第2話

どうも皆さん、中身おっさんの転生少女・深山愛みやま あいです。

ついこの間3歳になりました。


「あいちゃんはいくつでちゅか〜?」


「さんちゃい!」


なんてやり取りも、1日に何回もあります。

ちなみに、わざと「さんちゃい!」とか赤ちゃん言葉使って媚びてるわけじゃないんですよ。

まだまだ滑舌が悪くてですね、上手く発音出来ないんです。

やっぱりこれでも中身は成人男性なんでですね、言葉を噛むとかそういうのは恥ずかしいんですよ。

だから「いくつでちゅか〜?」って赤ちゃん言葉で日に何度も質問されると、向こうに悪意は無いとわかっててもなんかこう煽られているような気になっちゃってですね、ついつい返事する側も気合が入っちゃうんです。


すると自然と、元気一杯のお返事になってしまって、周囲の大人からはそれがまた大人気なんです。

おまけに気合を入れているせいか、しっかり相手に伝えようとしてですね、私もつい指を三本立てて三歳を強調したりするんですよ。

うぉりゃぁって感じです。

ところが年齢がゆえに短い指先のせいで、ちゃんと親指と小指をくっつけられなくて、手では四歳を表しているなんて失敗も度々です。

そしてそれがまたまた大人には人気らしく、目の前で悶える老若男女を何度見てきたことか。


そうしてセリフや指先で失敗すると、こちらとしても面白く無いので、ついつい不機嫌が表情に出てしまうことがあるんですが、そうすると


「あ〜ん! 拗ねちゃって可愛い〜!」


と、こうして熱い抱擁がプラスされることになります。

ちなみに今、私を豊満な胸で抱き締め潰しながら悶絶している女性は、私の祖母にあたる方です。

祖母…私のお婆ちゃんですが、見た目は三十代くらいに見える綺麗な女性です。

実際、実年齢もそこまでいってないのかもしれません。

祖母の長い黒髪は美しい艶を放ち、プロポーションも抜群ですし、まるでモデルか女優さんのような美しさです。

そのためか祖母は、「お婆ちゃんとは絶対呼ばせない」と常々ご家族に熱く語っておられました。

ただ、どうせ赤ん坊の私にはわからないだろうと思っていたのか、私を抱き上げながら「はーい、私がママでちゅよー」と刷り込もうとするのはどうかと思いましたが。

彼女は母方の祖母であるので、容姿も実母と非常に似ているため、私に前世の記憶が無ければ、見事に刷り込まれていたかもしれません。

祖母がそうやって刷り込みをしている現場を実母に目撃されて、珍しく怒る実母を見れたのは、なかなか可愛くてよかったですが。


などと回想に耽っていても、私に対する祖母の可愛がり暴走は止まりません。

ぶっちゃけ誰かが止めるか、私が嫌がる素振りを見せるまでは、今まで一度としてこの身悶え抱擁が自発的に止まったことはありませんでした。

なので私としては、精一杯の反撃をしたいと思います。

そもそも、人様に自分の失敗を『可愛い』などと笑われているのが、私としては我慢なりません。

幼い身の上で出来ることが限られている分、小さなところからコツコツと成功を積み重ねていきたいと思います。


なので私は、顔面に押し付けられる祖母の胸に対し、必死で腕を突っ張って体を離そうと試みます。

大きい上に異様に柔らかくて、しかも何故かノーブラのために私の指先がズブズブとめり込みます。

中身はおっさんでも、体は幼女なのでカケラも興奮しませんが、美人な上に男好きのする身体をした自慢の祖母です。


「ん〜? どうかちまちたか〜、あいちゃ〜ん?」


私の必死の抵抗でもピクリともしなかった祖母の抱擁ですが、流石に私の反応は伝わったのか、ほんの少し抱擁が緩みました。

おっぱいに埋もれていた顔をなんとか掘り出して、私は祖母と視線を合わせると、自分の指先をモジモジといじって準備を整えました。


「さ、さ、さー…さんさいっ」


私は両手を使うことで頑張って指三本のみを立てた右手を作り、それを祖母に突き付けながら台詞を噛まないように慎重に発音しました。

出来ましたよ。やりました。

指もしっかり三になってますし、台詞も少し舌ったらずではありましたが、噛まずに三歳と言えました。

小さな前進ですが、散々失敗を弄り倒された矢先の成功のため、思わず私の顔もにやけてしまいます。


「ぐっ…! …あー、私あいちゃんと結婚する」


祖母の突然のマジトーン低音ボイスに、私は思わずピシリと固まってしまいました。

祖母の顔もマジです。超真顔です。

冗談に見えない祖母の様子を固まったまま見ていたら、その唇が優しく私の口を塞ぎました。


「ん~……」


家族に対するものなんでしょうけど、なかなかに情熱的な熱いベーゼです。

幼女な身体を乗り越えて、おっさんの精神をダイレクトアタックされてしまい、不覚にも胸が高鳴ってしまうほどでした。


「一生養ってあげますからねー。一緒に帰りましょうねー」


再び私を柔らかく抱き締めた祖母は、私の頬に軽いキスを繰り返しながら立ち上がりました。

帰るも何も、ここが私の家なのですが。

祖母は迷いなくリビングを出ると、玄関に向かって歩き出しました。

突然のキスで固まっていた私は、なすすべもなく連れ去られるのかと思いきや、祖母は後ろから肩を思い切り掴まれ、ガクリと仰け反りました。

かなりの力で引っ張られたのか、結構祖母の腰が後ろに反っており、下手したら腰を痛めたんじゃないかと心配になるほどです。

そんなかなり不自然な体勢の祖母ですが、私のことを危なげなく両手で抱き上げたままなどころか、私は地面と水平を保ったままという気の遣われ方でした。

傍から見れば、私の身体だけパントマイムのごとく空中で静止していたことでしょう。


「お母さん、お昼の準備が出来ました。あと、あいちゃんのおうちはここ、です」


祖母に誘拐されかけた私を助けてくれたのは、先ほどまでキッチンで料理をしていた母でした。

その顔は笑顔なのですが、目が笑っていません。

というか、こめかみ付近がひくひくしてますね。

漫画だったらわかりやすい青筋が浮いていたんじゃないかというくらい、かなりおかんむりなご様子です。


「あら、思ったより早かったわね」


そんな静かに激怒する母の様子を欠片も気にした素振りも無く、祖母はしれっとした態度で受け答えをしました。

ちなみに、母がこれほどまでに怒るのにはちゃんと理由があります。

実は祖母は、こうして激情に任せて私を誘拐することに関して、複数回の前科があるのです。

実際に祖父母方まで連れて行かれた時には、両親に一言も無く来ちゃったけど、流石に心配しているんじゃないかと私も不安になりました。

数十分後に血相を変えた母が、祖母の字で【探さないでください。駆け落ちしますby深山愛】と書かれた紙を片手に乗り込んできた時には、あまりのことに思わず大笑いしてしまったほどです。

祖母に抱かれた私が珍しく笑い転げていたためか、母VS祖母の親子喧嘩には発展しませんでしたが、それ以来祖母が私を無断で連れ出す素振りを見せると、母はわかりやすいくらい怒るようになってしまいました。


「さぁ、あいちゃん、お昼にしましょうね〜」


祖母に対する態度とは打って変わって、蕩けるような甘え声を出しながら、母は祖母の腕から素早く私を奪い取りました。

とてつもなく機敏でありながら、私にはほとんど負荷が掛からない魔法のような手捌きです。


「むっ…」


ニコニコと満面の笑みだった母の眉間に、僅かに皺が寄りました。

何事かと私が母を見上げていると、母は身につけていたエプロンで、私の顔を優しく拭い去りました。

ちらりと見えた母の純白のエプロン生地には、ほんのりとピンク色をした何かが付着していました。


「お母さん…あいちゃんと遊ぶときはお化粧を落としてくださいって言ってるじゃないですか」


ジトッとした眼差しで母は祖母を見据えると、少しだけ険のある声でそう言いました。

どうやら祖母の熱いベーゼにより、私の唇や頬に祖母の口紅が付いてしまっていたようです。


「だって、あいちゃんの前では綺麗な私でいたいじゃない?」


母の責めるような言葉に対し、祖母は少し拗ねた感じで、そんな恋する乙女のようなことを言い放ちました。

実際は祖母も、幼い私に化粧品が悪影響を及ぼさないように、化粧といっても非常に薄いナチュラルメイク程度しかしていないのですが、それでもあれだけ熱烈な口付けを繰り返したために、私の肌に口紅が付着してしまったようです。


「その気持ちはわかりますけど…」


え、そこわかっちゃうんですかお母様?

実の孫に接するのに、恋する乙女みたいな気持ちで臨んじゃうのって、結構普通なんですが?

私が軽い驚きに目を丸くしていると、その表情をどう思ったのか、母は私の唇に優しくキスをしてきました。


「こんなに可愛いんですものね」


愛情たっぷりの母のキスですが、舌先を少し出して舐めるのだけは勘弁してください。

別に嫌だとか気持ち悪いと思っているわけではないですが、想いが強すぎて非常に恥ずかしいんです。


「あーっ、ずるい! 私も私も〜」


「ふふっ、順番ですよ〜。ね、あいちゃん」


ほんの少し出した舌先で、私の唇を丹念に舐め取る母の姿に、祖母が嫉妬の声を上げて抗議しています。

私が母に抱き上げられていることもあるため、そんなに激しい抗議ではありませんが、祖母は母のエプロンの裾をかなり強く握りしめているようでした。

だってエプロンを握り締める祖母の手の甲に、筋が浮かんでますもん。

握り込まれたエプロンもくしゃくしゃです。

まさにこの親にしてこの子ありといった感じですが、自分の娘が将来ファーストキスをする際に、当たり前に舌を差し入れるような女の子に育ったらどうするつもりでしょうか。


いや、私は絶対そんなことしませんけどね。

というか、そもそも私が家族以外とキスをする日は来るのでしょうか。

もし来たとして、その相手は男の子なのか女の子なのか…まあ、そんな遠い未来の心配事は心の戸棚にしまっておいて、今は母の美味しい手料理を楽しむとしましょう。

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