外伝其の二

ひと段落ついてこの日は屋内プール施設へ遊びに来ていた。

「そういえば、水着姿を見るのは初めてだったね。」

そう、お風呂は一緒に入っても水着姿は見たことがなかった。

「ふふっ、新鮮でしょ?」

「お、おう。」

いつもとは違う具合に秀耶は見惚れ、水着姿をジッと見つめていたのがバレた。

「いやね、いつにも増して上半身が細く見えるなぁって思ったのと、尻尾ってどうしてるのかなって思ってさ。」


世界が変わり、ありのままの姿を晒け出し街中を出歩けるようになり、人間の姿を保ちつつも耳と尻尾だけを出すスタイルが流行っていた。

まあ、惠末が元になったわけだが・・・。


「ありがと、スタイルには気を使ってるからね。」

腕に抱きつき、尻尾を振りながら喜んでいた。

「尻尾はね・・・。」

上目遣いでなにか企んでいる顔をしていた。

「ぬふふ、確かめてみる?」

惠末は秀耶​の両手を掴むと自分の背後へ回した。

行きつく先は尻尾の付け根。自然と身体が密着して鼓動が伝わってしまう。

「ふふふっ♪穴が開いてるでしょ。人間用の水着を加工してるの。このボタンを外すとね・・・。」

人目を忘れて大胆になっていた。

ボタンが外れると腰回りが緩んで中が見えそうになる。

「見えちゃうって。」

耳打ちをすると自分の入っていた世界から引き戻され顔を真っ赤に染めた。

同時にホイッスルの音が響き渡る。


ピィーーーー!!


「そこまで!」

監視員の大声が聞こえると秀耶​も音で引き戻されて周りを見ると気付いた。

二人を中心に広がった妖艶な雰囲気に幾多のカップルが同じように身体を密着させ確かめている光景が出来上がっていた。

「もう、お二人とも英雄なんですから勘弁してくださいよ。怒られるの私たちなんですから。」

「すいません。」

二人同時に謝罪する。

「ばいばーい。」

子供に見送られ、監視員とその場を後にする。

ウキウキ楽しい気分はどこへやら、要人席へ通されて他のプールと隔離されてしまった。

上から見下ろすと気付いた人が手を振ってきて振り返す。本当に有名人になってしまったんだと改めて自覚する。

「隔離されちゃたな。」

「でも、二人っきりでのんびり水浴びできるからちょうどいいわ。」

「だな。追っかけまわされて世話しなかったからな。」

椅子に座ってウェルカムドリンクを飲みながら聞こえてくる声に耳を傾ける。

「思い思いに楽しんでるな。」

「ねえ、久しぶりにマッサージしてほしい♪」

「じゃあ、ベットでうつ伏せになって。」

「はーい」

部屋のベットへ移動してうつ伏せになると秀耶​が上から跨る。

鞄からオイルを取り出し背中垂らすと小さく声が漏れた。

「んっ。」

「大声だけは出さないでくれよ。」

塗り広げマッサージをはじめる。両手を滑らし凝っている部分を探してゆく。

一通り探し終えると力の流れを整えながらほぐしてゆく。

「んっ・・・、はぅっ・・・。」

次第に息遣いも荒くなり僅かに声も大きくなってゆく。耳の良い者なら聞こえてるかなとも思いつつも続ける。

「他に重点的にやってほしいところあるか?」

「んっ、尻尾もお願い。」

「はいよ。」

薔薇油を鞄から取り出すと混ぜて尻尾に塗り込むと面白いくらいに細くなってゆく。

「んっ、あっ!」

案の定、尻尾が弱い惠末​から声が漏れた。

聞こえる者には聞こえていた。声の発生源を見つめ顔を赤らめていた。

「付け根のあたりが凝るのよ。」

「こんなところでやって大丈夫か?」

「努力する。」

枕へ顔を埋めてなるべく漏れないようにするらしい。

「わかった。危ないと思ったらやめるからな。」

頷くと枕に顔を埋めた。それでもけっこうな声が漏れてくる。

「んっ、くぅっ、はぁっ、はぁっ・・・。」

秀耶もまた場所を忘れ次第に気分が乗ってくるとマッサージもそこそこに惠末の顔を横に向けさせて口づけをする。

「きて・・・。」

多忙だった二人はなかなかスキンシップを取れないでいた。

タガが外れる。場所なんておかまいなし、二人はすでに準備万端であった。

行為をはじめると時には激しく、時にはゆっくりやと刺激を他にも加えながら楽しんでいた。


それは突然にやってきて締め付けられ一緒に絞り出される。

「んーーーーーーっ!」

懸命に手で口を塞いでいるが完全に惠末の声が部屋の外へ響き渡った。


廊下を走る音と激しく扉を叩く音が聞こえる。

「こらーーー!ダメっていったでしょ!」

先ほどの監視員の怒鳴り声が聞こえる。

そういえば、部屋でも絶対にしないでと言われたのを思い出した。

「いっか、叫ばせとくか。」

二人は繋がったまま余韻に浸る。

「ん、皆んなの力がみなぎっていくのを感じるわ。」

「夜の準備かな?」

「かもね?」


お客全員が部屋のある方を見上げて微笑み、顔を赤らめながら『今夜・・・』なんて言葉が呟かれていたらしい。


そんな中、みんなに見守られ新たな生命が誕生していた。

水浴びが気持ちよくなる初夏で太陽光が強く降り注ぐ六月の出来事、咲耶を授かった日であった。

(十一狐、戦いが終わり世界が落ち着いた頃)

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