第32話 洗脳された者達

       洗脳された者達



 翌日、再び軍議の間で、皆と相談する。

 今回の大和側は、毛利さんと前田さんだけだ。

 秀頼さんは、自分の息子の命が懸かっているにも関わらず、ここには居ない。

 毛利さん達の判断に全て委ねるとだけ言って、上の階に引き籠った。


 ふむ、完全に部下を信頼、いや、丸投げしているようだ。

 確かに、これでは名君とは言えないだろう。

 だが、視点を変えると、これはこれで名君と呼べるのではなかろうか?

 今の、日本の天皇に近いと言える。

 そのせいか、毛利さんも前田さんも、自信に満ち溢れた顔で俺達に対峙している。


 先ず、毛利さんが口を開く。


「それで、既に、『陰陽の里と、近衛殿のおかげで、秀頼様は解放され、大和は今まで通り。モンハンの支配からは解放された』と、国の隅々まで早馬を走らせましたじゃ!」


 あ~、それでか。

 さっきから、手の平を見ると、凄い勢いで数が減っている。

 もっとも、昨日同様、たまに増えるが。


 続いて前田さんだ。


「そして、傀儡兵の方も問題ありませんな。その早馬に、『モンハン王を慕う者は、何の咎めもせぬから、この城下に集まれ』と、秀頼様の名前で発布しておきましたぞ。近衛殿、お手数だが、集まったところで、再びお願いしたい」


 ふむ、これはいいな。

 数が集まったところで、俺が左腕を振ればいい。


 だが、いくらお咎めなしと言ったところで、普通は、警戒して来ないのでは?と、結城さんが聞くと、意外な返事が来た。


 なんと、秀頼さんの名前を添えると、大和の民衆の信用度は飛躍的に上がるらしい。

 何でも、秀頼さんは、今まで民衆の前で嘘を吐いたことがないとのことだ。

 これはある意味、凄い事ではなかろうか?

 日本の政治家にも見習わせたいものだ。


「これも、秀頼様が、清明様の教えを忠実に守られておられるからじゃ。じゃが、問題は、あの連中ですじゃ。秀頼様は、全ての責任を一身に背負われて、処罰するなと仰られたが、流石にそうはいかんじゃろう」


 毛利さんが渋い顔で、光沢のある頭を撫でる。


 ん? この国にも清明さんは関わっていたようだ。

 だが、この国には符術は広まっていない。

 これは少し興味深いな。


(そうですね。あの神の真意は何だったのでしょうか? ですが、今はそれよりも、あの者達でしょう)


 そう、解除しても効かない、本当に心服してしまっている奴をどうするか、という問題だ。

 事実、既に50人程拘束されているようだ。


 そして、こればかりは仕方あるまい。連中を放っておけば、大和の治安に差し障るのは必至だろう。とある宗教団体の件でも、一度完全に洗脳された人を元に戻すのは、至難の業だと結果が出ている。

 だが、待てよ?


 俺は、おずおずと右手を挙げる。


「ん? 近衛殿、これは大和の問題さね。あちきらには、どうしようもないさね」


 結城さんに制されるが、やはり、処罰してしまって、秀頼さんの名前に傷がつくのは避けてあげたい。


「いや、あの人達、モンハンにあげればいいのでは? モンハン王に心服しているのだから、喜んで行くでしょう。但し、もし再び大和に戻ってきたくなれば、その時こそ、処罰無しで受け入れてあげて下さい。それで良ければ、後で俺がモンハン王に提案しますよ。奴だって、既に洗脳済みの奴なら、喜んで引き取るのでは?」


 日本でもあったが、帰還事業って奴だ。

 もっとも、あの国がとんでもない国だったと行ってから判明したが、日本に帰る事も出来ず、途方に暮れた人も多いようだが。

 なので、帰って来たい人には、自由にさせろと約束させるつもりだ。


 そう、昨晩色々と考えてみたが、奴をこの世から始末するのはほぼ不可能。

 勿論、完全に拘束出来れば可能だが、それがまず無理だろう。おそらく、奴の使える魔法は、傀儡を作ることだけではないはずだ。攻撃系統の魔法だって、使えると考えておくべきだ。


 なので、俺が出した結論は、少しでも、奴の犠牲者を減らす!

 これだけだ。


 あの人達も、ここで処罰されるよりはいい筈だ。そもそも、この国では居場所がなかろう。

 また、現在、モンハンで奴の圧政に苦しんでいる人達には申し訳無いが、いくら俺がチートであっても、出来る事には限りがある。


(ええ、私も気が咎めますが、仕方無いでしょう。人々に、そういう王を冠する危険性を知らしめる、良い機会でしょう)


 うん、こういう上からの物言いはなんだが、そう考えるしか無さそうだ。


 しかし、大和の人にはこれでいいようだ。

 毛利さんも、前田さんも、目を見開く!


「何と! そこまでやって下さると! これは、感謝に堪えませんじゃ!」

「うむ! それなら秀頼様の名を穢さなくて済む! これは、また円殿下への土産話が増えますな!」


 ぐはっ!

 前田さんも、俺をこの国へ引き入れたいようだ。

 だが、俺にロリコン趣味は無い!



 問題無いようなので、早速俺は指輪に魔力を通す。


「赤の王、俺だ。赤いランセルの男だ」


 なんか、赤繋がりで良い気はしないが、仕方無かろう。

 これも宿命って奴か?


「おう、吾輩だ。ふん、早速怖気づいたか? 別に、嫌なら吾輩も構わんのだぞ。そのうち、そっちから人質を差し出しに来るはずだからな。余計な手間が省けるというものだ。ただ、貴様の顔だけは拝んでやるというだけだ」


 何とも凄い自信だな。

 この言い方だと、そのうち大和が、自ら属国にしてくれと頭を下げに来るってか?

 まあ、魔王チートの結果、この世を手中にしたとくらい思っているのだろう。


「いや、それとは別件だ。この国、大和には、あんたの置き土産、傀儡兵ではない、熱烈なモンハンファンが居てね。その人達を引き取って貰いたいんだ。大和にとっても、その人達にとっても、そして、あんたにとっても悪い話じゃないだろう」


 少し間があってから、返事が来た。


「おお~! やはり! やはり! 吾輩の方針は間違っていなかった! 屑どもには理解できなかっただけなのだ! おう! すぐにその者達を引き渡せ! その者達こそ、真の同志! 貴様らに預けて置く訳にはいかぬわ!」


 ふむ、何やら魔王は感激しているようだ。

 まあ、分からなくもないが。

 そして、この反応で、こいつの過去が少し分かった気がする。


「じゃあ、見つかり次第、その人達には、その国境の街、プチアに行って貰う。但し! これだけは約束してくれ! もし、その人達が心変わりするようなら、無条件で返してくれないか? あんたも、いちいち処刑する手間が省けるだろう」

「ふん! そんな事あろうはずもないが、そんな屑、吾輩の恩情の元、即刻追放してくれるわ!」

「よし、約束したぞ。じゃあ、六日後に」

「おう、吾輩も楽しみだ。何故か、貴様とは気が合いそうな気がするしな」


 これで会話を終える。


 再び目の前で、毛利さんと前田さんが机に額を擦り付けているが、俺には罪悪感しかないのだが。



 その後は、今回の騒動に対しての、大和へのペナルティーというか、謝礼の話とかをする。

 いくら操られていたとしても、大和の兵が陰陽の里を危険に曝した事は事実だし、二人共、何かしないと気が済まないようだ。

 だが、この件は、流石に俺達だけでは決められないので、一度帰って相談すると、この場での返答は避けた。もっとも、それは大和側にとっても同じようで、まだ元の重鎮が揃っていないようだ。また、居ても、今までの経緯を、まだ完全に理解できてはいないとのことだ。



「では、四日後、里長達と此処に戻って来ますので、そこでまた話し合いましょう。プチアまでは、馬で半日とのことですし。後、武蔵と北辰、チングルの件、お願いしますね」

「本当にありがとうございますじゃ! チングルと北辰は微妙じゃが、武蔵だけは必ず来ると思いますじゃ」


 俺達は、城下に集められた傀儡兵達を解除した後、陰陽の里への帰路につく!

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