八狐 惠末が惠末で惠末。やはり惠末?
「秀耶、ねえ起きて、秀耶!!」
惠末の声がうっすらと聞こえてきた。
叫んでる。何事だろうと目を覚まそうとした瞬間の出来事だった。
突如、秀耶の頬に衝撃が走った。
「ばかー!」
それだけ言い残すと走ってトイレへ向かった。
秀耶は平手打ちをされ理由がよくわからないまま台所で朝のコーヒーを淹れはじめた。
もう一度、後ろから言葉が聞こえた。
「ばか。」
「なにがさ?」
「あんなに強く握ぎられたらトイレに行けないじゃないの。危うく漏らすところだった。」
惠末は少しむくれていた。
「なにも引っ叩かなくってもいいじゃないか。また一人でどこか行かないように繋な・・・。」
くっきりと痕のついた頬を見て彼女の耳が萎れていた。分かりやすくて助かる。
「んー、ごめん。」
それを横目に朝食の準備を進めていく。
「さあ、ちゃっと済ませて今後のこと考えようか。」
「うん!いただきま〜す。」
パンが焼き上がり、トースターから飛び出すと同時に惠末はキャッチした。
「はい、秀耶の分。」
バターとイチゴジャムを塗り手渡した。
「ふふん、ふん、ふ〜ん。」
自分のパンには鬼灯ジャムをたくさん塗り頬張っていた。
食べ終わり、片付け終わると地図を広げた。
「さて、惠末、はじようか。」
「さっそくで悪いんだけど、明日は約束通りカニを食べに行きましょう。」
「遊んでる場合じゃ・・・。」
「半分は遊びじゃないよ。ここの印付けたところがその場所なんだ。そして、目覚めが一番早そうなの。」
「東京の二体はちゃっちゃかやっちゃいましょ。」
「ん?この印ってここだよな?」
「・・・。」
「おい、なぜ黙る。」
「ごめん。ちょっと地下に・・・。作っちゃった。」
「地下はないはずだが・・・。いつの間に掘ったのか・・・。」
「人類を滅ぼすのに三体あれば十分だったんだけど、せっかくだから九尾になろうと思ってついね。竜脈もあったし、二体分の設備作れたし、近い方が管理しやすかったから。」
「あとね・・・。」
「なんだ、まだあるのか・・・。」
「実はね・・・。成育状況をみるため、たまに身体が入れ替わってました!!」
と自信満々に胸を張る惠末。
彼はもうなにも驚かなかった。それどころか若干呆れていた。
「やれやれ、他にもあったら今のうちにな。」
「たぶん、大丈夫。あ、あと、これ持ってって。」
大事にしているイヤリングの片割れを差し出してきた。
「力、込め直しておいたから式神が必要な時に使ってね。」
「気付いてたか。」
「うん、環に教えてもらってるんでしょ。式神のことは教えられないから黙ってた。環も言ってたと思うけど身の丈に合ったのを呼び出さないとダメなんだからね。」
「ああ、わかった。」
「で、入口はどこだ?」
「そこよ。」
彼女は暖炉を指差した。
暖炉に手を当てると底がせり上がり階段が現れた。
「へぇ〜、こんなことになってたのか」
螺旋階段を下っていくと頑丈そうな扉にたどり着く。
扉が彼女を認識し自動的に開いた。
部屋の中には透明な容器に入った複製体がいた。
近づくと二体は薄っすらと目を開いた。
「時が来たのね。」
「生活、楽しかった。」
言葉通り早そうどころかすでに目覚めていた。
「参号、肆(よん)号。いつまでも一緒よ。」
手を繋ぐと次第に透明になって消えてゆく。
「一気に二体はきついわね。」
珍しく膝をついて肩で息をしていた。駆け寄り身体を触ると熱くなっていた。
「あっつ」
「くっ、はぁっ、あっ!」
「どうした?」
二本目の尻尾がぐんぐん成長しているのが見えた。
「い・た・い・!」
歯を食いしばりながら秀耶に抱きつき、背中に爪を立てると突き刺さった。
「んっ!」
さすがに秀耶も痛かった。だが、惠末のほうがもっと辛いと思うとさすがに何も言えなかった。
「このままでいさせて。」
それだけ言うと惠末は気を失った。
抱きかかえて暖炉の出口を出るが一向に離してくれる気配はない。
「トイレだけはなんとかしないとな。」
なんとか洋服を脱ぎ腰をかけて用を足し終える。
シリアルバーを片手に自分の部屋に戻るとベットに腰をかけた。
二本のフカフカする尻尾はより一層毛並みが良くなり触り心地が良かった。
「んっ。」
前にも聞いたことのある声がした。
まさかと思い掻き分けてみる。すると早くも三本目、四本目の尻尾が生えてくるのがみえた。
「こうみると可愛いな。」
この日は抱きつかれたまま就寝することにした秀耶であった。
翌朝、何かが焼ける匂いで目覚める。
当然、惠末は目の前にいなかった。
「おはよう惠末。もう大丈夫なのかい?」
台所へいくと声をかけた。
「昨日はごめんね。痛かったよね。くっきりと爪痕つけちゃった。」
「気にしないで、惠末の方が大変だっただろうし。」
「それより、料理してるだなんてどうしたんだ?」
「起きたらなんだか無性に料理がしたくなってね。とりあえず、卵焼きを作ってみた!!」
「あー、言いにくいんだが・・・。焼くなら割って使おうな。」
「え?割るの?」
どうやら今度は料理に目覚めたらしい。必ずしも力に目覚めるわけではないらしい。
「おっけー、実用的なのはわかった。帰って来たら特訓しよう。そして、出かける準備しろよ〜。」
「うん、わかった〜。」
焼かれた卵の殻を剥き、軽く朝食を済ますと準備をはじめた。
「よし、札とイヤリングはよしと・・・。」
札専用のホルダーを身につけて式神札を入れた。
イヤリングはというと、さすがに耳につけるのは恥ずかしかったのでネックレスにして首からぶら下げた。
かくして、金沢を訪れることになった二人。
「お〜、なかなか速かったの〜。」
(回想)
新幹線に乗るのは初めてだったらしい。
いままでどうやって行っていたのか尋ねた。
「最初は走って行ってたけど、陣を設置してからはちょちょいのちょいよ?」
と返事が返ってきた。
「あの感覚はしばらくごめんだから、それに旅の醍醐味がなくなるから新幹線で行くぞ〜。」
「新幹線とな?」
「電車のすごい速いやつ。」
「ほほぉ〜。」
車内では車内販売にも釘付けになり少々騒がしかった。
(回想終わり)
金沢に着くと電車を乗り換えて一路、温泉地へ向かった。
「あ、羊羹買ってくからちょっと待っててね。」
宿近くのお店で買うと一旦、宿へ荷物を置くためにチェックインした。
「で、羊羹は夜食か?」
「狐が化かしてまで手に入れた羊羹らしいの。せっかく来たから食べてみようと思ってね。あとで一緒に食べましょ。」
必要なものだけ身につけると宿を後にした。
温泉たまごを片手に近くの神社へ歩いて行く。
鳥居前で惠末が札をかざすと再び妙な感覚を味わうことになった。
その瞬間、焦げ臭いが漂い硝煙が舞っていた。
「あれ?焼け野原だ。」
秀耶は迷わず札を取り出し式神を召喚する。
その直後、光が見えると式神は自動防御に入り防いだ。するとどこからか声が聞こえてきた。
「へぇ~、人間のくせにやるじゃないの。これはどうかしら!!」
声の主が目の前に現れ切りかかってきた。
「(間に合わない!)」
イヤリングが光り出すと防御壁が展開され爪は阻まれてヒビが入った。
「ちっ、人間の癖に・・・」
その直後、惠末がそれの背後に立っていて怒り心頭だった。
「あら、なにしてくれちゃってるのかしら?」
それは背筋が寒くなり逃げようとするが容赦なく髪の毛を掴み引き寄せられた。
「痛い!抜ける!」
「関係ないわ。あなたが私であるならこんなことしないわ。」
それの尻尾は一本で、二本目の尻尾が完全となった惠末との力の差は歴然としていた。
今度はそれの右前腕掴むと握りしめていく。すると骨がミシミシと音を立てはじめた。
「痛い!折れる!折れた!冗談だったんだ!」
「折れたの?折れてないの?ハッキリしてくれないかな?」
久しぶりに見る冷ややかな目つきに秀耶の少々顔が引きつる。
「ほら、主の顔が引きつっているぞ。」
秀耶を指差した。
「あっ、お構いなく。たっぷりと絞られてください。」
「ひぃぃ!あんたなんなの!」
「悪い子はお仕置きするの当然じゃないの。それに私の不始末だしね。どこで間違えたかな?少し頭冷やそうか。」
宙へぶん投げると自分も跳躍する。お腹に一発お見舞いすると同時に力が抜けないように大気の水分を凍らせて背中側に壁を作った。
「ぐっ。」
胃袋の中身をぶちまける。すかさず、自分の足場を作り拳を握り合わせると腰に叩きこんだ。
目にもとまらぬ速さで体勢を整える暇もなく、激しい音とともに地面にめり込んだ。
「おー、すごい。起き上がってこないけど、生きてるのか?」
「手加減はしたはずだから大丈夫だとは思うんだけど、なにぶん今の力になってから暴れたことないしね。」
「まっ、お茶でも飲みながら目が覚めるのを待ちましょうかね。」
リュックから水筒を出して熱々のお茶を注ぎはじめた。
「はい、豆大福とお茶。」
「ふふっ、順応早いわね。」
惠末は少し笑っていた。
「まあ、殺されて生き返ったこと以上に驚くことは多分ないと思うよ。」
「でさ、大福なんていつ買ったのさ。」
「金沢で乗り換え前にトイレ行ったでしょ、その時にね。出来たてが食べれるからオヤツにと思ってね。」
「抜け目ないわね。では、いただきます。」
合掌し自然の恵み、作った人に感謝をしてから食べはじめた。
「ん~、お餅がのびるぅ~。小豆餡も甘すぎず、さっぱりしてていいわね。」
「だろ?お茶も宿で煎れたやつ持ってきた。」
(ズズズッ)
「紅葉も綺麗だったら文句ないんだけどね。」
スマホを取り出し、焼け野原をバックに惠末と記念撮影をしていた。
ついでに一向に起き上がらないそれの姿も・・・。
一服し惠末を膝枕して和んでいるとやっと目を覚ました。
「一時間十一分。」
唐突に時間を告げる惠末。
「なんだ時間、数えてたのか」
苦笑する秀耶。
「なんの時間だ。拘束をほどけ!」
手足を縛られ身動きが取れないそれ。
「のびてた時間よ。そして答えはノー。」
「また暴れると面倒だから勘弁してね。」
惠末と秀耶は立て続けに話した。
「弐号、なんでこんなことしたのか聞かせてもらってもいいかな?」
「嫉妬よ、嫉妬!むかついたから殺したくなった。参号と諡(四)号だけずるいじゃないの・・・。」
惠末が尋ねるとそっぽを向きながら、拗ねていたのがよく伝わってきた。
「だからといって牙を向けるのはいけないんじゃないかな。」
秀耶がそっと頭を撫でてあげるとジタバタが止まり、顔を真っ赤にした。
「ん、寂しかったんだよな。」
そのまま後ろから手を回し包み込んだ。
惠末が拘束を解くと両手で腕をつかみ、もたれかかってきた。
(ギュッ)
「えあぅ!」
尻尾に根元を掴むと変な叫び声が聞こえてきた。
「なにをするんだ馬鹿者!!」
「さっきのはこれで手打ちでいいか?」
「秀耶がいいならいいんじゃない?」
「じゃ、そういうことで。」
今度は惠末が羊羹を取り出した。
「ねえ、お茶まだある?」
「いま淹れるね。」
手際よく、かまいたちで羊羹を切り分けていく。
「はい、弍号の分ね。さっきは悪かったわ。強くなった力がまだ上手くコントロールできなくてね。」
「私も悪かったわ・・・。」
秀耶は顔を確認し、わだかまりが解消されたのを確認すると二人の手を取り自分の胸に手を当てさせた。
「生きてれば嫉妬することもあるさ。でもね、どっちも惠末なんだ。その心は決してなくなりはしない。傷つけあってほしくないんだ。」
手を離すと弍号は羊羹を一口かじった。
「そっか、一緒に食べようと・・・。」
口下手な惠末の想いが込められていた。それはポロポロと涙を流しはじめ、惠末の腕の中で号泣した。
「すまない。」
「可愛い妹なんだもの当たり前じゃない。限られた時間で私にはこれくらいしかしてあげられないんだから。」
融合の道を選び、泣きながら薄くなっていく弍号。
「せめて食べたから行きなよ。」
弍号の口の中に残りの羊羹を突っ込んだ。
もごもごしながらも食べているが消えるまでには間に合いそうになかった。
秀耶は反対側からかぶりつくと唇が触れあった。最初はびっくりしてたが飲み込むと再び求めてきた。
それに答える秀耶。目を閉じて黙認する惠末。
感触がなくなり目を開けると消えていた。
「いい子だったな。」
「うん。」
動き出さない惠末。少し沈黙が流れる。
「でね、お願いがあるの。腰がね、痛いの・・・、すごく・・・。」
「ん?痛めることなんかしたっけ?」
「そのね、ダメージが自分に返ってきたわ。」
一定未満のダメージは反射できる力を手に入れた。
技量が上がったことにより反射できるダメージ量も増えたらしいのだが、今ごろダメージが返ってきたらしい。
「つまり、自分を手加減して殴ったダメージが反射許容内になって、ダメージ負ったまま取り込んだから、そのダメージが自分に返ってきて自分を自分で殴った状態になったと?」
「うん、自分の中でそんなことが起こるのか?よくわからん。」
「とりあえず、宿まで運んでちょうだい。さすがに痛くて動けないわ。」
背中に乗せて立ち上がり宿へ戻ると部屋の露天風呂へ向かう。
一度、椅子に座らせるとタオルをかけてワンピースを脱がせる。
「下着は自分で・・・、いっ!」
上はなんとか外したが屈むと激痛が走った。
「むぅ・・・、脱がせて・・・。」
ちょっと項垂れながらお願いしてきた。
「でも、今更だろ?眠りについてた時は着替えさせてたんだから。」
「はうっ。」
脱がし終わると更に顔を真っ赤にした惠末を抱えて温泉に腰まで浸かった。
「ふぅ〜、いい湯だな。少しでも良くなるといいな。」
「そういえば、すっかり風呂好きになったな。」
「うん、ポカポカしてて慣れたらどうってことなかった。それに、こうやって一緒にいられるしね。」
少しでも良くなるよう願って腰をさすり続けた。うっとりしはじめ瞼を閉じた。
半身浴しながら一緒に一寝入りすることにした。
「秀耶、ねえ、秀耶。」
「ん〜。」
「ご飯の時間よ〜。」
時計を見るとたしかにもうすぐ夕食の時間だった。
身体を拭き、椅子に腰掛けさせるとタオルで髪の毛の水分をさらに取りドライヤーで乾かしはじめる。
「セットもおねが〜い。」
「おっけ~、じゃあこのままで。」
丁寧にクシで梳かし、ストレートのまま放置した。
「こらっ、さぼらない!」
「いいの、これが一番好きだから。」
歩く度に揺れて広がり、光がいろんな角度から当たって美しかった。
「んじゃ、いざ夕飯に赴きますか。」
「うん!かっに~。」
腕を組み支えながら食事会場の個室へ向かう。
部屋担当の中居さんが声をかけてきた。
「新婚旅行したか?」
「まあ、そんなところです。」
「お席へご案内しますね。」
奥の今に案内されると椅子を引き、座るを手伝う。
「ねえ、カニはどこ?」
惠末が小声で話しかけてくる。中居さんは聞き逃さなかった。
「いま順番にお出しいたしますのでお待ちください。」
「はーい!」
「おつかれさま。」
日本酒が届くと先付けと一緒にいただきながら蟹に備える。
「よいの、日本酒はやはりよいの。」
惠末のペースは早かった。
中居さんが戻ってくるとさっそくお盆にそれは乗っていた。
「花咲蟹のポン酢ジュレがけです。」
甲羅に脚の形をした身、その下にはほぐし身がギッシリと詰まっていた。
「おー!これがカニ!!見事な色と肉質。」
「よいか~、食べてもよいか~。」
「いいよ。」
初めて食べる蟹に興奮していた。
「絶妙な茹で加減と、そのまんまの塩味にさっぱりとしたポン酢たまらないわ。」
一品食べ終えるとタイミングよく汁物が出てくる。
「へぇ、蟹真丈かこれは初めてだ。」
お椀には秋らしくモミジがあしらわれ、黒塗りが白さをお椀の中で際立たせていた。
お団子状のふわふわを一噛みすると中に閉じ込められていた香りが解き放たれ鼻に抜ける。
「んふふ、この世は面白い食べ物で溢れてるの~。」
口に運びハフハフしながら喋りだす。
「こら~、行儀悪いぞ~。」
次は蟹刺しだった。
シンプルにかぶりつくもよし、塩で甘みを引き出すのもよし、大根おろしでさっぱりさせて食べるのもよしの状況だった。
「ん~迷う。」
「まずはそのまま食べたらどうだい?」
殻が剥いてあり、剥き出しになっている身を垂らし下からかぶりつくのを恵末は見ていた。
「そうやって食べるんだな。」
「ん~、甘い!!」
真似して恵末も食べはじめる。
「ん~、氷水で引き締められてぷりぷりして甘い。」
顔から笑みがこぼれていた。
ここからは焼き、茹で、そして炊きこみご飯と蟹のオンパレードである。
「ここでこのフォークの出番さ。こうしてこうだ。」
秀耶がお手本を見せると真似をして身を剥ぎほじくり返す。
調理法が違えば新たな表現となり、シンプルながらも舌を楽しませ胃袋も満たしてくれた。
気付けば、二人は無言になっていた。恵末は痛みも忘れるほど熱心にほじくり返し、蟹身の山を築き上げて食べていた。
どうやら焼き蟹が一番のお気に入りらしい。
焼いた蟹ミソも余すことなく蟹身につけていただいてゆく。
食べ終えると沈黙の時間が終了した。
「今年はもう要らないってくらい食べた!!余すことなく頂いたぞ。蟹も本望であろう。」
「だろうな。初めてとは思えない綺麗さだ。」
殻と骨しかなく仲居さんも驚いていた。
「いっ!」
部屋に帰る途中、身体が冷えて痛かったことを惠末は思い出す。
浴衣の袖を掴み突如もたれかかって上目遣いをしてきた。
「んー、おんぶ。」
「痛みを忘れてたわけか。」
仕方がないので部屋におぶって連れて帰る秀耶であった。
「もっかい(温泉で)あったまっとくか?」
「う~い、おねが~い。」
お酒も入り上機嫌になことも影響しているのか背中で帯をほどき浴衣を脱ぎだす。
終えると秀耶の帯にも手をかけ解いていく。
一旦、椅子に腰かけさせると自分も浴衣を脱ぎ、再びかかえて湯船に浸かる。
「ん~、やっぱり温泉は最高ね。」
少々酔っ払い気味で危なっかしく、今度は後ろから抱えて座った。
「お風呂に引きずり込んだ日のこと覚えてる?怖かったはずなのに安心できて寝そうになっちゃったんだよね。」
「なんでだろ。包まれると安心してどうでもよくなっちゃうの。不思議ね。」
「私もだ。惠末と一緒にいれればそれで十分さ。いまもこうしてるだけで満たされる。」
惠末は頭を肩にもたれ掛けさせ夜空を見上げる。都会と違い夜空がとても綺麗だった。
「おーい、寝るなら布団でな~。」
うとうとしはじめる惠末を椅子に座らせると手早く身体を拭き浴衣を羽織らせる。
布団で直そうと横にさせ、浴衣に手をかけると掴まれ引き倒される。そのまま抱き枕代わりにされ一晩過ごすことになった。
翌朝、秀耶はガサガサする音で目が覚める。
「ん~、おはよう。」
眠い目をこすりながら起き上がると動揺する声が聞こえる。
「な、な、な、なんで裸!」
「まさか、覚えてないのか。」
「はぅ、無意識に求めてしまったのか。」
今にも消えそうな声で顔を真っ赤にして手で覆う。
「いや、酔っ払って、風呂入って寝ただけだ。浴衣を着させようとしたらホールドされた。」
惠末の浴衣を着付け、秀耶も髭を剃り浴衣を着付け直す。
朝食に向かう準備は整ったが惠末は気が抜けたままだった。
顔は呆けていたが唇にのそそられ不意打ちでキスをした。
パーン!!
一際大きい音がした。
キスするタイミングではないのは承知していたが我慢できなかった。
「すまん。唇を見てたら無性にしたくなった。」
「ばか、ばか、ばか。」
胸をグーで叩いてくる。秀耶がしょげていると唇を突然塞がれた。
「お、おはよう。挨拶がまだだったからね。」
どうやら、自分からしたかったようだ。
(ヴ~、ヴ~)
携帯のアラームが朝食の時間を告げる。
「おかず一品で手を打つわ。」
「おっけ~、わかった。それじゃ、行きますか。」
さて、次はどうなるのやら。
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