青いまま、枯れるはずだった。

遊月奈喩多

第1話 再会は雪の夜に

 最後に彼を見かけたのは、たぶんわたしが中学2年生のときくらい。そう思うと、こうやって顔を見るのは3年ぶりくらいだった。

 通学に使っている駅を出て家路に就こうとしたときに、すぐにその後ろ姿に気付いた。


「あれ、慶吾けいごくん久しぶり! どうしたの、なんか珍しくない?」

「ほんと久しぶりだね、光莉ひかりちゃん。大学が長期休みに入ったから、その間帰ってこようと思ってさ」

「えっ、もう休みなの? だってまだ2月だよね?」

「まぁね、ちょっと持て余すくらいかも」

「いいなぁ~、わたしは明日も学校なのに!」


 雪深い夜道で再会した慶吾くんは昔と同じように優しくて、思わず寒さも忘れて話し込んでしまった。最後はわたしがくしゃみをしたのを見た慶吾くんが「冷えちゃうから、帰ろう?」と、まるで小さい子をあやすような言い方で手を引いてくれた。

 もうお互い子どもじゃないんだから、そんなのいらないのに――とは思ったけど、なんだかその熱が心地よくて、わたしはその手を握り返した。


 慶吾くんは、昔から優しい。

 たまに胸が苦しくなるくらい、いつも優しかった。


 河崎かわさき 慶吾けいごくんはお隣さんちのひとり息子で、わたしより5つも年上の、お兄さんのような人。昔からずっと優しくて、頼りになって、困ったことがあったときはいつも頼ってしまうような人だった。たぶん、同級生の男子よりも彼と一緒にいることの方が多かったんじゃないかってくらい。

 慶吾くんはみんなに優しかったから、誰からも好かれていた。そんな慶吾くんのにはなれなくても、ずっとわたしたちの関係は続くのかな、と思っていた。

 けど、慶吾くんは高校を卒業と同時に遠くの大学に進んだ。泣きそうになるのをこらえながら彼を見送ったのも、確かこんな風に雪が降っている日だったと思う。


「なんか、わたしたちって雪とえんがあるのかな?」

「ん、何か言った?」

「ううん、なんでもないよー」

 あの頃より少しタバコ臭くなったコートにもたれ掛かりながら、わたしは雪の夜道を歩く。冬の街を彩るように設置されたイルミネーションのワインゴールドに染まった雪に、並んだ足跡がふたつ。


「ちょっと、あんまりくっつくと歩きにくいよ?」

「えぇ、やだ寒い」

「えぇ~、光莉ちゃんは昔から甘えん坊だなぁ。ちょっと大人っぽくなったように見えたんだけどなぁ」


 ちょっと苦笑いしたような言葉と裏腹に優しいままの声で、わたしに寄り添って歩いてくれる慶吾くん。


「慶吾くんだって、昔からずっと優しいじゃん」

「え、そうかな?」


 見上げた彼は、「だって光莉ちゃんのことは小さい頃から見てるしなぁ」と、相変わらずの様子。そんな様子にわたしもつい安心して、もっと頭を預けようとしたところで「重いよ~」と抗議の苦笑がきてしまった。あうち。


「帰って落ち着いたら、大学のこと聞かせて?」

「もちろんだよ、たぶん光莉ちゃんもびっくりするようなことたくさんあるからね」

「へぇ、じゃあわたしもこっちのこといっぱい話そ」

「うんうん、たっぷり聞くね」


 それからはお互い思い出話に花を咲かせて、静かな夜道をただ歩いていた。

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