8.食


 料理とは?

 

 こう打ち込んで検索をかけると、ネット上に出てくる記事のいかに多いことか。


 カップ麺にお湯を注ぐだけでは料理とはいえない? 食材を選び、調理に愛情と手間暇をかけ、美味しく食べてもらうものが料理? コンビニの惣菜をお皿に盛りつければ立派な料理? 調理と料理の違いはなに? 焼く、煮る、揚げる、食材を仕込むまでが調理、それを皿に盛り人に提供したものが料理、などなど。様々な意見や価値観が飛び交っている。きりがない。


 食は人にとって究極の快楽。関心が高いのだろう。


 僕は、大学に入学した時からずっと独り暮らしをしていた。よって、それなりに自炊もしたし、料理のレパートリーもそこそこある。料理が趣味とまでは言わないが、大学を中退したとき、とりあえず生活費を稼ぐために選んだ仕事は、居酒屋の調理場だった。料理の腕は、独学ながらもそれなりに自信はあったし、料理人という黙々とこなす職人気質な仕事が、もしや自分に向いているのでは? と考えたのも、自然な流れだったと思う。自分を顧みて、悩みながらも導き出された一つの選択だった。


 いざ調理場で働いてみると「そんな自炊程度の技術、プロの現場じゃ屁の役にもたたんわ」と、先輩バイトに馬鹿にされたのも現実。たまたま理不尽な職場にあたっただけなのか、或いはそれが世間の当たり前なのか、どちらとも言えない。だけど、料理を嫌いになりかかったのも事実だった。


 そんな、いわゆる自炊程度の僕から見ても、キッチンでの彼女は、まるでプロの料理人のように、或いはベテラン主婦のように、テキパキとして、目を見張るほど手際が良かった。


 玉葱の皮を素早くむき、トントントンッと包丁のリズミカルで心地よい音が響く。みじん切りにしているのか?


 彼女にまともな料理が出来るなんて、思ってもいなかったし、それこそカップ麺にお湯を注いで料理だと言い張るノリなのでは? と、或いは仮に多少出来たとしても、素うどんやお粥などを想像していた。


 が、とは言え、普通ではない彼女のメニューのチョイスは、やはり普通ではなかった。


 彼女は冷凍庫から大きな肉の塊を取り出し、レンジで解凍して、それを一口サイズのブロックにカットし、フードプロセッサーを取り出して──というかフードプロセッサーなんてウチにあったか? いや、絶対に無かった──カットした肉(ぱっと見、見事な霜降りの高そうな牛肉)をゴロゴロと入れ、ボタンを押す。挽肉にしたのか!? そして、その挽肉をボウルに移した。

 今度はみじん切りにした玉葱を、バターを大きめにカットして入れたフライパンで炒める。


 卵黄、小麦粉、牛乳、塩胡椒、パルメザンチーズを少々、ブラックペッパーをガリガリ、そして炒めた玉葱をボウルの挽肉と合わせて、捏ね始めた。

 

 あっ、ハンバーグ?


「ハンバーグなんて作れるんだ」 

「ふふんっ、お前、よく分かったわね、食べ物に関しては馬鹿じゃないのね。なるほど、欲求だけはなんでも人一倍なんだな」

 いやそんな、褒めてないね──。

「とっても手際がいいね。得意料理みたいに」

「馬鹿ね。ハンバーグを作るのは二度目。料理にしたって、やり始めたのは、一昨日からよ」

「二度目!」

 そもそも、料理が出来る云々以前に、僕と出会う前の彼女が何だったのか、どういう状態だったのか、さっぱり想像もつかないし、お手上げだ。


 なんとか体を起こし、彼女をまじまじと見つめた。彼女はしっかりと捏ねたハンバーグのタネを一度冷蔵庫に入れ、今度は人参とジャガイモを切り始めた。


 ハンバーグ──。病み上がりというか、左腕には鈍い痛みが残っているし、全身に倦怠感、いわば病床に伏せる僕には些か重たい料理かも。


「肉はいいのよ。パワーがつくわ。なにより生命力を貰える」

 

 タンクトップにデニムのショートパンツ姿。しなやかな腕に握られた包丁が、やけにギラギラと光って見えた。以前の彼女は何をするにもぎこちなく、いわば乱暴にも思えるその一挙手一投足だったが、今はまるで、家事全般をきっちりと教育された、でも家政婦というわけではなく、それら全ては嗜みといった、ある種ご令嬢のような優雅ささえあった。


「そうだね、よく聞くよね。肉」

 確かに肉には栄養がある。が、食べるにも体力がいる。


 ただボーっと置物のように、一方を眺めているだけの僕に気づいた彼女は、お湯を沸かし、また何かを作り始めた。付け合わせの人参とジャガイモのバター煮(おそらくそうだと思う)の鍋が邪魔でよく見えなかったが、マグカップに何かを入れてお湯を注ぎ、こちらへやってきた。

「ほら、これでも飲んで、待ってなさい」

「え?」

 マグカップを手に取ると、甘酸っぱい香りが立ちのぼる。

「これも体に良いのよ」

 一口飲んだ。体に染み渡るように温かい。それは、ホットレモネードだった。

「美味しい。レモンと蜂蜜がとってもいい感じだ」

「ふふ、当たり前でしょ、レモンと蜂蜜しか入っていないんだから。ふふふっ、馬鹿だなお前は」

 と言って、彼女はキッチンに戻る。その戻る際に、彼女はデスクの椅子をベッドの横に引いてきて、僕の傍らにさりげなく置いていった。これは? ──きっとマグカップを置くための場所として持ってきたのだろう。僕は今や右手しか使えないし、マグカップをずっと片手で持ち続けるのは大変だろうと、そう推測してだ。きっと。


 ホットレモネードを飲んで体が温まったのもあるが、鳩尾の奥が少しジンと熱くなった。心遣い? 彼女は一体どうしたのだろう? 左腕のことを申し訳なく思うから? それだけでない、以前の彼女──この年齢にして一体どんな経験をしてきたのだろうかと思うほど、酷くすれっからしな印象だった──とまるで違う、なんというか、寄り添うような優しさを感じる。気心の知れた空気のような、その雰囲気は、もはや別人だった。

 

 目覚めたら左腕は無く、彼女が普通の人間ではない事を知った。でも、それよりも僕は、彼女のこの変化に強く驚いた。


 それから──、

 

 いよいよハンバーグの仕上げだ。彼女はペタペタとハンバーグのタネを、お手玉のように両手に交互に打ち付けて空気抜きをする。そして、手の平で形を整え、まな板の上に置いた。


 僕はゆっくりと立ち上がった。レモネードのおかげで少し力が出たのかもしれない。もうそうせずにはいられなかった。

 よろよろとキッチンへ歩む。

「あ、お前、寝て待ってなさいよ。もうすぐ出来るから」

「な、なんか手伝いたくなって──」

 と言ったものの、片手で出来ることなんて──、

「いいから、座ってなさいよ」

「作るところ、もっと見ててたいんんだ」

「ふふ、馬鹿ね、誰が作っても同じことよ。ハンバーグ作ったことないの?」

「ある。けど、君が作るところ見ててたい」

「そう。そうね、珍しい事なのかもね。私が料理をしているのって、よく考えれば、とても不思議なことなのかもね。ふふっ」

 不思議なこと。ああそうだ。君は初めて出逢った時から、ずっと不思議だった。


 彼女はフライパンにオリーブオイルを垂らし、強火(電気コンロなので強)で温め、そしてハンバーグを置いた。ジュワっと食欲のそそるいい音がする。片側が焼けてきたらひっくり返して、コンロから外し蓋をした。なるほど弱火で蒸し焼きにしたいけど、電気コンロだと加減が難しいようだ。ジュワジュワという余熱で焼ける音の強弱を聞きながら、コンロに戻したり外したりして、熱を調節する。そして数分後、蓋をとると、ハンバーグはいい感じに焼き上がっていた。

「まあまあね。ちょっと調節が難しいけど、電気コンロだとこれが限界だわ。私は料理のプロではないし」

「いや、十二分に上手だよ。電気コンロを使うプロなんていないだろうし。てか、電気コンロのプロみたいだよ」

「なにそれ、ふふふ。ガスコンロというのを、使ってみたいわね」

 そう言いながら彼女は強火(強)のコンロにフライパンをもどし、赤ワインのボトルを掴んで、瓶口を親指で押さえながら、ぐるっとフライパンの上から円を描くように注ぎ入れた。ジュワワワワワッと心躍るような音がして、電機コンロなので流石にフランベとはいかないが、それでも赤ワインのフルーティーな香りが立ちのぼった。

 そして再び蓋をして、一分ほど少し蒸し焼きにして仕上げた。もう電機コンロのプロというより、本当にプロの料理人のような、鮮やかな手際であった。

「さあ出来たわ。お前は向こうで待ってて」

 そう言って、彼女は焼き上がったハンバーグを皿にうつし、肉汁の残るフライパンにウスターソース、ケチャップ、たまり醤油を少々入れてソースも仕上げたのだった。


 僕は、大人しくちゃぶ台の前で待つことにした。


「さあ、出来たわ。お食事よ」

「ありがとう」

 大きな白い丸皿に、いい焼き色のハンバーグ。ソースも丁寧にかけられている。付け合わせに人参とジャガイモのバター煮。軽く炒めたルッコラ、プチトマトも添えられていた。

「すごいね。洋食屋さんに来たみたいだよ」

「二度目だけど、一度目よりもうまく出来たと思うわ。さあ、食べてみなさい」

 彼女は得意げに微笑み、少しはにかんだ。こんな笑顔、以前は見たこともなかった。もうそれだけでも僕は──、

「もう、なんだか、料理も君も、見ているだけで、お腹いっぱいな感じだね」

「お腹いっぱい? どういうこと? お前、何も食べていないのに満腹? 食欲がないの?」

「いや、そうじゃなくて、気持ちがいっぱいってことだよ」

「そう、つまり、心が満たされたという意味?」

「うん。心がとても、癒された気分だよ。まだ食べてもないのに。おかしいね」

「心の状態を、お腹という言葉を使って表現するのね。なるほど」

「僕の言葉遣いが正しいかどうか分からないけど、満腹になれば誰だって心が満たされるだろうから、こんな言い方があるのかも」

「そう。日本語というのは興味深いわね。私はネットで言語を学んだから、実際の会話で意味を理解しかねる場合があるのかもね」

「ネットで日本語を? 以前から話せたわけではないんだ?」

「そうね、数時間で──、ふんっ、もういいから、早く食べなさいよ。馬鹿」

 と言って、彼女はフォークとナイフを僕に押し出す。

 

 フォークを取ろうとして──、あ、そうか、もうナイフとフォークを一緒には使えないか、などと考えていると、彼女がひょいとナイフを持ちあげ、ハンバーグを切り分けだした。

「ほら見てよ、たっぷりの肉汁が美味しそうでしょ?」

「ほんとうだ、そういえば、凄くいい霜降り肉だったね。なんか高そうな」

「そうね。松坂牛A5ランクというものだったわ。いい食材なんでしょ?」 

「うわっ! それもの凄く高いやつじゃ? てか、そんな高級なのをミンチにして? むしろそのまま焼いて──」

「もう、いいからそんなの、今更よ、お前。早く食べなさい! 馬鹿っ!」

「あ、ゴメン」


 僕は一口サイズに切り分けられたハンバーグを、慌てて口の中に放り込んだ。

 肉汁の旨みがジュワっと広がり──、その食感も風味も香りも、なにもかもがどうしようもなく美味しかった。

「うっ、美味いっ!!」

「ふふん。ほら、だから言ったでしょ? 馬鹿だな、お前は」

 彼女は、とても満足そうだった。


「ほんとに美味しいよ! これ」

 全身の倦怠感はどこへやら、僕はどんどんと食べて、大きくほおばった。目尻に涙が出るほどに。

 自分の部屋で、女の子に作ってもらった手料理を食べるなんて、初めての事だった。それだけで心が一杯になる。でも、そんな感慨もさることながら、そのハンバーグは料理として、本当にとても美味しかったのだ。


「なんだろうこのハンバーグ、めちゃくちゃ美味しいよ。もう人生で一番かも知れない。こんなの食べたことないよ! もちろん最高級の松坂牛を使ってるのもあるだろうけど、いやそれだけじゃない、なんだろ、この感じは──」

「そうね、このお肉はとっても美味しいわね。私も最初、頂いて、すごく満足したわ。美味ね」

「そうなんだ。うん、肉も肉汁も最高としかいえないね! この味付けが、またソースもいい、それにハンバーグの下味も絶妙だし、なんか、中に爽やかなハープっぽいピリッとした辛さがあって、アクセント? 隠し味というか、それが効いててまた凄くいい味だね」

「そう? お前、中々目ざといわね。それは実山椒よ」

「実山椒! そんなの知ってるの!?」

「この国の香辛料でしょ。独特の芳香があってピリッとした辛さで、肉に合うと思ったわ。その粒の噛み応えの感触も、アクセントになると思って入れたの。よい感じでしょ? ただね、サーロインは少し肉質が柔らかすぎるわね」 

「すごいね、なんかほんとにプロの料理人みたいだ。どうやってそんな──」

「ふふん、すべてネットで得た情報よ。メニューもレシピも食材も調理方法も香辛料もすべて。そして、美味しいもの、というコンセプトで分析したの。私なりに。要は組み合わせただけのことよ、情報を」

「情報を──、勉強熱心なんだ」

「そうね。この世界は、興味深いものだらけよ、私にとっては。ただ、この膨大な情報ネットワークだけで、ほとんどが手に入るわ。便利なものなのね」

「なんでもすぐに吸収して、習得できるんだ?」

「ふふっ、ちなみにだけど、馬鹿なお前の経験や知識も借りたわ、料理のね。電気コンロとか」

「えっ!?」

「お前のももらったから」

「僕の情報?」

「そうね。食べたし──」

 と言って、彼女はお茶目に舌を出して、笑った。


 食べた、左腕のこと? 


「その、君は、左腕を、食べると、その、僕の今までの経験なんかも分かったりするの?」

 彼女は少し目を伏せ、何かを考えこむように言った。

「どうやら、そのようね。にもよるのかもしれないけれど、生物としての生体データ以外にも、個体に蓄積されたあらゆる情報が取り込まれるみたいなの。それは、内面、心、精神というものかしら、いうなれば魂といったものに同期するのかもしれないわね」

「魂と同期!?」

「そんなに難しことではないと思うわ。人間でも起こりえる事ではないかしら。相手の考えてることが何となく分かったりすることって、今までになかった? 親しい人とか。家族とか、ただ、その度合の問題よ」

「親しい人なんて、そんなにいなかったし──」

「そう? そうね、お前はだったのよね」

「え? あ、それは、ええっと──」


 この話を聞いた直後、どこかふっと夢から醒めるような感覚がした。 


 やはり彼女は、普通の人間ではないのだ。怪物、モンスター、そんな言葉が陳腐に思えるほど、とにかく人智を超えている。なにせ僕の左腕を食い千切って食べたのだから。それだけでなく、僕の経験や知識も吸収してしまい、いや、きっとネットと通じて世界中のあらゆる情報をも喰らい、瞬時に学び、自分のモノとして取り込んでしまうのだ。これはとてつもない能力だと思う。このままでいいのだろうか? これはとても恐ろしいことなのでは? 

 

 なにかに迫られている感覚にも襲われた。


 が、今はただ、僕のためにこんなに美味しいハンバーグを作って、ご馳走してくれている。ただ僕のために。そのとてつもない能力を使って。 


 同期──、相手の考えていることを感じ理解する。心が通じ合う。でもそれって、愛し合う事にも似ているような気がする。


 そうこう考えていると、また別の意味でドキッとした。──まさか彼女、今僕が考えている事もすべて、読めるのかな? 筒抜けに。


「僕は、君のことが何でもわかるわけではないけど、その、以前よりも、君を近くに感じるよ、とても」

「ふふふん。そう?」

  

 彼女の言う事もやる事も、そしてこの先も、まるで想像がつかない。彼女は普通の人間ではないのだから。でも、出自がどうあれ、人として、心が通じ合うというのは、それは僕がひとりの人間としてとても嬉しい事だと思う。


「もっと食べなさいよ。冷めちゃうわ」

「うん。でも、冷めても美味しいよ、これはきっと。──調理技術や、工夫、色んな隠し味やらも凄いけど、でも、その、僕は、君の、美味しいものを食べさせたいという気持ちが入っているというか、そういうのが一番美味しいよ。うん、愛情みたいな、その──」

 少し恥ずかしくなったけど、僕はそう正直に言った。


「ふふん、愛情? 馬鹿ね。でも、そう言われるのって、嬉しいことね。なら私は、そうね、沢山入れてあげたわ」

「うん、ありがとう」


 左腕を食べられたのに、今や僕は、ずっと感謝の言葉を彼女に伝えていた。一体なんなんだろうか?


「ふふっ、そうね、あともう一つ、隠し味に入れたわ」

「え、なに?」

「私の肉」

「えっ」


 ぶっ! 僕は口の中のモノを全て吹き出しそうになった。


「うっ、う、嘘でしょっ!?」


 とんでもないことを言っているのに、彼女はケタケタとお腹を抱えて笑った。子供の様に無邪気に、悪戯っぽく。


「嘘よ。お前、その顔なに? 馬鹿ね。ふふふっ、ジョークというやつよ。こういうのをそう言うのでしょ? ジョークよジョーク、ふふふっ 可笑しいわ」

「え、ええーっ!? いやいや、もう、びっくりしたよ! 人食いになっちゃうだろ!」

 びっくりしたというのは、彼女がこんな冗談を言うまでに変わったという事もある。いや、それにしてもこれは本当に冗談なのか? 或は僕の反応を見て、冗談だと言って、そう誤魔化しただけで、ホントは、本当に──、


「でも、そうね、食べてみたいとは思わないの? お前は。人は好きなものを、食べちゃいたい、とか表現するでしょ?」

 そんな言葉は知ってるんだ。

「思わないから! そういう表現はあるけど、それは言葉の綾だよ。目に入れても痛くないって言うのもあるでしょ?」

「目に入れても痛くない? その言葉も、面白いわね」

 

 カニバリズム。その昔、好きな女性を殺害し食べたという猟奇的な事件があったというが、僕にしてみれば信じられない、あり得ない、理解できない嗜好だ。勘弁してくれ。


 彼女は僕の疑いの眼差しを読みとってか、

「まあ、そうね、でも冗談よ。お前、馬鹿ね、いくら何でもそんな酷いこと、私がお前に強要しないわ」

 と言って立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを二本持ってきたのだった。

 いやまて、人の左腕を食っておいて、そんな事言われても全然安心はできない。

「さ、飲んで。パンかライスがあればよかったんだけれど、今ないから、穀物の代わりよ。ビールも穀物でしょ?」

「こんな体で、ビールまで!?」

「アルコールはいいよの。精神を開放するわ」


 確かに、色々と発散させる。

 

 食とは、料理を味わうのもそうだけど、こうして相手と会話しながら楽しむものだ。頭では理解していたけれど、僕はこの時、初めて実感したのだった。で、そこにアルコールが入れば尚のこと。


 ええいっ! もうどうとでもなれだ。こうなりゃ飲んだくれてやるぞ。


 そして、彼女に酔い溺れるんだ。


 そう思って、僕は缶ビールの口を開けたのだった。プシャっと。


 

 



 

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