第28話 完璧なる作戦

         完璧なる作戦



 最初の担当は、結城さんだ。

 彼女は、護符を前にして、ぶつぶつと唱える。

 唱え終わると、両手を口に当てた。


「モンハン王は、大馬鹿さね~っ! モンハン王の腐れ〇〇〇は、救いようがないさね~っ!」


 ぐはっ!

 凄い音量だ!

 この音量が、彼女の符術、『拡声』か!

 放送禁止用語もあったようだが、細かいことはいいだろう。


 そして、効果はてきめんと。

 早速、森の入り口の方から、喚き声と共に、地響きが聞こえてくる!


 そして、怒号がはっきりと聞き取れだした!


「モンハン王を侮辱する奴は許せん!」

「ぶっ殺してやる!」

「モンハン王の怒りを思い知るがいい!」

「全員突撃じゃ~っ!」

「行ってはなりません! あれは罠です!」


 中には冷静な声もあるようだが、あの感じでは、もう止まらないだろう。


 さて、俺の出番だな。


 曲がったところから、連中の先頭が見えた!

 狭い道いっぱいに、おしくらまんじゅうしながら、こっちに雪崩込んで来る!

 そして、背後から美鈴の声が聞こえる。


「アラタさん、まだよ! まだ、まだ…、ここよ!」

「はい! ご苦労様です!」


 俺は、左腕を道に沿って、真っ直ぐに突き出す!


「あわわわ!」

「ふげっ!」

「げぼっ!」


 丁度、曲がっているところまで、顔の集合体が一直線に飛んで行く!

 悲鳴と共に、突進してきた奴が一斉に倒れた!

 そこに、木陰から味方の大和兵達が出てきて、倒れた奴を、木陰に引きずり込む!


 そして、再び結城さんの大音声!


「モンハン王のアホタレ~ッ!」


 猛り狂った兵達は、木陰から出て来た奴には目もくれす、まだ倒れている奴を踏み越えて、こちらに走ってくる!


「絶対に許さねぇだ!」

「死ね~っ!」

「あの女だけは殺す!」


 そして、さっきの繰り返しだ。


「回収部隊は隠れて! ええ! アラタさん、今よ!」


 再び、俺が左腕を突き出すと、またもや、一斉に倒れる!


 しかし、本当に後から後から湧いてくるなぁ~。

 そして、この作戦がここまで有効とは!

 何故なら、この悪口に釣られて来る大半は、傀儡兵だからだ!

 元々操られていない人は、こんなベタな挑発には引っかからない。

 まさに、傀儡兵のみを選って、正気に戻す作戦と言えよう。


 振り返ると、結城さんは凄いどや顔だ!


 更に、泉の方からも声が聞こえる。


「聞けぇ~っ! モンハンに従わされていた大和の民よ! 秀頼様は操られておる! 儂は毛利広元! 我らこそが秀頼様の忠臣! 大和解放軍じゃっ!」


 よし、毛利さんも流石だな。

 気を失って、木陰に引きずり込まれた兵は、泉の畔、毛利さんのところに運ばれる。

 そこで正気に戻った人は、このように毛利さんが説得し、更に味方が増えるという寸法だ。

 勿論、正気に戻っても、暴れる奴は居るはずなので、そこは小夜の出番だ。死なない程度に凹ってから、拘束するらしい。



 この手順を、4~5回繰り返すと、今や、道から外れた木陰では、ひっきりなしに人が通っている。

 正気に戻って協力してくれる人は、回収部隊に加わるからだ。

 倒れた人、呆けている人は、一瞬で、全て木陰に連れ込まれるので、後続に踏まれて怪我する人も減っているはずだ。


 そして、懸念されていた火矢での攻撃も無い。

 まあ、これも読み通り。流石に味方の兵が居ると分かっている場所に、火矢は撃てまい。

 更に、小隊長の殆どが傀儡兵らしいので、残った中で、指揮を執れる奴もあまり居ないはずだ。

 もっとも、撃たれた場合は、ブランカと美鈴で消火する予定だったが。



「モンハン王は大ボケさね~っ! ん? もう反応が無いね~。じゃ、一旦休憩さね」


 ふむ、先程から数が減り出したと思ったら、ここで打ち止めのようだ。

 振り返ると、そこら中に大和の兵が溢れている!

 全部で何人居るのか分からないが、これで、あそこに集結していた傀儡兵は、ほぼ解除できたはずだ。


 泉の畔に引き返すと、ここも大和の兵で溢れかえっていた。

 もっとも、数十人くらいは縄で拘束され、猿轡を噛まされているが。

 おそらく、完全に洗脳されてしまった人達だろう。


 皆、かなり興奮しているようだ。


「毛利殿、いつ秀頼様を助けるでござるか?!」

「今から城へ突撃ですか?!」


 そこへ結城さんが一喝する!


「先ずは人数の把握さね! 全員、奥に向かって、一列に並ぶさね!」


 結果、総勢415名。ちょっとした軍隊の出来上がりだ!



 流石に俺も疲れたので、道端でへたりこんでいると、小夜と美鈴が来た。


「アラタさん、お疲れ様っす! で、魔力の残りはどんな感じっすか?」

「アラタさん、ご苦労様。でも、ここからが本番よ。その、大丈夫?」


 う~ん、先生、どうですか?


(かなり消費していますね。それ程残っていません。とにかく、今は休むべきでしょう)


 やはりか。

 彼女達を心配させたくはないが、これを隠してはいけない。


「済まない。あまり無いみたいだ」


 すると、傍で聞いていたのだろう。毛利さんが来て、俺の肩を叩く。


「問題無いですじゃ! ここからは、儂らの仕事じゃ! そうじゃの? 結城殿」


 振り返ると、結城さんも居た。


「そうさね! じゃあ、毛利殿、お願いさね! で、参謀部門は、ここで暫く休憩だ! 小夜ちゃん、美鈴ちゃん、そして、ブランカ! 近衛殿の護衛、頼んだよ! くれぐれも、余計な事して、疲れさせちゃダメだからね!」 

「は、はいっす!」

「あ、当たり前よ!」

「ウギャ」


 ふむ、ここから後の事はまだ聞いていないが、あの感じなら大丈夫だろう。

 もっとも、これから毛利さん達のやる事は見当がつく。此処に居るのは指揮官クラスが大半だ。毛利さんと一緒に、森を抜けたところで待ち伏せている兵の説得だろう。


 なら、暫く休ませて貰うか。しかし、余計な事ってなんだ?



 結城さんが立ち去ろうとする時、俺はふと、指輪のことを思い出した。


「そうだ、結城さん、この指輪、リーダーである、結城さんが持っていた方がいいと思う。魔力を通すだけで、池田さんと会話できます。里との連絡も必須では?」


 俺は右手の指から、指輪を外しながら提案してみた。


「え? そ、そら、確かにそうだけど。ほ、本当にいいのかい?」


 ん? 結城さんの顔が真っ赤だ。

 なるほど、そういうことね。これは俺でも分かった。


「ええ、結城さんから、池田さんに言っておいて頂ければ大丈夫かと」

「も、勿論さね! じゃ、じゃあ、大切に預かるよ! で、あんたらは、しっかり休むんだよ!」


 結城さんは、早速指に嵌めながら、軽い足取りで去って行った。

 ふむ、薬指ね。

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