第27話 援軍

      援軍



 俺は、左手を握りしめて身構える!

 憲兵が、刀を抜きながら、俺に向かって来る!

 その後ろからは、もはや数を数えきれない程の、黒山が押し寄せて来る!


 よし、最初の二人が射程に入った!


 軽く左腕を振ると、二人はあっけなく崩れ落ちた。

 だが、後続の突撃は止まら…、え? 止まった?


「近づくな! 敵は魔法の使い手じゃ! 弓隊前に! この距離から射貫け!」

「「「「「「「はっ!」」」」」」


 チッ!

 そういうことかい!


 だがそれは、こっちが留まっていればの話だな!


 俺は、伸びている奴を飛び越え、前に走る!

 うん、いい感じに固まってやがる!


 弓を構えた奴が前に出て来るが、遅い!

 俺は、左手を翳し、頭を低くくしながら、更に突進する!


「この距離じゃ! 狙う必要はない! 撃て!」


 よし、ここだ!

 俺は左腕で弧を描く!


「うわ!」

「ぐはっ!」

「き、気持ちわる~っ!」

「ぐぎゃ!」


 顔の集合体が通り過ぎた後には、幾重もの悲鳴が折り重なる!


 よし!

 かなりの数を倒せたようだ!


 だが、どんどん後ろから湧いてきやがる!


「もう一発!」


 再び、幾重もの悲鳴と共に、立ち塞がっていた奴が全て崩れ落ちる!


「皆の者! 敵は一人! 何をしている! かかれ! かかれ!」


 チッ!

 連中は、伸びている奴を踏み越えてきやがった!


(アラタ! 弓隊はあらかた片付きました! 一旦退きなさい!)


 なるほど。これは、このままだとまた犠牲者が出るパターンだ!

 俺は一度左腕を振ってから、踵を返し、一目散に森に走る!


「追え! 追え!」


 森までは、後数十メートルくらいか?

 とにかく、入ってしまえば隠れられる!


「逃げたぞ! 追うのじゃ~っ!」


 ヤバい!

 声が近づいて来る! 

 これは追い付かれる!

 毛利さんの話では、連中は精鋭。元の体力が違い過ぎる!


 げっ! 森の中からも人が出て来た!

 チッ!

 さっき伸ばした奴らがもう目覚めたか!


(大丈夫です! あれは味方です!)


 ん? よく見ると、森の火も消えているようだ。

 そして、森から顔を出したのは4人!

 二人は忍者装束。一人は真っ黒なローブ!

 最後の一人は、大和兵と一緒の鎧装備だが、あの光る頭には見覚えがある!

 そして、その男が両腕を前に突き出した!


「我、願う! 我が魂、その理を力と換え賜え! サンドウォール!」


 その詠唱と共に、背後で怒号が折り重なる!


「うわっ! 前が見えない!」

「え? この魔法は!」

「げげ! 口に砂が!」

「怯むな! 突っ込めぇ~っ!」


 前方の、赤髪の女が手招きをする。


「近衛殿! 一旦立て直すさね!」

「間に合ったっす! 穿て! 森羅万象の理より………」

「アラタさん! 早く! こっちよ!」


 俺は、這う這うの体で森に駆け込んだ!



 皆に合流すると、一斉に叱られる!


「無茶しすぎっす!」

「本当に心配したんだから!」

「しかし、たった一人で3000に突っ込むとは…、近衛殿、正気ですかの?」

「まあ、予想通りさね。とにかく、あの泉まで一度撤退さね!」

「す、済みません」


 あの泉の畔には、先程伸ばした大和兵と、竹千代と福。更に、忍者装束の男が二人、座っていた。

 そして、その傍には、6頭の馬が木に繋がれている。

 なるほど、馬で来たから追いついた訳ね。


「「「「「「近衛殿、本当にありがとうございました!」」」」」


 大和兵が、俺を見るなり、一斉に頭を下げる!

 ふむ、説明はもう済んでいるようだ。

 竹千代と福も俺の側に来て、ちょこんと頭を下げている。

 更に、頭に声が響く!


(う~ん、いい気分だ! あれ? ごめんなさ~いっ!)

(な、何ですかな? この感じは? え? それは申し訳ありませんでした!)


 なるほど、今回は、この子達と、そこの大和兵だな。

 今回は、『205808』、6人分と。


「いや、大したことしてませんから! こちらこそ感謝ですよ」


 全員、首を傾げているが、説明すると長くなり過ぎるのでいいだろう。


「それより、追手は?!」


 すると、背後から声がかかる。


「暫くは大丈夫さね。毛利殿の土魔法で、今は前が見えないはずさね。それに、森の中で待ち伏せされているのを、警戒しているはずさね。でも、長くは持たないね~。そのうち、火矢が降って来るさね」


 なるほど。結城さんの言う通りだろう。

 毛利さんの魔法がどんなものかは見られなかったが、さっきの悲鳴で、凡そ想像がつく。


「そろそろ、合流できましたかね~?」


 ん? この声、どこからした? そして、聞き覚えのある声だな。


「近衛さ~ん、聞こえてますか~?」


 ぶはっ!

 声は俺の右手、指輪からしていた!

 あ~、そういや、返すの忘れてたな。


 すると、結城さんが、俺の右手をひったくる!


「い、池田さんですか? た、たった今、合流しました!」


 へ?

 結城さん、何か、喋り方おかしくないですか?

 しかし、今はそれどころではないな。

 俺も返事をする。


「はい、本当に済みません。おかげで助かりました。それで、これからの予定は?」

「あ~、それは結城さんと相談して下さい。それより近衛さん、昨晩、重要な事が決定されましてね~」

「え? ひょっとして、俺の追放とか?」


 うん、これだけ迷惑をかけているのだ。追放されてもおかしくはない。


 そこで、声が変わった。


「何をたわけた事を! 婿殿! 婿殿には、陰陽の里、参謀部門の長に就任して頂く! 拒否は出来ませんぞ!」


 え~~~っ?!


「ではでは~。美鈴をお願いしますね~」

「あ! 文左衛門! まだ切るでない! 婿殿! 儂の可愛い小夜を頼みますぞ!」


 これで通信は切れたようだ。

 俺が振り返ると、全員にやにやしてやがる。


「終わったみたいっすね。それで、参謀部門の部員はあたいっす! これからも宜しくっす!」

「小夜ちゃん狡い! あたしも当然部員よ! 何でも命令してね!」


 あ~、もういい。

 なんか、一気に緊張が途切れた。


「じゃあ、今から作戦会議さね! 全員座るさね!」


 大和兵達も含めて、全員で車座に座る。

 竹千代と福は、泉の畔で、ブランカを撫でている。

 うん、仲良くなってくれたようで、何よりだ。


 先ずは俺が発言する。


「皆さん、本当にありがとうございました! しかし、相手は3000。あの感じだと、100人くらいは伸ばしたと思いますが、もう既に意識が戻っているはずです。俺達7人では、ちと厳しいのでは?」


 すると、桔梗さんがうんうんと頷いてから、にやりと笑った。


「近衛殿、既に17人に増えたさね」


 更に、大和兵の中で、最も年配そうな人が続ける。


「そうですぞ! 近衛殿の考えは既に伺い申した! 我らが闘わなくて何とする!」


 あ~、そういう事か!


「なるほど。最終的に、あの大軍は全て味方になると。しかし、俺も3000人は厳しいと思います。さっきから、結構魔力使ってますし」


 うん、あの回復魔法で、かなり消費しているはずだ。


(そうですね。でも、まだ2/3くらいは残ってますよ)


 ふむ、そこまでは減っていないと。


「それに、さっきくらいに固まってくれていればまだしも、俺の手の内は既に見せてしまっている。ばらけられると、まず不可能です」


 だが、結城さんは、またうんうんと頷いてから、滔々と話し出した。


「いやいや、さっきのを見ていて、あちきの考えは間違っていなかったさね。明らかに、嫌々戦っている奴が結構いるんだよ。それで……」


 結城さんの作戦は秀逸だった。

 うん、これならいける!


 俺達は一斉に立ち上がる!


 全員が持ち場に散る!

 俺は、少し直線部分のある、道の真ん中に立つ。

 俺の背後には、結城さん、美鈴、そしてブランカ。

 小夜と毛利さんは、子供達と泉の畔に残る。

 後の人達は、俺の前方の木陰に隠れる。


「じゃあ、やるさね!」

「「「「「「おう!」」」」」」

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