第21話 これさえあればあなたも勇者!?

「なんでロベリアがここにいるの!?」


 驚いて問いかけるサターンに、彼女は爽やかに笑う。


「なぜって、勇者に会いにきたのよ」

「「「はあ!?」」」


 一切の迷いを感じない彼女の返答に、リリー以外の三人は一様に頭を抱えた。そんな中、リリーが戸惑いながら尋ねる。


「えっと……、彼女は?」


 そこで初めてロベリアはリリーの存在に気づいたらしく、慌てて乱れた髪を整えて微笑んだ。


「初めまして。私はロベリア・セシリフォーリア。サターンたちのお仲間、なのよね?」

「そうです。リリーって言います。サターンの友達です。その……もしかして、あなたが魔王、なんですか」

「ええ、そうよ。敬語なんて使わないで。サターンの友達なら、私にとっても大切な人だわ」


 彼女の花が咲くような笑顔に撃ち抜かれて、リリーは顔を真っ赤にする。サターンは早速ロベリア、ロベリアと親鳥に餌をもらおうとするひよこのように彼女にまとわりつき始めた。一気に混沌と化した状況に、ルトロスとフェルシは顔を見合わせる。


「なんかまた面倒なことに……」

「ここまで来てしまったのなら、一緒に行くほかないだろうな」


 そう言って二人は揃ってため息をついたのだった。



※※※



 オラシオンの街は、どこを見ても真っ白だった。建物も、道も、歩く人々の服装さえも真っ白で、サターンとリリーは圧倒される。


「すごいな……」

「真っ白だー!ロベリア、見て見て、真っ白だよ!」

「サターン、そんなに引っ張らなくてもちゃんと見えてるわ」


 サターンに引っ張り回されながら、ロベリアは彼に問いかけた。


「けれど、昨夜聞いた話ではあなたたちは色々な街を見てきたのでしょう?もう、このくらいでは驚かなくなっているのではなくて?」

「そりゃあ、もっと変な街もいっぱいあったけど……。こんなに綺麗な街は初めてだよ!」


 サターンの言葉にリリーも頷く。


「そうだな。ここはすごく綺麗だ。さすが聖都って感じだな」


 観光気分で楽しむ三人に、フェルシが呆れたように首を降った。


「あのなあお前ら。ここ、本来は勇者の拠点になってるはずの場所なんだからな? 振る舞いには気をつけろよー」

「「はーい」」

「分かっているわ」


 そう答えた次の瞬間には、三人は次の興味対象を見つけて走っていく。


「あー、なんかガキが一人増えたみてー。ロベリアって実は結構な年だろ? 見た目は可愛い女の子だけどさ」


 ため息をつくフェルシをルトロスが苦笑しながらなだめた。


「まあ、彼女は生まれてからほとんど故郷の町を出たことがなかったらしいからな。はしゃぐのも仕方がないだろう。許してやれ」

「へいへーい」


 そのとき、楽しそうに様々な店を覗き込んでいた三人が突然立ち止まる。何かあったのかとフェルシとルトロスも近寄って、そこにあったものに唖然とした。


「な、なんじゃこりゃー!?」


 フェルシが思わず叫ぶ。全員がそのあまりの異様さに唖然としていた。


 彼らの目の前の店には、こんな看板がかかっていたのだ。


『これさえあればあなたも勇者! 白髪ウィッグ&桃色サングラスセット販売中!』


「……私は、そんな面白おかしい勇者に倒されなくてはならないのかしら?」


 そう呟いた魔王は、ある意味で勇者が選ばれたという神託を聞いた時より悲しそうな顔をしていた。



※※※


「ようこそいらっしゃいました! 勇者志望の方々ですかな? さあさあこちらへお座りください! 皆様にぴったりのウィッグとサングラスをご用意しますので!」


 ニコニコと微笑みながら強引に席を勧められて、五人は用意された椅子に並んで座る。店員が次の言葉を口にするより前に、ルトロスが問いかけた。


「俺たちは旅人なのですが、勇者志望とはどういうことでしょうか? 勇者は白い髪に桃色の瞳、勇者の剣を引き抜ける者、なのでは?」

「その通りです! ですが、一向に勇者が現れないので、教会は神託に不備があったのだと言い始めたのです。勇者の剣を引き抜いた瞬間に白髪で桃色の瞳をしていれば、それは勇者と言っていいのではないか、と! そういうわけで、誰にでも勇者の剣を引き抜くチャレンジをする権利を得られるようになりました。この店は『勇者チャレンジ』の参加資格となる白髪ウィッグと桃色サングラスを専売している店なのです」


 店員は早口でまくしたてるように説明する。そのあまりにも突拍子もない内容に、一同はもはや呆れるほかなかった。


「大事なのは勇者を見つけることじゃなくて、勇者に魔王を倒してもらうことだろ?そんなやっつけ仕事みたいに勇者を探していいのか、あんたら」


 フェルシの言葉にも店員は笑顔を絶やさない。


「そこはまあ、私たちの関与するところではありませんよ。私たちは教会に依頼されて勇者セットを販売しているだけですから。責任の所在は教会にあります」


 これにはサターンとリリーも顔を見合わせて苦笑するほかなかった。ロベリアは現実逃避をするかのように首を振っている。そんな中、ルトロスが店員に負けないくらいの満面の笑顔で告げた言葉に一同は驚愕した。


「じゃあ、5セットください」

「「「「え!?」」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る