第30話 大和解放 2

       大和解放 2



 結城さんの部下は、兵隊達の見張りにと残し、城への道すがら、俺の後ろで結城さんが指輪と会話している。

 まあ、本来ならば、里長である半蔵さんが直々に行くのが筋なので、その許可を取っているようだ。

 そして、今回は全員馬だ。俺は初めてなので、馬に跨っているだけ。毛利さんが俺の馬を引いてくれる。ちなみに、美鈴の馬は小夜が引いている。美鈴が少し悔しそうだ。

 また、出発前、ブランカも馬に乗りたいとか、訳の分からない事を言い出したが、流石にそれは却下した。もっとも、先頭を歩かせてやると、機嫌が直ったようだ。なんでも、馬を配下に従えている気分なのだそうだ。まあ、これはどうでもいいか。


 本当なら、小夜と美鈴は連れて行きたくなかったのだが、もし戦闘になった場合、小夜は外せないし、火薬を無力化できる美鈴も必須だ。

 俺の魔力も、さっきの休憩で1/3くらいまで回復しているようなので、これも問題なかろう。俺の魔力量は、現在常人の15倍くらいあるので、これだけあれば、数百人はいける。


 道中、何度も憲兵に会うが、大抵の奴は首筋の後ろに幽霊を背負っているので、問答無用に解除していく。もっとも、俺が手袋を外すと馬が怯えるので、その都度降りないといけないのが非常に面倒で、最後の方は、俺だけ歩いていたが。

 だが、おかげで、傀儡兵を気絶させずに、解除だけできる、絶妙の間合いと魔力の込め加減をマスターできた。

 また、洗脳されていない兵には、毛利さんが名乗るだけで、平伏して道を譲ってくれる。



 サトリの言っていた通り、1時間もかからずに城に着いたようだ。

 巨大な城が見えてきた。


 城は、堀に囲まれ、石垣の上に建てられていた。

 そこまでは、日本の城とおおよそ同じ。4階建てだが、形と色は大きく異なる。

 破風だっけか? 飾り屋根のような物は無く、途中の階の屋根には、庇の部分が無い。

 かろうじて最上階だけ庇がついており、そこだけは日本の城とほぼ同じに見える。

 また、瓦も無い。何か、薄い、くすんだ銀色の鉄板のような素材だ。

 そして、その素材は壁にも使わているようで、壁も同じ色だ。


 ちなみに、城下町の建物は、普通に瓦葺きで、陰陽の里とほぼ同じ雰囲気だ。

 昭和初期の、商店街のイメージ。

 ただし、全く活気は無く、殆ど人が出歩いていない。暖簾がかかっている店は、半分にも満たない。

 たまにすれ違う人は、俺達には目を合わせず、足早に通り過ぎる。



「着きましたじゃ。しかし、何度見ても、この光景には涙が出ますじゃ。去年までなら、ここは、槌の音で溢れ、店先には、多種多様な鉄製品が並んでおったものですじゃ」


 毛利さんは馬を降り、俯いて首を振る。

 その後、馬を預かってくれる店に行き、そこで全員馬を降りる。


 お堀の手前の跳ね橋で頑張っている近衛兵に、陰陽の里からの使者だと伝えると、凄い形相で睨まれる。だが、取り次いではくれるようだ。

 当然傀儡兵なので、解除してあげたいところだが、それをすると呆けてしまうので、かろうじて堪える。

 待っている間に、残った兵を全員解除して、俺達の目的を知らせると、全員目を輝かせた。

 ただ、皆、記憶の欠落が酷い。長い人だと、一年近く記憶が無いようだ。

 これはこれで、何ともやり切れない。



 そうこうしているうちに、取り次ぎに行った近衛兵が戻ってきて、結城さんと毛利さんを指さす。


「よし、入っていいぞ! ついて来い! だが、入れるのは、その赤髪の女と、毛利殿だけだ!」


 予期していた対応だな。だが、これではここに来た意味が無い。

 当然、結城さんが食い下がる。


「それは呑めないね~。あちきら全員入れてくれなきゃ、ここで交渉決裂さね。そうなれば、戦闘は避けられないさね~。あちきらには、既に3000の兵が居るんだ。分かったらお行き!」


 結城さんに一喝され、その傀儡兵は、再び凄い形相で俺達を睨むが、城の中に走って行った。


 再び待っている間に、今度は毛利さんが、この城の説明をしてくれる。


 基本的に、ヒデヨリさんは、この城の3階に住んでいるらしい。

 1階は、台所、風呂、便所、食堂、近衛兵の寝所など。

 2階は、軍議の間と、城を囲まれた時の迎撃設備。かなりの数のいしゆみが配備されている。

 また、地下があり、そこは、物資の集積場所になっているそうだ。

 そして、気になっていた、くすんだ銀色の屋根と外壁に関しては、『アルマン』という、特殊な金属で、火に強く、魔力をあまり通さないとのことだ。

 なるほど、魔法戦になる可能性のある、この世界ならではだな。


 最後に、この事は一切他言無用にとお願いされた。

 ま、これも当然だな。

 城の構造を知っておかなければ、万が一の事態に対応できないので、毛利さんも仕方なくだろう。もっとも、結城さんは既に知っている感じではあったが。



 そこで、さっきの兵が戻ってきた。


「よし! 入っていいぞ! 但し、その魔獣だけは絶対に駄目だ! これだけは呑んで欲しい」


 う~ん、俺としては、ブランカは、逃走時の切り札だったのだが、こればかりは、ごねても通りそうも無いな。


「分かった。じゃあ、ブランカはここで待っていてくれ」

「ウギャ~、ウガッ! ウガギガ」

(何かあったら、飛んで行くそうです)

「うん、ありがとう。確かにこれくらいの高さなら、ブランカなら一跳びだな。丁度窓もあるし」

「ウギャ!」



 城に入ると、2階に案内される。

 途中、擦れ違った人は、全員解除していく。

 左腕を下げた状態で、拳の先だけを相手に向け、軽く魔力を込めるだけだ。纏めて広範囲にやりたいところなのだが、そうすると、必ず気絶する人が出るので、今は仕方が無い。ここで騒ぎを起こしたくはない。


 皆、一様に呆けた顔になりざわつくが、案内している兵は、全く気付いていないようだ。

 ふむ、何か命令が与えられている間は、それにだけ集中しているのかもな。



 案内された部屋は、板間で、真ん中に大きな長方形のテーブルがあり、横一列に、既に5人座っている。全員、丁髷に半蔵さんが着ていたような羽織袴で、背後霊付き。


 ふむ、手前の空いている椅子5脚に、座れってところだろう。

 更に、部屋にはぐるりと、全部で20人くらいか? 槍を持った兵が配置されていた。

 これまた全員傀儡兵。ここまで来ると、壮観だとしか言いようが無い。それぞれの兵の顔は違うのに、頭の上に載っている顔はどれも全く同じ。赤い目だけが光る、真っ黒な顔だ。等間隔に立っているので、一種の、悪趣味なオブジェかと勘違いしてしまいそうだ。


 俺達が部屋に入ると、座っていた人全員が、一斉に立ち上がる!

 そして、真ん中の奴が叫んだ!


「モンハン王に仇なす愚か者め! 皆の者、かかれ!」

「「「「「「「「「おうっ!」」」」」」」」」


 ぐはっ!

 問答無用ですか?!


 だが、この事態は事前に想定済みだ!

 既に、腕には魔力を込めてある!


 俺は、迷わず左腕を振る!


 よし! これで前方の奴は全て倒れた!


 そして、右手の傀儡兵には小夜が。左手のには結城さんが。それぞれ刀を抜いて、応戦している!

 更に、背後で魔法の詠唱も聞こえる。


「我、願う! 我が魂、その理を力と換え賜え! アクアミスト!」


 美鈴の声だ!

 一瞬で、辺りにもうもうたる霧が立ち込め、視界が奪われる!


「よし! 伏せろ!」

「「「「「はいっ!」」」」」


 俺は、左右、そして背後に向けて、腕を振る!

 めくら撃ちだが、悲鳴と共に、どさどさと音がするので、これで終了だろう。

 ついでに、天井と床にも向けて、腕を振っておく。

 ふむ、運のいい?奴が、何人か倒れたようだ。上から派手な音が降って来た。



「相変わらずの手際さね~。で、ここは片付いたようだけど、これじゃ、交渉にならないさね」


 霧が晴れたところで、結城さんがぼやく。


「まあ、連中にとっての脅威は、俺だけでしょうから。作戦を少しだけ変えたってところでしょう。俺達を分断していた場合は、交渉そのものは行われるけど、ここから俺目掛けて、矢が降っていた可能性が高いですね」

「そのようっすね、あのいしゆみ、装填済みだったっす」


 しかし、ここまでとはな。

 テーブルの上には、忍者装束の男が二人伸びている。

 どうやら、天井から落ちて来たようだ。

 上を見ると、天板が2枚外れている。

 念の為、もう数回、天井に向けて盲撃ちする。


「ひえっ!」

「おりょ?」


 ふむ、上の階にも、運がいい?奴がまだ居たようだ。ちなみに、今度は何も落ちて来ない。


「これ、結城さんの部下じゃないですよね?」

「ああ、潜ませているのは、あの橋の下さね。ここには流石に潜り込めないからね~。じゃ、毛利殿、頼むさね」

「いや、ここは後です。今の感じだと、上にも人が居ました。もしかしたら……」

「承知ですじゃ!」


 毛利さんは、脱兎のごとく部屋を出て行く!

 俺達も、慌ててそれを追う。

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