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業者さんはこっちが謝りたくなるほど腰が低かった。
「そのようなことがあったとは……本当に申し訳ございません。
よろしければお部屋の方を確認させていただきたいのですが……申し訳ございません。あ、はい、では、失礼します……申し訳ございません」
電話を切ると、先輩は、
「新人ちゃん、私たちもここにいていいかな? こういう問題は一人で応対しないほうがいいのよ」
正直なことを言うと帰って欲しかったが、寮に入って早々に先輩たちといざこざを起こすのはごめんだ。
「ありがとうございます。助かります」
そう言った。
ほどなくして業者がやってきた。玄関を開けると、業者さんは二人だった。
一人は典型的なサラリーマンと言った感じで、もう一人は少しガラが悪そうだった。おそらくアルバイトであろう。サラリーマンの方が、
「すいません。先ほどお電話いただいた、○○清掃でございます。あ、お電話いただいた方でしょうか。申し訳ございません。私どもが部屋を見させていただきます。あ、私はこういうものでございます」
名刺なんて初めてもらった。
「では、失礼して、あ、こちらですね」
私は状態を説明した。かくかくしかじか、うんぬんかんぬん、ああだこうだ……。
「は、この部屋だけが汚れていた。なるほど、それは申し訳ございません。あの、よろしければ、今からお部屋を清掃させていただきたいのですが……」
まあ、そうしてくれるのであれば。ひとまず丸く収まりそうだ。と思っていたところに、先輩が割って入ってきた。
「あの、さすがにこれはひどすぎませんかね。そもそも掃除したんですか?」
「申し訳ございません。おそらく前回清掃させていただいたのは、私どもではないものですから、どのような清掃をさせていただいたのかは、わからないんでございます」
「それもどうなの? これをやった犯人はわからないってわけ?」
犯人とまで言わなくても。まあ、迷惑はしてるけど。
業者さんは謝るばかり。先輩たちは業者さんに掴みかかるのでは、と思わせるほど激しく糾弾している。これでは片付けができない。
だんだん両者に対して怒りを覚える。私は掃除をしたかっただけなのに、どうしてこうなったの。特に、謝ってばかりで何にもしない業者。あなたたちがこうしたんだから、さっさと掃除しなさいよ。
いつの間にか私も先輩たちに混ざって抗議していた。
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