眼鏡男子
キム
第1話 眼鏡男子
彼を見ていた。
彼の眼鏡を見ていた。
彼と、彼の眼鏡をずっと眺めていた。
今どきにしてはちょっと珍しい、古風な丸眼鏡を掛けている酒井くん。
隣の席で頬杖をつきながら、かったるそうに授業を受けている。
あ、今アクビを噛み殺した。
キーンコーン カーンコーン
「今日の授業はここまでだ。今日やったところはテストに必ず出るから、よく復習しておくように」
酒井くんを眺めていたら歴史の授業の時間が終わっていた。
日直が黒板を消し終わる前に、急いで黒板と教科書を見比べて重要と思われる部分にラインマーカーを引いていく。
「おい、松田」
「わっ」
急に酒井くんが声をかけてきた。
びっくりして、マーカーが教科書を飛び出し机にまで伸びてしまった。
急いでティッシュで擦りつつ、返事をする。
「な、なあに?」
「お前さ、さっきの授業中ずっと俺の方見てたろ」
バ、バレてた……
「さっきの授業だけじゃなくていつも。なんか盗み見るようによ。何か俺に言いたいことあんの?」
「あ、いや、別に言いたいことなんてないよ」
「じゃあなんだよ」
「いや、その、眼鏡が……」
「メガネ? ああこれ?」
そういって彼は眼鏡を外す。
「これな、小六の頃にゲームやりすぎて目を悪くしてさ。そんで兄貴の友達の家がメガネ屋をやってるからって、オーダーメイドしてもらったんだ」
そう言いながら眼鏡を見つめる彼の表情は、まるで小学六年生のような無邪気さを含んでいるように見えた。
「そうなんだ。結構付き合いが長い眼鏡なんだね」
「そうだな。度数とかサイズの微調整をしてもらってかれこれ五年ぐらいの付き合いになるから、結構長いかもな」
五年。僕が酒井くんと一緒のクラスになったのは今年が初めてなので、まだ知り合って四ヶ月程度。
その差を頭の中で感じ、無機物を相手に少しばかり嫉妬をしてしまう。
「お前は?」
「え? 僕?」
「松田はメガネかけねーの?」
「んー、そこまで目が悪いわけじゃないからね」
僕の視力はそんなに悪いわけじゃないし、一番後ろの席からでも黒板の文字は読める。
「ダテとかあんじゃん。そういうのでも掛ければふいんき変わるかもよ」
「ふんいき、ね。うーん、伊達眼鏡かー」
眼鏡を掛けようなんて、ましてや伊達眼鏡なんて考えたこともなかった。
でも、僕が眼鏡を掛ければ、彼との共通の話題が増えるだろうか。彼に一歩近づけるだろうか。
「ねぇ、今度その眼鏡屋さんに連れて行ってよ」
「ん、いいぜ。いつにすっか」
「えっとねー」
これは僕が眼鏡を掛けていなかった頃の、眼鏡を掛けるきっかけになったお話。
眼鏡男子 キム @kimutime
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