第3話 魔法の本
本の山の中で熱心に『魔法の本』を読んでるサクラを横目に、俺は準備室から図書室へと続くドアを開け、カウンターへ向かう。今日の目的は本を返すこと。基本図書室に人はいない。貸し出しカードをカウンターに置くだけで勝手にチェックされている。返すときも同様だ。カバンの中から小説を取り出してカウンターの上に置く。近くにある返却カードに記入して小説の上に乗せた。万が一飛ばないようにその上に重しを置いておく。準備室へ戻るとサクラはまだ本の山の中にいた。
「それ、面白いの?」
そう聞くと、聞いてくるのを待っていたかのようにパッとこっちを見た。
「面白いわけじゃない。けど、魔法の取り戻し方が書いてあるって聞いた。」
「魔法、取り戻したいの?」
この時期に魔法を無くす者は多い。中学1年生~高校3年生の間。皆突然魔法が使えなくなるらしい。俺の友達にも2、3人魔法が使えない奴がいる。でもそれは普通のことだ。大人になるまで魔法が使えてる人は3割くらいで、あとは魔法が使えなくなった人達だ。少し不便になっただけで、見た目は対して変わらないし、大した支障もない。魔法をなくして取り乱す奴もあまりいない。ごく自然に、それが当たり前であるかのように日々を過ごしている。だから魔法を取り戻したいって考えることに少し驚いていた。いや、魔法を取り戻したいって思う奴は俺が知らないだけで結構いるのかもしれない。実際にまだ魔法を失ってないから俺が分からないだけかもしれない。でも表立って積極的に取り戻そうとする奴は初めて見た。それと少し疑問もあった。
「魔法って取り戻せるの?」
そう、この疑問。魔法が無くなる人は見たことあるし、身近にもいる。でも魔法を取り戻した人は見たこと聞いたこともないし、ましてや身近にもいない。
「取り戻せるよ、きっと。」
「根拠は?」
「ない。」
ないのか。その言葉に俺は少しがっかりした。それが伝わったのか、サクラはムッとした表情でこっちを見る。
「見つけるよ、必ず。根拠がないから無理だってことはない。無理だって根拠もないもの。」
「なるほど。」
「私、理数科なの。確かめてみるまで納得しない派なのよ。」
「え、意外。」
意外すぎる。
「フフン、だから付き合ってね。魔法が戻る方法探すの。」
「うん。…は?」
つい、頷いてしまったけど。…今何言った、この子。
「やっぱ無理。自分で探せ。」
「もう約束したもーん。毎週土曜日ね。」
「嫌です。無理です。面倒です。」
「不満は却下です。はい、か、いえす、しか認めません。」
「肯定しか無いじゃん。」
「私の発言には肯定しか認めません。」
「…めんどくせぇ。」
「聞こえてます。」
「聞こえるように言ってます。」
サクラの口調で返すとサクラは笑う。
「アオくん面白いね。」
「ハイハイ、ありがとう。」
「アオくんかっこいい。」
「ハイハイ、ありがとう。」
「あ、ちょっと照れてる。」
「照れてない。」
そっぽ向いた顔が少し赤くなった気がするのは気のせい。
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