第2話 膨らむ胸にひとつ、ちくりと。
「ばいばい、
「うん、また明日。あんまり遅くならないで寝なよ?」
うっ、もうお兄さん通り越してお母さんみたいになってきてるよ、慶吾くん! そんなこと思ったりしながら、玄関のドアを開ける。
最後に、もう1回外を見て、慶吾くんに手を振る。うん、なんかほんとに昔に戻ったみたい! 3月中はこっちにいるって言ってたから、いっぱい話したりしよう!
「ただいまー!」
「おかえり。なんか、今日の
ちょうどお仕事から帰ってきたばかりらしいお母さんが、スーツをハンガーに掛けながら声をかけてきた。
「さっきね、駅で慶吾くんに会ったんだっ!」
「へぇ、そうなんだ! こっち帰ってきたんだ、明日とか顔見に行こうかな……」
あぁ、やっぱり……。
何を隠そう、お母さんもかなり慶吾くんのことを気に入っている。小さい頃なんて、遊びに来ていた慶吾くんを見て『このままうちの子になっちゃえば~?』と何度言っていたかわからない。
結局、慶吾くんが大学に行くってこっちを出てしまうまで定番のやり取りみたいに続けてたんじゃなかったかな。
まったく、慶吾くんも苦笑いしてたし、すっごい恥ずかしかったんだよね、あれ。明日とか会って、またやんなきゃいいけど……。
「ま、でもよかったね、こうやって会えるときもちゃんとあって」
「んー?」
お母さんに
「だって、慶吾くんが向こう行ってから、ずっと寂しそうにしてたじゃない」
「え、そうだったかなぁ……、そうだった?」
「そうだったよ、たまに心配になったりしたし。なんだろう、会えるときにはいっぱい会って、いっぱい話しときなよ?」
「うん、そうだね、うん……!」
なんだか気持ちが浮き立つのを感じながら、お風呂に入ることにした。考えることは、ほんとにずっと慶吾くんのことばかりだった。
向こうに行って新しいものを見たんだと思うし、大学ってどんなところなのかとか、向こうにはどんなお店があるのかとか、それから、それから……。
彼女とかも、やっぱりもう作ってるのかな、とか?
そんないろんなことが頭を巡っていくのを感じながら、さっさと洗うところは洗って、それから帰り道ですっかり冷えていた身体をずっと湯船に
お風呂から上がって携帯を見ると、ちょっと見ていなかった間に通知がいくつか貯まっているのが見えた。
その中には、今はあんまり見る気分じゃないものもあって。
『今日もお疲れ! 明日の放課後久々に会いたいな』
開いたメッセージには、案の定そんな都合のいいことが書いてあった。
「久々にって、そっちが勝手に断ってただけでしょ」
つい声に出してから、部屋のベッドに寝転がる。
慶吾くんだったら、どんな風に誘ってくれるんだろう? どうしても頭をよぎってしまう、ありえない可能性に少しだけ胸を痛めながら、わたしは彼氏にメッセージを返した。
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