青い薔薇と少女

深神鏡

呪われし者

一輪の青い薔薇が咲いていた


呪われし王子は

優しい風に撫でられ

悲しげに揺れていた


魔女の愛を

受け入れなかった王子

冷たい心と罵られ

姿を変えられてしまった


寂しくはなかった


暖かい太陽の光が囁く

大丈夫と


漆黒の闇に染まる夜も

静謐な月が見守ってくれていた


王子の心は現実と夢を彷徨う


『なんて美しい薔薇!』


ある日

目の覚めるような

可愛らしい声の少女が現れ

王子の棘をそっと撫でた


こんな最果ての地に

人が来るなんて奇跡か……

王子は驚いた


何も知らない少女は

一輪の青い薔薇の隣にふわりと座り

嬉しそうに笑った。


「貴方、不運ね こんな場所に咲くなんて」


一人で死ぬの寂しいから

一緒に死んでくれる?


そう呟き 青い薔薇に触れると

慎重に手折った。


王子は鋭い痛みを感じ意識を失った


最後の瞬間見えたのは涙の雫


少女の手の中で

ゆっくりと

うねるように

青い薔薇は捻れて

溶け崩れ

空中に

極彩色の渦が広がり

やがて人の形になった


王子の呪いが死によって解けた。


少女は凝視した

傍に横たわっている

眠っているような

美しい青年の死体を


艶やかな青い長い髪は優雅に広がり

陶器のような肌を際立たせている


悲しげな少女は悟った

この美しい死体が

手折った青い薔薇だと



『私も死ぬから許してね美しいお兄さん』


少女は手にした銀色のナイフで

己の胸を一突きすると

青年の傍に倒れた。


口から血が零れる


震える手を伸ばし

青年を抱きしめ

目を閉じた


魔女は妖艶に微笑み

水晶玉に映る光景に満足すると

笑い声を上げた


『いい気味!』


愛憎に歪んだ

悲しげな瞳で


水晶玉を乱暴に掴むと

床に叩きつけ砕いた


呪いで苦しみ

儚く散った王子の死に

満足したはずなのに

不可思議な心の痛みを感じる


不死の命を持つ魔女は

忘れられない記憶という名の毒が

心に染み込んでその身を蝕み

永遠に苦しむ事になった


哀れな者たちの物語……


『この絵、誰が描いたんだろ?』

「さぁ、美しい死体の絵なんて悪趣味な」

『そうかな?とっても綺麗だけど』

『絵の挿話も悪趣味だ気に入らん』

『私は好きだけどなぁ』


幻想美術館のとある

古き美しい絵を眺める二人の男女は

仲良く手を繋ぎ

絵を鑑賞しながら

歩いていった。


王子と少女の魂は

生まれ変わり

幸せになりましたとさ


めでたしめでたし。

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青い薔薇と少女 深神鏡 @____mirror13

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