第7話 わからない、わかれない
「――
「――っ、え、なに?」
学校の休み時間に、クラスメイトの
正直、全然聞いてなかった。
授業が終わってすぐに京香がわたしの席に来て話を始めたのはわかってるけど、その内容が全然思い出せない。答えないでいると、京香はわたしの
「うーん、熱はないか~。なんかあった? 光莉、授業中もそんな調子だったじゃん。あたしがノート見せてなかったら、さっき指されたときもヤバかったんじゃない?」
「あ、別に何もないよ。ちょっと寝不足っていうか……」
「ふーん、そう? あんまり無理しないでよ? ほんとにきつかったら言って、あたしが保健委員の特権使ってあげるから!」
「えぇ、うん。ありがとね」
そこまで話したところで、次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴ってしまった。京香は「ほんと、言ってよ?」と心配そうな顔をわたしに向けながら席に戻っていった。
……寝不足なのは、本当だ。
けど、京香が心配してくれた「上の空」の理由は、寝不足じゃない。むしろ、わたしが寝不足になった理由が、「上の空」の理由だった。
『好きだよ、光莉ちゃん』
そう言われたのは、昨日。
泣きそうになりながら、
頬が熱くなって、頭がぼうっとして、胸が締め付けられて、喉がひりついて、お腹の辺りに何か重い物を入れられてしまったような感じがして、苦しかった。何をしていてもずっと響いていて、何も手に付かなくて。耳の奥に残った泣きそうな声が、ずっとわたしを責め立てているようだった。
なのに、どうしてなんだろう。
胸の中にはずっと、しまっておけなくなってしまいそうな――今にも
わからないままでいたい、このまま忘れてしまいたいと思えば思うほど、慶吾くんの声は耳に蘇ってきて、抱き締められた温度は触れられた背中に蘇ってきて、苦しさはどんどん増していくだけだった。
そうやって過ごしていたからなのか、昼休みまであっという間だった。なんとなく気分を入れ替えたくかったわたしはチャイムが鳴ってすぐに教室を出て、渡り廊下から見える景色を見つめることにした。
登校してくるときにも通ってくる、静かで落ち着いた雰囲気の街並みは、わたしの胸がどうなっていても関係なく静かなままで、校舎からBGMみたいに聞こえてくる楽しそうな声とかも、今日はどこか遠い。
いつもなら、たぶんわたしたちもこの声の一部なのに。
そういうものが、みんな揃ってわたしをどこかへ遠ざけてしまっているような感じになりながら、ぐちゃぐちゃになっているわたしに見せつけるように青い空を眺めていると、携帯が小さく震えた。
見ると、『おーい、大丈夫?』という短いメッセージ。
それと携帯を見たときに視界に入ったのは、ちょっとだけ心配そうな顔で手を振ってくる翔平の姿だった。
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