中身おっさんの転生美少女がネットアイドルとしてバズるまで
最上
第1話
どうも皆さんはじめまして、私は深山愛みやま あいと申します。
今私は生後数日の赤ん坊なんですが、ご覧の通り流暢に話せます。
いえ、実際に話せる訳ではないんですけどね。
まだ歯も生えてませんし…
まあこうして頭の中では普通に思考できますよ、ということです。
でも産まれたばかりの赤ん坊が、こんなにしっかり考えられる訳がないですよね。
私がしっかりした人間かどうかは置いておいて、思考能力としての話です。
理由は簡単で、私は転生者なんです。
いわゆる、前世の記憶を持ったまま産まれてきたってヤツですね。
前世では普通のサラリーマンやってました。
結婚どころか彼女すら出来たことがないまま、短い人生を終えてしまいましたが、こうして生まれ変わってしまったからにはくよくよしていても仕方ないので、前向きに生きたいと思います。
あ、別に前世でブサイクだったから彼女がいなかった訳じゃないですからね。
たんにまだ若くて、社会人としてまだまだこれからだって時だったから、恋人を作ってなかっただけですので、そこはお間違えのないようにお願いします。
え、学生時代はどうだったかって?
…ハハハ、まあもう死んだ奴のことはいいじゃないですか。
なので前世の名前もどうでもいいでしょう。
今は深山愛という新たな人間として、新しい人生がスタートしたところなのですから。
ではまず、状況をよく確認したいと思います。
私も前世ではそこそこサブカルチャーに造詣の深い人間でしたので、死んで転生とか夢見たこともありました。
ただ、私の名前からも分かる通り、転生した先は別に異世界ではありません。
ええ、名前の通り日本人ですね。
自分の名前については、両親や親戚と思しき方々が周囲で会話していたことから知りました。
周囲の会話を聞いている感じでは、ここが日本によく似た異世界という説も無さそうです。
家族が話題にしている内容に、死ぬ前にニュースで見聞きした話題がいくつかありましたからね。
つまり私が死んでから、数年数十年後の未来ってこともない訳です。
輪廻転生、間隔短すぎますよね。
前世で多分死んだ直後に、今世で産まれてるレベルです。
赤ん坊の魂ってどのタイミングで宿るのか、学会で物議を醸し出しそうです。
前世での結末は、多分事故死だと思います。
これについては、社用車で高速を走ってるのが最期の記憶だってだけなので、確信はありません。
とりあえず、自分の過失によるものや、他人様を巻き込んだものじゃなければいいなぁと思ってはいますが、現在のところは確認手段がないので、前世の死に様については心の戸棚にしまっておきましょう。
問題は次ですよ、次。
私の今世の名前が「愛」なんです。
周りの大人もみんなで「あいちゃん、あいちゃん」と呼び掛けてくれます。
こんだけ愛情一杯に、何度も呼び掛けられれば、そりゃ赤ん坊も自分の名前を理解出来るよなぁと素直に感心してしまうくらい、来る人来る人みんなが熱心に私に呼び掛けてくれています。
そう、私は今世では女の子なんです。
というか名前に限らず、病室を訪れた皆さんも口々に「可愛い女の子だ」「将来は美人になる」と褒めそやしてくれています。
キラキラネームじゃなくてよかったなと早速両親に強い感謝の念を感じつつ、性別が違う新たな人生に一抹の不安を感じているところです。
でもまあ、なんとかなりますよね。
もし家族の期待を裏切って、あんまり器量良しに育たなくても、前世の知識があれば人並みには生きていけます。
少なくとも今から二十年程度の間は、夢見た学生生活の再来な訳ですし。
いやまあ、まだあと数年は学生ですらないですけどね。
まあその数年は、学生生活以上に自由と解放感に溢れた期間なんで、何も問題はありません。
こうして思うと、私が過ごした社会人生活というのはその人生の中で実に短い時間でしたが、なかなかに私の神経をすり潰していたようです。
前世の記憶を持った女の子。
ミステリー系のドキュメンタリー番組でたまに観る設定ですけど、それが設定ではなく現実で起こるとなると、しかも自分の身となると、面白いじゃ済まない面倒事も多そうです。
まず両親からしたら、自分の子供の中身がおっさんサラリーマンだなんて、絶対嫌ですよね。
自分としては、おっさんなんて呼ばれる年齢ではないつもりですが、見たところ今世のご両親が非常にお若いんですよ。
多分前世の私よりも、確実に年下です。
可愛い可愛い我が子の中身が、自分より年上のおっさん………はい、絶対に前世の記憶があるなんて、誰にも漏らしません。
最悪、育児ノイローゼになった実母にキュッとされちゃう可能性もありますからね。
今世のお母様は、見た感じお美しい優しそうなお嬢さんで、そんなことをしそうにはありませんが、心が壊れた人間は何をするかわかりませんから。
異世界でもなく、特殊能力も神様との邂逅もない転生ですが、少なくともこうして愛情一杯に触れてくれるご両親を悲しませることのないように留意し、今世を楽しく生きて行くのを当面の目標としたいと思います。
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