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 「結局、片付けが終わったのは夜遅くだったわ」

私は回想を終える。

「それは災難だったね」

「でしょう? もう大変だった」

「いや、業者さんが」

「なんで? 業者はおざなりな掃除したのが悪いんでしょう」

「んー、気づかないかな。というか、半分は気づいているんでしょう。なんで部屋だけが汚かったのか、考えなかった?」

「それは、業者が……」

 「少し考えてみようよ。

部屋、キッチン、風呂、トイレの中で、部屋だけに埃が詰まってた。

さらに、エアコンもキレイに掃除されていた。

玄関には『3月23日 清掃済』と書かれた紙が置いてあった。

こんなところかな。

 じゃあまず、玄関に清掃済を示す紙が置かれていたならば、少なくとも、業者さんが清掃に訪れ、クオリティはともかくとして、掃除をした」

「そういうことになるね」

「次に、範囲を狭めて考えよう。家の中で汚かったところは部屋だけだった。

じゃあ、部屋の中では、どこがキレイで、どこが汚れていた?」

「床は汚れてて、本棚の上も汚れてて、窓も汚かった。窓の桟はキレイで、エアコンもキレイだった。これぐらい?」

「うん、じゃあ、汚れていたところに何か共通点はないだろうか。逆に、キレイだったところに何か繋がりはないだろうか?」

「繋がりって言っても、特に関連はなさそうだけど。汚れやすいところかな?

でも、床は汚れやすいけど、エアコンも一夏使ったら必ず汚れるだろうし。あとは?

よくつかうところ?これも違う。本棚の上はあまり使わないだろうし、返って窓の桟の方がよく使うわ」

「惜しいね、よくつかうところ、っていうアプローチはかなり惜しい。ちなみに、君はその寮を入居する前に見学したかい?」

「したよ。使ってない部屋を見せてもらった」

「やっぱりそうか。寮は見学者に使ってない部屋を解放している。見学した部屋はどこだったか覚えてる?」

「覚えてない。いくつか空いている部屋はあったみたいだけど、希望者が多かったから、希望の部屋に入れるとは限らなかったし。立地にこだわりもないしね」

「じゃあ、君がいま住んでいる部屋はどうだった?」

「……。私が使っている部屋は空き部屋だったかもしれない。曖昧だけど」

「それを踏まえて話を元に戻そう。部屋の中で、汚れているところ同士と、キレイなところど同士の共通点はなんだろう」

「空き部屋だったことを踏まえて……?

 そうか。もし、私が入る前、あの部屋に誰も住んでいなかったら、エアコンも汚れないだろうし、窓の桟も汚れない。でもそれはキレイだったところの共通点でしょ。誰も住んでなかったら、床も、本棚の上も、キレイなはず」

「誰も住んでいなかったことは確かだと思うね。人が住んでいたら汚れているはずの場所がキレイなんだから。

 ではなぜ、床は汚れていた? 埃が積もっていたのはなぜだ。

埃というのは、人が色々な場所を動かすことで、着ている衣服の繊維や、体毛、剥がれた細胞などが落ちてできたものだ。誰もいない部屋でも埃は積もるけれど、体毛が落ちているのはおかしい。誰もいない部屋ならだけど」

「ちょっと、そういう話なの? やめてほしいなぁ」

「いやいや、オカルト類の話じゃないよ。誰もいない部屋ではなかったってこと。誰も住んではいなかったけど、入居希望者は見学に来ていたでしょう」

「あれは入居希望者の髪だったのね。確かに見学者は私も入れて大勢いた。

でも待って、肝心なことを忘れてる。業者は、3月23日に清掃しているのよ」

「その紙が今回の話をややこしくしているんだよ。その紙にはなんて書いてあった?正確に思い出して」

「えっと、『3月23日 清掃済 ○○清掃株式会社』だった」

「うん、それなら辻褄が合うんだよ。清掃業者って、寮に頼まれて清掃に来るわけだけど、寮ってどのタイミングで清掃を頼むのだろうか。おそらく、前の入居者が出て行った時に頼むのじゃないかな」

「わかった! つまりこういうことね。私が入る前は空き部屋だった。清掃業者は前の入居者が出て行った時に清掃を行った。入居者は清掃の後に見学に来た。その埃が床に積もった」

「そして、この紙に書かれた日付は、今年の3月23日ではなく、去年以前の日付だった」

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