第8話 山登り

途中、昼飯を買い忘れた俺はコンビニを見つけて寄らせてもらう。サクラはお菓子コーナーを覗いてチョコレートと紅茶を買ってた。俺は昼飯の分のパンと温かいお茶、そして肉まんを二つ買った。コンビニから出て、外の空気に触れる。寒そうにマフラーに顔を埋めたサクラに、肉まんを一つ渡した。ありがとうと言ったサクラは、大きな口を開け肉まんを食べはじめた。熱っ、という声が隣から聞こえる。俺も袋から、湯気が出てる肉まんを取り出して一口食べた。それから三分ほど歩いて肉まんも食べ終えた頃、やっと山が見えてきた。いや、山は始めから見えてるけど、山麓が見えてきてようやく全貌を現したって感じだ。

「見えたー。」

サクラは山麓が見えたことで、ラストスパートを掛けるように長い上り坂を駆けていった。俺はその後をゆっくりと歩いていく。基本無駄な体力は使わない派だ。はやくーっ、とサクラがこっちに手を振る。小学生かよ、と苦笑した。山麓に到着して、右の方に階段があることに気づく。しかもどこまで続いてるのか分からないほどに長い。あーあ、これ本当に登るのか、と俺が少し気後れしてる間にサクラはズンズン進んでく。それに置いてかれないよう必死で付いていく俺。先の見えない階段がいつまで続くのかと考え始めるだけで倒れそうだ。もう結構登ったぞ。そう思って後ろを振り向くが、さほど進んでないと知って落胆する。ひたすら歩き進めてやっと登り終えた俺は一息つく。俺よりも、いち早く到着したサクラは景色に興奮してた、けど、俺はもうそんな体力残ってない。いつも魔法で飛んでたし、体育とかほぼ壁の近くでサボってるし、俺マジで運動不足かも。ハハッ、ヤベェ。自分の体力の無さに笑いがこみ上げる。息切れしてる俺を気づかってか、サクラはここで少し休憩しようと提案する。例の大きいリュックから、さっき買ってたチョコレートと紅茶、それと元々入れてたらしい敷物を出す。敷物を下に敷いて座りだしたサクラの隣に俺も座った。

「敷物とか小学生の遠足以来。」

「ピクニックとかしないの?」

「しねぇよ。」

足を広げて、俺もコンビニの袋からお茶を取り出した。温かかったお茶は少し温くなっている。でも今の俺にはもう少し冷えてたぐらいが良かった。でも少し落ち着いたみたいだ。さっきまでの息切れも段々通常に戻っていく。隣ではチョコレートを食べてるサクラがいた。こっちを見て、食べる?って聞いてくるので首を横に振りながら答える。

「要らない。そんな甘いもん食えない。」

「じゃあ、全部食べちゃおー。」

そう言ってチョコを見せびらかすように大きな口を開けて食べる。

「お前さっき肉まん食ったばっかじゃん。食いしん坊かよ。」

「いいのー。女の子にそういうこと言うなー。」

そう言って、最後の欠片だけはリスのように少しずつ食べてた。階段は全部登りきったけど、山の頂上かって聞かれたらそうではない。瞬の言う、少し登った辺りはこの辺の事を言うらしい。敷物に座りながら辺りを見回した俺は気づく。噂を裏付けるように、木々が茂った奥の方。そこに一軒の洋館が佇んでいた。門が正面にあって洋館の周りが煉瓦で囲われてる。

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