青いまま、枯れるはずだった。
遊月奈喩多
第1話 再会は雪の夜に
最後に彼を見かけたのは、たぶんわたしが中学2年生のときくらい。そう思うと、こうやって顔を見るのは3年ぶりくらいだった。
通学に使っている駅を出て家路に就こうとしたときに、すぐにその後ろ姿に気付いた。
「あれ、
「ほんと久しぶりだね、
「えっ、もう休みなの? だってまだ2月だよね?」
「まぁね、ちょっと持て余すくらいかも」
「いいなぁ~、わたしは明日も学校なのに!」
雪深い夜道で再会した慶吾くんは昔と同じように優しくて、思わず寒さも忘れて話し込んでしまった。最後はわたしがくしゃみをしたのを見た慶吾くんが「冷えちゃうから、帰ろう?」と、まるで小さい子をあやすような言い方で手を引いてくれた。
もうお互い子どもじゃないんだから、そんなのいらないのに――とは思ったけど、なんだかその熱が心地よくて、わたしはその手を握り返した。
慶吾くんは、昔から優しい。
たまに胸が苦しくなるくらい、いつも優しかった。
慶吾くんはみんなに優しかったから、誰からも好かれていた。そんな慶吾くんの特別にはなれなくても、ずっとわたしたちの関係は続くのかな、と思っていた。
けど、慶吾くんは高校を卒業と同時に遠くの大学に進んだ。泣きそうになるのを
「なんか、わたしたちって雪と
「ん、何か言った?」
「ううん、なんでもないよー」
あの頃より少しタバコ臭くなったコートにもたれ掛かりながら、わたしは雪の夜道を歩く。冬の街を彩るように設置されたイルミネーションのワインゴールドに染まった雪に、並んだ足跡がふたつ。
「ちょっと、あんまりくっつくと歩きにくいよ?」
「えぇ、やだ寒い」
「えぇ~、光莉ちゃんは昔から甘えん坊だなぁ。ちょっと大人っぽくなったように見えたんだけどなぁ」
ちょっと苦笑いしたような言葉と裏腹に優しいままの声で、わたしに寄り添って歩いてくれる慶吾くん。
「慶吾くんだって、昔からずっと優しいじゃん」
「え、そうかな?」
見上げた彼は、「だって光莉ちゃんのことは小さい頃から見てるしなぁ」と、相変わらずの様子。そんな様子にわたしもつい安心して、もっと頭を預けようとしたところで「重いよ~」と抗議の苦笑がきてしまった。あうち。
「帰って落ち着いたら、大学のこと聞かせて?」
「もちろんだよ、たぶん光莉ちゃんもびっくりするようなことたくさんあるからね」
「へぇ、じゃあわたしもこっちのこといっぱい話そ」
「うんうん、たっぷり聞くね」
それからはお互い思い出話に花を咲かせて、静かな夜道をただ歩いていた。
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