中で納得する。彼女は確か猫を飼っていた、白と黒のハチワレだったかな。動物を飼っていない私とは感じ方も違うだろう。

「でもまだ先の話じゃない?」

「そんなことないよ、すぐ歳とっちゃうんだから」

 しみじみと語る彼女は少し大人びて見えた、あの話を読んでそんな風に感じるなんて、達観しているなあと思う。私には想像もつかない未来だ。

「えー、そんなものかなあ」

「そんなもんだよ」

 でも、なんだか違和感がある。すぐ歳をとっちゃうって言うのは、私達、人間の事なの? そんなもんじゃなくない? 先生の受け売りだけど、人生百年時代って言うくらいだよ。だいたい私達まだセブンティーンにもなってないし。

ああ、思考がぐちゃぐちゃと枝分かれを始める、落ち着こう、私はあくまで確認のつもりで、彼女に問うた。

「あ、あのさ、お婆ちゃんと猫の話だよね?」

「えっ、女子高生とお婆ちゃん猫の話じゃないの?」

 嘘お! 二人の叫び声が交わって夕暮れの住宅地にこだまする。何処かで猫がにゃあおと鳴いた、どうやら見事、猫に化かされていたみたいだ。

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膝の上でおやすみ。 時任西瓜 @Tokitosuika

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