第3話 投げ出したくなるような心のままで
彼――
その前までは、
でも、実行委員としてクラスのみんなをまとめたりする姿はどこか頼れるように見えたし、なんというか、楽しそうにイベントごとに取り組む姿とかを見ているうちに、なんだか彼に対する見方も変わってきて。
たぶん、無事に体育祭を終えられて、しかもわたしたちの組が優勝できた高揚感もあったのかも知れない。打ち上げで行ったお好み焼き屋さんで気持ちが盛り上がったりしたのもあった。
きっと、その場の勢いとかいろんなものが、お互いにあったんだと思う。
『あの……。
『え、別にいないけど?』
『じゃあさ、俺とかどう?』
『えっ、』
『俺さ、なんか宮本のことよくわかんないなって思ってたけど、ダンスの練習中とか、すっげぇ楽しそうに笑うやつなんだって思ってさ。そしたら……その、なんか、好きになってた』
『…………』
思わず言葉に詰まった。
その前からふたりで実行委員の仕事をしているのを見た友達から『すっごい息合ってるよね』とか『付き合ってんじゃないの?』とか冗談めかした言葉をかけられることはあった。
確かに、翔平はわたしがハッキリ言えないようなことも察してちゃんと言ってくれたりもした。ふたりで体育祭用の資材の買い出しとかしたときも、話が盛り上がったりもした。たぶん、一緒にいて楽しいな、ってすごく思っていた。
でも、だからって、付き合うとかは。
そんなのありえないと思ってたし、けど考えてみたらそんなことを言われたのって初めてのことでどうしたらいいかわからなくて。
『も、もしっ、嫌とかじゃなければ……その、俺と付き合って……! くれませんか……?』
『え、嫌……、じゃない、です。わたしも、たぶん……好きだと思う』
こんな曖昧すぎるやり取りのあと、わたしたちは付き合うことになった。
それからは本当に色々なことをした。
友達同士で行くようなところで遊んだりもしたし、それこそ夏休みになってほぼ毎日会えるようになったら恋人らしいこともたくさんした。それこそ、病み付きになってたんじゃないかっていうくらいに。
けど、そういう毎日も、秋頃にはなんとなく冷めていた。なんとなく、翔平の反応が鈍くなってきていたのはわかってた。どこか上の空っていうか、わたしといても考えてるのはわたしのことじゃない――みたいな。
どちらかというと人の感情に疎くて鈍感と言われることの多いわたしでもわかるくらい、翔平のわたしに対する態度はおざなりなものになっていたし、たぶんわたしから翔平に対する気持ちも、なんとなく冷めてきていた。
もしかしたら、ただ誰かと付き合ってみたかっただけなのかも? ……そんなことまで思いながら、騙し騙し関係を維持しているような気がする日常。
そんな日々の延長線上にある、今日。珍しく翔平の方から呼び出されたから、わたしは少しだけ残って待っていた。だけど、そうやってほんの少しだけ楽しみにしていた約束も、たった1件のメッセージでなかったことにされてしまった。
『ごめん、今日部活の自主練するからやっぱナシで』
それだけなら、いつもの通りで問題はなかった。
でも、だったら駅前のゲーセンで後輩の子とプリ機から出てきたのは、翔平によく似た誰かだったのかな?
いや、なんでもないや。
考えたって、わけわかんなくなるだけだし。
何も信じられないような気持ちになりながら帰りの電車で思い浮かべたのは、幼いわたしの傍にいてくれた人の、優しい笑顔だった。
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