第9話 猫
「ねー、ここかなぁ?」
俺と同じ方向を見つめ、そう聞いてくるサクラに
「お前のその本にはなんて書いてあるんだよ。」
と聞く。サクラはずっと手に抱えていた『魔法の本』を膝の上に置いた。栞が挟まっている部分を丁寧に開く。ズラズラと並んでる文章に、綺麗な桜の押し花が入っている栞。そこから春の香りを感じた。でもそれは一瞬のこと。文章を目で追っていたサクラは、そうみたい、と呟く。
「洋館の前に門があるじゃん。その門にこれと同じ模様がついてたら絶対そうだよ。」
だから見に行こう。そう言ってサクラは勢いよくその場に立つ。横に置いてた紅茶のペットボトルが倒れても気にせず、早く行こうと急かした。飲み物類や敷物を片付けて洋館に向かう。近づくにつれ、不気味さが増してくる洋館。無造作に生えた木々を避けながら、門の前に出た。サァーっと冷たい風がふく。見ると、門の真ん中には確かに模様があった。
「これ?」
聞くと、サクラは『魔法の本』と見比べて頷く。
「うん。これと一緒だ。」
でも門には鍵が掛かってるのか開かなくて、どうしようかと俺はサクラの方を向く。その間を縫うように悠々と通りすぎていく猫。
「猫くん、どこいくの?」
サクラが声をかける。猫はサクラを横目で見て、プイッと顔を背けた。そして、
「ついておいで。」
突然嗄れた声が聞こえる。お婆さんみたいな声。俺とサクラは驚いて、もう一度猫を見る。
「え、え、え。猫?猫が、喋ったの?」
でも猫はもう振り向きもしないから、俺らは顔を見合わせるしかなかった。
「ねー、猫くんもう一度喋って。」
結局俺らは猫についていってる。サクラは喋る猫が気に入ったのか、ひたすら一人で猫に話しかけてる。猫は返事してないけど。猫は門の中には入らずに煉瓦に沿ってひたすら歩いてく。猫に話しかけるのも飽きたサクラが、猫に聞こえないようにこっそりと俺に話しかけてきた。
「ねぇ、この猫ってもしかして魔女だったりして…」
え、と聞き返した俺にサクラは、だってだってー、と言葉を続ける。
「さっきの声なんてすごい魔女っぽいし、猫くんあの門の模様と同じ模様がついたネックレスを首にかけてるし、そもそも黒猫って時点で魔女っぽい。」
…実は俺もそう思ってた。てか、あの声を聞いたあたりから怪しいと感じてた。そうだとすると、いつから魔女は俺達の事に気づいてたのか。どうして俺達を導くのか。一体どこに連れていこうとしてるのか。
「あ、でも魔女だとしたら猫くんじゃないか。猫ちゃん?猫様?猫魔女?」
あー、サクラも同じこと考えてたのかと少しサクラを見直した気持ちが縮んでく。やっぱ無いわ。煉瓦沿いに大きい洋館の全体の形がようやく分かってきて、洋館の後ろにたどり着いた。煉瓦の壁には大きな扉があって、猫が前に立つと自動的に開いた。
「わ、すごい。」
ね、やっぱりそうでしょ?って目でこっちを見てくるサクラ。はいはい、と頷いとく。中は洋館の内部に繋がってるらしくて、俺らが中に入ると自動的に閉まる扉。俺らはこれで外に出られなくなった。
「おいで。」
どこからか声が聞こえて、ニャオと鳴いた猫は奥に走って消えてく。俺らは完全に猫を見失った。
「声、あの猫じゃなかったね。」
サクラが言う。確かに今回の声はあの猫じゃなかった。でも先程の『ついておいで。』という嗄れた声と同じ声だった。だから、猫はただの猫だ。魔女はきっとこの先にいる。そして俺らを待っている。ここまで導いたのは魔女なのだから。
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