第4話 山だ!!

ガラリとドアを開ける。あれから、毎週土曜に何となく集まる習慣ができた。サクラは相変わらず『魔法の本』とやらを熱心に読んでて、時折パッと顔を上げて何やら変な実験に付き合わされたりもした。休みの日まで図書室に来る物好きな奴もいない。いつも図書室、いや、詳しく言うと図書準備室はサクラと俺の二人だけだった。今日も

「オレンジジュースに蛙の卵と唐辛子を大さじ一杯ずつ混ぜてー…」

とか変な実験してるし。

「ちょっと飲んでみてよ。」

とか絶対飲まなくても不味いこと確実だし。

「飲んでもアオが魔法使えなくなるとか無いらしいよ。パワーアップもしないけど、人体に影響無いらしい。」

だから、ほら。とかにっこりした顔でこっち見つめられても困るんだよ。人体に影響ないとか嘘だし、そもそも蛙の卵入れてるところで人間の食い物じゃないだろ。絶対お腹壊すし。てか不味いって時点で影響あるんだよ。そのせいで俺の味覚おかしくなったらどうしてくれるんだよ。

「俺が飲んでも効果ないなら意味無いじゃん。もったいないからサクラ飲みなよ。」

「そ、そう?じゃあ、いただこうかな。」

簡単に騙されてんじゃねぇよ。見るからに悪影響だろが。サクラが持ったコップを俺は無言で奪う。

「あ、ちょっと。飲みたくなったの?」

「そんなわけないだろ。誰がマジで飲もうとしてんだよ。」

「わわわ、ちょっとそれまだ飲んでない。」

ゴミ箱に直行しようとした俺の腕をサクラが止める。

「飲むなよ。死ぬぞ。」

問答無用でゴミ箱に、もはや飲み物と言えない液体を捨てた。

「あーあ。」

残念そうな顔のサクラ。でもちょっとホッとした顔してたの俺は知っている。あえて言わないけど。てか、そもそも図書室にいろいろ持ち込むなよ。『飲食厳禁』って赤い文字で書いてある張り紙がサクラには見えないのか。三つもあるんだぞ。それも、一つはサクラの目の前に。俺は机の上に置いてあった『魔法の本』を掴んでサクラに聞く。

「これ、もっとマトモなやつ書いてないのか?」

これ以上変なものを作られる前に、と本をめくってみた。

「えー、マトモなのなんてあったら皆やってるよー。」

それもそうか、と少し納得する。俺から『魔法の本』を奪って、適当にパラパラとページをめくったサクラの手が止まった。そのまま本に前のめりになって必死に文章を目で追う。耳にかけていたサクラの髪の毛がハラリと本の上に落ちる。それも気づいてないほどサクラは集中していた。

「どうした?」

聞いてもサクラは無反応で、集中するほどの何があるんだろうと気になった俺はサクラの横から本を覗いた。その瞬間、サクラはパッと顔をあげて

「山だ!!」

って叫んでから、近くにいた俺を見て驚いて離れた。

「何?山って。」

そう聞くと思い出したようにサクラは窓際まで走っていった。カーテンを勢いよく開けると光に照らされた埃がヒラヒラと舞う。それを気にしないでサクラは俺の方に、手を上げた。その手がこっちへ来いと言っている。大量に積み重なった本を避けながらサクラの方へ向かう。サクラの横から窓の外を眺めると、サクラは、あの山、と左の方に見えるそこそこ大きな山を指差した。ここからそう遠くない距離。

「あの山にね、大魔女が住んでるんだって。その人に認められれば魔法が取り戻せるかも。」

「…認められればってどうやって?」

「わかんないけど、それはともかく!会いに行こうよ。」

嬉しそうな顔をしているサクラは、俺を見つめる。

「は、俺?俺も行くの?」

「もちろん。」

まあ少し興味があったのと、俺が嫌って言っても強引に連れてくんだろうなと思ったのもあり、仕方ないってポーズを取りながらもOKした。来週の土曜日午前9時に学校前集合して、そこから行くって約束。いつもは時間なんて気にしてなくて、来たいときに来るって感じだから、なんか変な感じがした。サクラは、小学生の遠足の時みたいにワクワクしてた。せんせー、おやつはいくらまでですか?って聞かれて、馬鹿か。って答えた。

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