第22話 覚醒 1

       覚醒 1



 俺もつられて、皆と一緒に立ち上がりかけたが、良く考えれば、俺は特に何も言われていない。

 ヒデヨリを解放する作戦には、池田さんの口振りからも、当然、俺の力を見込んでいるはずだ。しかし、結城さんが作戦を練るまでは、特にする事はないか?

 じゃあ、それまでは、孫一の銃の改造を手伝うとするか。


 俺がそう思って、あの、孫一の作業部屋に行こうとすると、頭に直接声が響く。


(いいえ、あの者達は、アラタが考えている以上に、アラタを必要としています。ほら、来ましたよ)


 う~ん、俺があの呪いとやらの解除係なのは理解できるが、俺の戦略的な知識なんざ、皆無に等しい。なので俺は、皆が決めた作戦に従うだけなのだが?


 先生の言葉と同時に、結城さんと桔梗さんが俺に近寄って来た。


「近衛殿! 少し付き合って欲しいんだが、いいかい?」

「近衛さん、お話がありますわ!」


 ぐはっ!

 二人に同時に声をかけられ、どっちに先に返事をしようかと、二人の顔を交互に見る。

 すると、桔梗さんが退いてくれたようだ。


「あら、申し訳ありませんわ。じゃあ、明菜からお願いしますわ。私の件も、途中までは一緒でしょうし」

「お、桔梗済まないね~。うん、あちきもそう思うよ。じゃあ、近衛殿、付き合ってくれ」

「は、はあ」


 ふむ、先程から思っていたが、この二人、かなり仲がいいようだ。桔梗さんの方が若干年上に見えるが、実は同い年、幼馴染とかか?


 俺がそのまま二人に付き従うと、どうやら、目的地は藤原家、里長の屋敷のようだ。

 ちなみに、後の人達は、半数は半蔵さんと共に、里の門の方へ。

 残りは、それぞれまだ何か仕事があるのだろう。ばらばらに散っていった。


 そして、気付くと、足元にはブランカが居た。

 こいつ、本当に勘がいいな。


 屋敷の白洲には、一面にむしろが敷かれており、それを撤去する作業の真っ最中のようだ。鎧兜はつけてはいないが、10人程の、明らかに元大和の兵隊といった、年配の人達と共に、小夜もその手伝いをしている。

 ふむ、避難民の仮設テントの設置は、終了したと見ていいだろう。


 そして、俺が屋敷の門を潜るやな否や、ちょっとした騒ぎになってしまった。


「あの方じゃ! あの方が儂らを救って下さったのじゃ!」

「近衛殿! 本当に感謝するでござる!」

「本当に何とお礼していいのやら」

「あ、アラタさん、もう大丈夫っすか? なら、後で話があるっす!」


 ぐはっ!

 俺はいきなり全員に取り囲まれ、頭を下げられる。

 もっとも、若干一名は、違う目的のようだが。


「あ~、その、俺は感謝されるような事はしていません! それに、何人か殺してしまったようですし。本当に済みません!」


 これは俺の本心だ。

 この人達に感謝されるのは理解できるが、やはり、亡くなった方には、もはや弁解のしようもない。


 俺が頭を下げると、一人、最も年齢がいっていると思われる人が進み出て来た。


「頭を上げて下され。あれは仕方のない事ですじゃ。近衛殿が気になされる事は無いのですじゃ。そもそも、近衛殿がおらねば、儂らは全員死んでおったですじゃ」


 う~ん、それはそうなのだが。


 そこに、結城さんが続ける。


「そういう事さね。あの後、池田殿に全て聞いたよ。そして、聞かれたよ。『貴女なら、このモンハンの作戦を知ったら、どう対処しましたかね~?』ってね」

「え? それはどういう?」


 俺が顔を上げて、結城さんに振り返ると、彼女は表情を引き締め、全員を見渡しながら答えた。


「あちきは言ったよ。『当然、遠くから腰の袋目掛けて、火系統の符術を放った』ってね。そしたら、池田殿も、『うん、僕もそうしますね~』ってさ」


 あ~、俺も、それは一瞬だが考えた。 

 ふむ、ならば池田さんは、俺を試していたと見ていいのか?

 最悪、俺が失敗しても、全員、纏めて爆発させるつもりだったと。


 更に、頭に直接声が響く!


(アラタ! これで分かったでしょう! 池田という者の思惑までは分かりませんが、貴方は最小限の犠牲で、あの事態を収めたのです!)


 うん、ならば、俺もこれ以上は悩まないでいいか?

 そもそも、死んでしまった人間に、どう償えばいいのかも分からない。


 そして、このイベントは、この里の人達の、俺への配慮と考えていいだろう。

 おそらく、先生の差し金と見た。


(そ、それは、否定しません。私には、気を失う前のアラタがとにかく心配でした。なので、あの時のアラタの心情を、その桔梗とやらに話したのです)


 やはりか。


「分かりました。おかげで楽になりました。ありがとうございます。それで、結城さんの話は、この人達の事だけじゃないですよね?」

「ああ、とにかく、近衛殿が吹っ切れてくれたなら、あちきはそれでいいんだ。じゃあ、桔梗、座敷を借りるよ。それで、え~っと、毛利殿だったっけ? 済まないけど、また話を聞かせて欲しいのさ。あ、小夜ちゃんも一緒だ」


 ふむ、この人、毛利さんっていうんだ。頭髪は絶えて久しいようで、見事な光沢を纏っている。服装は他の人達と一緒で、質素な浴衣を一枚羽織っているだけだ。大方、里の人達からかき集めたものだろう。

 そして、どうやらこの人が、あの兵隊達の中で、大和で最も偉かった可能性が高いな。


「分かりましたじゃ。儂が知っている事は、何でも話しますじゃ!」

「了解っす! でも、あたいなんかが一緒でいいんすか?」

「当然さね。小夜ちゃんは、明後日、あちきと近衛殿、そして、この毛利殿と一緒に、大和に行くんだ。なんで、その打ち合わせさね」


 なるほど。どうやら結城さんには、既に作戦の概要が出来上がっているようだ。

 なので、足りない情報の確認と、小夜への伝達といったところか?


 俺達は、ブランカを縁側に残し、あの大座敷に上がる。



 座敷の大きなテーブルの周りに、皆が腰を下ろすと、小夜は当然のように俺の隣に座り、上目遣いに、恨めしそうに俺を見る。


 あ~、そういや、さっきはそれどころじゃなくて、無視した形になっていたな。


「あ、小夜さん、済まない。話は、今回の件が落ち着いてからでいいかな?」

「そ、そうっすね。今はそれどころじゃないっすよね」


 ふむ、小夜も分かってくれたようだ。視線を、俺から結城さんに向ける。



 結城さんが全員を見回す。


「じゃあ、揃ったところで始めるかね。先ず、毛利殿、今の大和の状態を、最初から説明して欲しい」

「それは構わないのですじゃが、さっきの、儂も一緒とは? この老いぼれを連れていっても、儂には、秀頼様に手をかける覚悟だけはできませんじゃ」

「あ~、毛利殿は勘違いされてるね~。あちきらがしようとしているのは、その逆さね。あちきらは、その秀頼の傀儡状態を解いて、大和をモンハンから解放するのが目的さね」

「何と! それなら、儂ら全員参加しますじゃ!」

「うん、そう言うと思ったけど、毛利殿だけでいいかね~。なるべく騒ぎは起こしたくないんだ。あ、でも、そういう手もありか。う~ん、ここは迷うね~。とにかく、話しておくれ」

「承知しましたじゃ! でも、儂には、ここ最近の記憶が全く無いのですじゃ。それでも構わないかの~?」


 毛利さんは、記憶を呼び覚まそうとしてか、ぴたぴたと自分の頭を叩く。


「ああ、構わないさね。他の連中の話を聞く限りでも、毛利殿達が傀儡にされたのは、最近のようだしね」

「ならば……」



 毛利さんの話によると、彼が傀儡兵にされたのは、1週間程前。

 元々、大和の魔法指南役の最高顧問の長老として、ヒデヨリに仕えていたらしい。


 当然、彼もヒデヨリがおかしい事には、併合された時から気付いていた。なので、彼なりに解除しようと、色々と魔法を試してみたが、どれも失敗。

 そのうち、彼は左遷を言い渡され、慣れない農作業に従事させられたと。

 そして、ある日、モンハン王が来たから挨拶しろと呼び出され、そこで傀儡兵にされたようだ。どうやら、その時に、大和の魔法関連の重鎮が、纏めて傀儡兵にされたと考えるべきだろう。ちなみに、少年兵と思われたのは、皆、その人達の子息らしい。


 そこで桔梗さんが口を挟んだ。


「それで、毛利さんは、秀頼さんに、どういった魔法を試されたのか教えて頂きたいですわ」


 ふむ、上手くすれば、桔梗さんにも解除が可能かもしれないな。

 何しろ、俺でも解除できたのだ。魔法、いや、符術のエキスパートである彼女ならば、可能かもしれない。


「儂が試したのは、状態異常の解除魔法と、上書きですじゃ。上書きは、少々危険じゃったが、秀頼様に混乱の魔法、『コンフューズ』、更には『スリープ』とか、色々かけてみましたじゃが、どれも、全く効果は無かったのですじゃ」

「あ~、そいつはあちき達も経験済みだよ。モンハンに潜入しようとした時、警備兵に睡眠効果の符術、『爆睡』をかけたんだが、全く効かなくてね~。おかげで部下を失ったんだよ」

「う~ん、それは厄介ですわね。でも、私も毛利さんと同じことしか思いつきませんわ」


 桔梗さん、結城さん、そして小夜までが頭を捻っている。


 ふむ、魔法の名称は西洋風と。まあ、それはいい。

 また、これから分かる事は、魔王のかけた魔法には、上書きが効かないということか?

 魔王の魔力のせいだろうか?


(ええ、魔力の違いもあるでしょうが、元々、かけられた魔法のことわりが違うのでしょう)


 ん? それは、魔法と符術の違いのようなものだろうか?

 いや、それは違うか。俺の考えでは、魔法も符術も、元は一緒のはずだ。

 あ~、そういう事か!


(はい、私もそう思いますよ)


「え~っと、いいでしょうか?」


 俺は、おすおずと手を挙げる。


「勿論ですわ! 近衛さん、お願いしますわ!」


 桔梗さんが、待ってましたとばかりに俺に振る。


「はい、俺の左腕は魔王です。奈月先生によると、この左腕は、負の魔力の塊らしいです。なので、そういった、負の魔力をぶつければ解除できるけど、普通の人間の魔法では、無理なのではないかと。勿論、その、魔王のかけた負の魔力を打ち消すくらいの魔力を持っている人ならば、可能かもしれませんが」

「流石は近衛さんですわ! それなら納得ですわ!」

「なるほどっす! あたいも理解できたっす!」

「あ~、そういう事かい。それで近衛殿にしか無理だったと」


 うん、明確にはまだ証明されていないが、この人達が納得してくれたのなら、正解と見ていいだろう。

 しかし、当然この発言には、毛利さんが食いついた!


「こ、近衛殿! ま、魔王って! た、確かに、儂もモンハン王は魔王ではないかと疑っておりましたじゃ! し、しかし、その左腕がその…ふぎゃっ!」


 ぐはっ!

 毛利さんは、桔梗さんに煙管でどつかれ、頭を抱えた!

 可哀想に、少し赤くなっている。


「毛利さん、落ち着いて欲しいですわ! そして、近衛さんの腕の事は、今は置いて欲しいですわ!」

「ああ、悪いけど、大和の連中にも黙っていて欲しいね~」

「わ、分かりましたじゃ。しかし、確かにその説明なら、儂も納得できそうですじゃ」


 毛利さんは、頭を擦りながら、俺をしげしげと見る。

 そして、更に続けた。


「ん? ならば、あの魔法、呪術の類かの~? ふむ! そう考えれば…、いや、そうとしか考えられん!」


 毛利さんの目が、見開かれる!


 ん? 呪術?

 俺の世界での、インチキ魔術師とかのあれか?

 実は、麻薬とかの薬物でやってたって話だが?


(いえ、アラタの世界でも、流石に蘇生とかまでは無理ですが、魔法、呪術は存在しましたよ。と言うか、その意味では、アラタのその左腕は、呪術の結晶でしょう。余程運が悪くない限り、普通、階段から落ちた程度では死にません)


 なるほど、先生の説明で、俺も納得だ。

 しかし、陰陽の里の人達は違ったようだ。


「え? 毛利さん、呪術って? 私も、名前だけは聞いた事ありますけど、どういったものかまでは存じませんわ」

「あたいも初めて聞くっす」

「あちきもだね~」


 すると、毛利さんは少し上を向きながら、記憶と格闘しているような感じで説明する。


「わ、儂も、詳しい事は知りませんじゃ。じゃが、遥か西方の国にはあるそうですじゃ。う~ん、何でも、怒りとか、憎しみとか、そういう感情を魔法に込めると聞きましたじゃ」


 ふむ、これで完全だな。そして、人の負の感情を利用する魔法なんて、神である、清明さんが教える訳もなく。


(当然ですね)


「ちょっと想像がつきませんけど、そういった魔法があると納得するしかないようですわね。それで毛利さん、その呪術を使える方は、大和にいらっしゃいますの?」

「う~ん、昔なら居たかもですじゃが、今は居ませんじゃ。数百年前に、禁止されたと聞いていますじゃ。しかし、モンハンならどうじゃろうか? そうじゃ! モンハン王が使えるのならば、それを教えた者が居るはずですじゃ!」


 ふむ、モンハンなら可能性が高そうだ。もし居て、こちらについてくれるのなら、俺の負担もかなり減りそうだが。

 しかし、それは期待できないな。


「そいつはどうだろうね~。近衛殿の話によれば、モンハン王は、符術とか魔法そのものを、この世から消したいんだ。毛利殿も、そのとばっちりさね。そんな厄介な術を使える奴なんて、真っ先に殺されてる筈さね」


 うん、結城さんの言う通りだ。

 桔梗さんも頷く。

 もっとも、小夜と毛利さんは俺の話を聞いていないので、理解に苦しんでいるようだ。

 首を傾げている。


「じゃあ、やはり傀儡の解除に関しては、残念ながら、近衛殿一人に頼るしかないようだね~。なので、次だ。毛利殿、大和の警備状況と、傀儡状態の人は、どれくらいだい?」


 結城さんは、済まなさそうに俺に軽く頭を下げ、もっとも毛利さんに聞きたいであろう話に切り替えた。



 それによると、併合される前の大和の兵力は約2万。しかし、現在は1万も居ないのではないかと言う。

 理由は、元々兵隊は、普段は農業との兼業の人が多かったらしく、有事の際以外は、普通に農民。農作業の暇な時に修練とかをしている。なので、その人達は、農業専門にされたと。


 そして気になる傀儡兵の数だが、数千人くらいではないかとの事だ。根拠としては、見た感じ、洗脳されていたのは、それぞれの小隊の長までらしい。もっとも、警備とか、治安に関わる者は大半が傀儡兵で、ヒデヨリの側近も、半数以上が洗脳済みらしい。

 しかも、厄介な事に、皆、処刑される事を恐れて、傀儡兵ではなくとも、洗脳されているふりをするそうだ。ある部隊では、食事の前に、モンハン王を称える歌を斉唱するとか。

 これじゃ、魔王の魔法抜きで、本当に洗脳されてしまっている人までいる可能性が高い。


「う~ん、想像以上だったね~。あちきは、モンハン王にも魔力の限りがあるだろうから、多くても、500人くらいって読みだったんだけどね~。ちょっとこれは、根本的に考え直さなきゃならないね~」


 結城さんは、そこで考え込んでしまったようだ。

 ここで桔梗さんは、一瞬、何か言いたそうに、顔を上げて俺の方を見たが、何故か再び顔を伏せてしまった。


 沈黙が流れる。


 ふむ、確かに500人くらいなら、トップのヒデヨリとその側近、そして、あと200人くらいを解放してしまえば、後は自分達で何とかできるだろう。

 そして、俺の魔力では、昨日で判明したが、数百人が限度。余程上手い具合にかたまってくれない限り、数千人なんてとても無理だ。まあ、全員を解放する必要は無いのだが、それでも、最低でも2割くらいは解放する必要がある筈だ。それに、開放されなかった人達は、池田さんの話では死ぬまで戦う。犠牲はもう沢山だ! できれば全員解放してあげたい。


(いえ、今なら可能かもしれませんよ)


 へ?

 先生、俺、昨日、あれだけで気を失ったんですよ?

 原因は俺にも分かる。魔力切れだ。そもそも、俺の魔力が回復しているかどうかすらも怪しい。


(心配ありません。ほぼ回復しています。人間の魔力は、この世界ならば、ほぼ一日で回復するようですね。そして、アラタの魔力は、量もですが、昨日の時点では、この世界の一般の人間の倍くらいでしたが、今や10倍以上あります)


 え? え?

 あ、そういう事か。小夜が、魔力は使えば使う程増えるって言っていたから、俺も成長したってことか? しかしそれ、いくら何でもチートすぎでは?


(はい、そういったものも、少しはあるでしょう。ですが、アラタの場合は違います。原因は、あの、『謂れなき恨み』を浄化したせいです。あの恨みは、一人につき、おおよそ人間の全魔力の一割ほどの力です。そして、普通の恨みならば、浄化された時、その魔力もろとも四散し、その世界に還元されます。しかし、あの者達はアラタに謝っていましたよね)


 ん?

 恨みの魔力は、人の1/10。そして、昨日の時点で、俺は人の倍。

 そして、今日の俺は10倍以上。

 ひょっとして、これって?


(はい、その通りです。あの恨みは、その魔力を、そのままアラタに残していったのです。勿論、負の魔力としてではなく、浄化された、普通の魔力として)


 ぐはっ!

 理屈は良く分らないが、何となく理解はできる。


 普通の恨みならば、恨みを晴らして、気分すっきりで消えてしまうが、俺に憑いた奴らは、すっきりしたと同時に真実に気付き、後ろめたさも爆発してしまった訳で。なので、その力を俺に置いて逃げたってところか?


(かなり雑な解釈ですし、若干違いますが、まあ、それでいいでしょう。なので、今のアラタには、計算上、常人の13倍くらいあるはずです。そして、今朝の様子では、桔梗も気付いている可能性が高いですね)


 なるほど。今、桔梗さんが言いかけたのは、先生同様、俺ならば可能かもと。あの人なら、俺が伸びている間に、俺の能力を確認している可能性は高い。

 そして、桔梗さんが俺に話したかった事は、きっとこの現象の事に違いない。

 そら、一晩で魔力が5倍以上増えたのだ。色々と聞きたい事があって当たり前だ!


 しかし、これはとんでもないことではなかろうか?

 この調子で恨みを浄化出来れば、俺はこの世界最強の魔法使いになれるのは間違いない。

 もっとも、魔法が使えればの話だが。そういや、まだ試していなかったな。


 そして、これは迷う。更に俺の非人間性を曝してしまっていいものだろうか?

 小夜と美鈴には、引かれることになりそうだ。

 他の人達だってそうだ。こんな化物と、まともに付き合いたいと考えてくれる人は、そうそう居ないのではなかろうか?


(ええ、アラタがそう考えるのは当然でしょう。なので、この者達次第です。この者達が、アラタと関わる覚悟が出来たかどうか、確認するといいでしょう)


 ぐはっ!

 しかし、先生の言い方はなんだが、そういう事になるのだろう。

 うん、はっきりさせてしまうのもいいだろう。


 俺は再び、そろそろと手を挙げる。


「あの~、その事なのですが、上手くすれば、出来るかもしれません。勿論、傀儡兵をある程度纏めてくれないと無理なのは、大前提ですが」


 すると、結城さんが、頷きながら答えてくれた。


「いや、それはあちきも考えたんだよ。傀儡兵を一ヵ所に集める方法はある。しかし、いくら何でも数が多すぎさね。昨日、近衛殿は200人を解除する事に成功した。しかし、それで魔力切れだ。今回は最低でも500人。おまけに、奴らは攻撃してくるんだ。なので、解除できなかった奴は、当然、誰かが殺さないといけない。本気でモンハン王に心酔している奴も居るだろうし、それこそ大規模な内戦になっちまう。それで秀頼が勝ったとしても、疲弊しきった大和じゃ、またモンハンにやられちまうのが落ちさね」


 まあ、そんなところだろうな。


「はい、結城さんの考えは、俺にも理解できます。ですが、今の俺なら、大和の傀儡兵、全員解除できるかもしれません」

「こ、近衛さん……、そ、それは……」


 結城さんは、今一理解できてないのだろう。目を丸くして、ぽかんとしている。

 しかし、桔梗さんはそう言って、心配そうに俺を見つめる。


 そこに縁側の襖が開け放たれ、半蔵さんが入って来た。

 ふむ、やっと避難民の受け入れと、門の修理が終わったのだろう。

 そして、外の景色はもう真っ暗だ。


 半蔵さんは、皆に軽く頭を下げ、無言で空いているスペースに腰を下ろす。

 彼が落ち着いたところで、俺は続ける。


「はい、桔梗さん、その額の目で、俺を見た感想を、結城さんに教えてあげて下さい」


 すると、桔梗さんは、今度は、今来た半蔵さんに、縋るように視線を向ける。


「ふむ、話の内容は解らんが、儂の唯一無二の絶対美、桔梗よ、婿殿の能力、ありのままに伝えるが良かろう。毛利殿も、元は大和の大老。ここでの話は洩れんじゃろう。それに、儂はその奈月先生とやらに言われた、『覚悟』についても、儂なりにじゃが、ちゃんと結論を出しておる」


 流石は里長だな。

 場の空気が一気に引き締まり、皆は半蔵さんに注目した後、桔梗さんに向く。


「近衛さん、よろしいのですわね。なら、失礼しますわ」


 桔梗さんは額のバンダナを外し、額の、青く書かれた『目』を、俺に向ける。

 そして、何やら小声で呟く。


「やはりですわね。今朝よりも増えていますわ。そうですわね。近衛さんの魔力は、量と共に、常人の10…いえ、15倍といったところですわね。私の3~4倍くらいありますわ。なので、さっきの、全ての傀儡兵を解除するという話、近衛さんなら、確かに不可能ではありませんわ!」


 これには、当然、皆が食いつく!


「え?! 母上の3~4倍って、それ、もはや化物っす!」

「15倍とはのう。確かに人間離れしてますじゃ。しかし、それなら、あの奇跡も納得できますじゃ!」

「う~ん、あちきも…、いや、まあ、あんな事が可能な近衛殿らしい、と言えばそれまでかね~」

「う~む。今朝、儂が聞いた時は、8倍くらいという話じゃったからの~。まあ、もはや婿殿に関しては、驚きもせんわ」


 まあ、そんなところだろう。

 それに、半蔵さんの言う通りだ。今更、最強の魔法使いになれたとしても、元々魔王を飼っているこの身だ。大差あるまい。


 一通り感想が出たところで、結城さんが色めき立つ!


「でも、それなら可能さね! しかし、危険な事には変わりない。明日になれば、大和に出した斥候も帰ってくるはずだ。だから、その結果と併せて練り直しさね。なので、半蔵殿、決行は明後日のつもりなんで、少し待っておくれ」


 ふむ、結城さんも流石だな。おそらく、大和に帰る兵隊に、スパイを紛れ込ませたと考えていいだろう。

 そして、半蔵さんが立ち上がった。


「良かろう。ならば今日はもう遅い。今、文左衛門のところで、儂らの晩飯を用意してくれているそうじゃ。なので、婿殿、その前に一風呂どうじゃ? あ、儂も毛利殿の話は伺いたい。一緒にどうですかな?」

「あ、それはいいですね。喜んで」

「おお~、儂も、最近風呂に入った記憶が無いので、嬉しい話ですじゃ。勿論、ご一緒させて頂きますじゃ」


 俺達も立ち上がると、女性陣は屋敷から出て行った。

 そして、入れ替わりにブランカが入って来る。

 むむ、スリッパ履いてやがる。誰に貰ったんだか。


「で、ブランカ、お前も一緒に風呂入るつもりか?」

「ウギャ! ウグ、ウワン」

(魔獣といえど、お肌の手入れは必須だそうです)

「はいはい。半蔵さん、いいですか?」

「勿論じゃ! では、参りますぞ」


 俺と半蔵さんとブランカは、目を丸くする毛利さんを従え、風呂場に向かう。

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