第25話 引き裂かれる二人
サターンの目の前で、どんどん二人の時間は流れていった。優しいルトロスに見守られて、フェルシは元気に成長していく。けれど、フェルシがサターンと同じくらいの歳になっても、二人の世界に二人以外の人間は現れなかった。二人は森の中で、二人ぼっちで寄り添い生きていた。
「なんで、ルトロスはこの森にいるの?」
ある日、そう問いかけたフェルシに、ルトロスは少し困った顔をする。
「あまり楽しい話じゃないぞ?」
「いいよ! 俺、ルトロスのことは全部知ってたいんだ。だから、教えてよ」
フェルシの返事を聞いて、ルトロスは昔を思い出すように目を細めて空を見上げた。
「なに、大した話じゃないんだが。俺の両親は小国の王族だったんだ。俺は分家の者で直系じゃなかったんだが、王位争いに巻き込まれて追い出された。それで行き場もなく放浪していたら、お前を拾ったというわけだ。幼い子供を連れて放浪するわけにもいかなかったから、そのままここに住み着いて今に至る」
フェルシには彼の話のほとんどがよく分からなかった。国も王も彼にとってはおとぎ話の中の存在でしかない。だから、一つだけ分かったことが正しいのかを確認した。
「つまり、ルトロスも俺と一緒で、みんなに捨てられたってこと?」
真剣に問いかけるフェルシが愛らしくて、ルトロスは思わず笑ってしまう。
「ふ、ははは! まあ、そういうことで間違いないよ」
「間違ってないのになんで笑うんだよ? ガキ扱いすんなー!」
「はいはい」
フェルシはしばらく不服そうに頰を膨らませていたが、ふと何かに気づいたように手を打つと、満面の笑顔でルトロスに言った。
「でも、大丈夫だよ。俺だけは一生ルトロスを捨てないし、ずっと側にいるから。俺と一緒なら、もう寂しくないよな!」
その言葉にルトロスは少し驚いたように目を見開いて、それからとても幸せそうに微笑んだ。
「そうだな。お前と一緒なら、寂しくないよ。俺たちはこれからも、ずっと一緒だ」
※※※
それから少し経ったある日、森に謎の集団がやって来た。彼らは皆一様に黒ずくめの格好をしていて、目深にかぶったフードで顔を隠している。彼らは広大な森の中、迷うことなくフェルシとルトロスを見つけ出した。彼らの姿を見た瞬間、ルトロスの表情が凍りついた。
「フェルシ。しばらく隠れ家にいなさい」
二人は夜風を凌ぐ小さな木造りの隠れ家に住んでいた。ルトロスはそこにいろ、と言う。フェルシは、目の前の得体のしれない奴らの元にルトロスを置いていくのはどうしても嫌だった。
「嫌だ! 俺も一緒にいる」
「ダメだ!」
そうだだをこねれば、今までほとんど怒ったことのないルトロスが怒鳴りつける。その気迫に圧倒されて、フェルシはそれ以上何も言えなかった。せめてもの抵抗に、プイとそっぽを向いて走り去る。サターンはその後ろ姿を、嫌な予感を抱きながら見つめることしかできなかった。
※※※
拗ねた顔で膝を抱えて隠れ家にいたフェルシは、森が騒がしくなって来たことに気づいて慌てて外に飛び出した。ルトロスの怒る顔が頭に浮かんだがそれどころではない。さっきルトロスと別れたところに向かえば、森の地面に生える草が不自然に押し倒されていた。何かを引きずった跡に見えて、フェルシは息を飲む。一目散にその跡を辿って走るフェルシが見たのは、黒い服の男たちに引きずられて連れ去られていくルトロスの姿だった。
「ルトロス!」
フェルシは必死に追いかけるが、黒い服の男たちは彼に見向きもせず尋常ではないスピードで去っていく。
「ルトロス!」
「フェ、ルシ……来るな! 来ちゃ、ダメだ……!」
「嫌だ、置いてくなよ、ずっと一緒だって約束しただろ!?」
必死に手を伸ばしても、ルトロスには少しも届かない。フェルシが最後に見たルトロスは、見たことのない泣きそうな顔をしていた。
「ごめんな」
声が聞こえずとも、彼がそう言ったのがフェルシには分かった。広い森の中、一人取り残されたフェルシは声が枯れるまで泣き叫んだ。
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