第12話 孫一

      孫一



 先程通った門が見えてきた。

 しかし、俺達が通った時は、硬く閉ざされていたのに、今は開け放たれている。

 おまけに、何やら人が集まっているようだ。

 集まっていた人の服装は様々だった。

 和服系統がメインだが、サヤのような忍者衣装あり。昔の農作業をするような、もんぺ姿あり。流石にスカートやスーツは無かったが、洋風のズボンを履いている者も居た。


 そして、皆、口々に門の外に向かって叫んでいる。


「マゴイチ! 魔獣なんかに負けるなよ!」

「あら? 灰狼族は里の味方よ! あたしは女ったらしのマゴイチよりも、あの子を応援するわ!」

「マゴイチさん、頑張って~っ!」

「あいつは俺のミカちゃんに勝手に名付けやがった! 灰狼族、そいつならやっちまっていいぞ~っ!」


 ぐはっ!

 あいつら、何やってるんだか。


 大体想像はつくが、碌な事になっていないようだ。

 しかし、声からするに、応援団の比率は五分五分と。

 まあ、あの男、ハンサムだから女にはもてそうだが、その分敵も多いと。


 人混みの後ろから門の外を覗うと、さっきの門番の男と、ブランカが睨み合っていた。

 男の方は、50㎝程の、何やら鉄製の筒を握っている。


「サヤさん、あれって銃だよね?」

「そうっすね~。全く、マゴイチは里の面汚しっす! あたいらには、清明様から頂いた符術があるっす! それを、あんな武器に頼って!」


 やはりか。見た感じ、お巡りさんが持っているような銃とは違って、弾倉がついていない。

 小型のライフル、いや、火縄銃か?

 何れにしても、単発だな。そして、銃の長さからは、射程もそれ程長くは無さそうなので、威力面を考えたら、サヤの魔法の勝ちだろう。


 しかし、これは止めねばなるまい!

 せっかく里に入れる許可を貰ったのに、ここで問題を起こされると面倒だ。


 俺が人混みの隙間から前に出ようとすると、何と、銃声が響いた!


 チッ! 間に合わなかったか!


 そして、男の声が続く。


「今のは脅しでござる! これに懲りたら、拙者の言う事を聞くでござる!」


 ほっ、外れたようだ。

 しかし、ブランカが、あの牙のはみ出た口を大きく開ける!


「ウヲッ!」


 その咆哮と共に、空気の歪みのようなものが、男に直進する!


「わわ! な、何でござる?!」


 男は慌てて腕を前に組んで防御する!

 しかし、その歪みは男を掠め、横に生えていた低木を真っ二つにした!


 ふむ、あれが魔法って奴だな。見た感じ、ゲームとかの風系統の魔法?  

 そして、ブランカも外してくれたようだ。頭を軽く上げて、相手を見下したような表情だ。


「ウガガ、ウガッ!」

(こっちも脅しだと言っています)


 先生、どうも。って、今はそれどころじゃない!

 止めなければ!


「マゴイチ! ブランカ! やめるっす!」


 なんと、俺より先に、サヤが飛び出て割って入った!


「なんだ~? いい所だったのに~」

「サヤちゃん、止めるなよ~」


 野次馬が口々に愚痴をこぼすが、サヤは構わず二人?を睨みつける。


「この灰狼は、今日から里の一員っす! なんで、喧嘩はダメっす! でも、どうしてもやり合いたいなら、そこのアラタさんが相手するっす!」


 サヤはそう怒鳴って、俺を指さす。


 ぐはっ!

 何で俺に振る?

 まあ、ブランカは俺の連れだから、俺に責任があるのは当然なのだが。


 集まっていた連中は、一斉に俺に振り返る。

 そしてサヤは更に続ける。


「そこのアラタさんは、一人であのすり抜け兄弟を仕留めたっす! その結果、アラタさんも今日から里の仲間っす!」


 あ~、なるほど。

 これは粋な計らいだ。

 要は、サヤがこの場を利用して、俺の紹介をしてくれたと。

 勿論、これはサヤの独断ではあるまい。キキョウさんの指示と見た。


 そして、二人?は完全に毒気を抜かれたようで、お互い立ち尽くしている。


「あ~、俺が近衛新このえ・あらたです。色々あって、今日からこの里に加えて貰えることになりました。皆さん、宜しくお願いします」


 俺が頭を下げると、口々に感想が洩れる。


「ふ~ん、あの兄弟をやったのなら、実力は相当なものね! あたしは歓迎するわよ!」

「そうだな。あいつらを仕留められるのなら、戦力になるのは間違い無いだろう」

「でも、その恰好、何処の国の出だ? 見た事無いぞ?」

「その左腕、符式ですか? しかし真っ黒って! なんか凄いですね」


 ふむ、俺の印象は、警戒はされているが、そこまでは悪くは無いと思っていいか?


 皆は、近寄って来て、俺を鑑定する。

 しかし、すぐに飽きたのか、これ以上の騒動は起こらないと見たのか、皆、三々五々に散って行った。


 で、結局その場に残されたのは、俺とサヤ、マゴイチ、ブランカ。


「マゴイチ! あんた、灰狼族相手に何やってんすか! お互い不干渉の決まりっすよ!」

「ブランカ! 何があったか教えてくれ。灰狼族は無益な戦いを好まないんじゃなかったのか?」


 俺とサヤは、同時に、それぞれに詰問する。


「こ、この灰狼族が生意気だったので、どっちが上か教えていただけでござる!」

「ウ~、ウギャギャ、ウワン! ウッギャッ!」

(勝手に私の背中に跨ろうとしてので、怒っただけだと言っています)


 ふむ、これが事実なら、マゴイチに非があるな。

 しかし、子供ですか?

 

 俺はマゴイチに、冷めた視線と共に言う。


「あの~、マゴイチさん、ブランカに乗ってみたいって気持ちは、俺も良く分ります。でも、ちゃんと了承を得てからにしてやって下さい。こいつ、ちゃんと人間の言葉が分かるんで」

「ウギャグッ! ウギャギャ!」

(絶対に乗せないけど、だそうです)


 まあ、普通そうだわな。

 確かにブランカはでかいけど、灰狼族の中では小さいほうだったし、乗せるにしても、サヤくらいが限度だろう。


 俺は、これでマゴイチが詫びるかと思ったが、少し様子がおかしい。

 サヤと二人、顔を見合わせ、大きく目を見開いている!


「え? 近衛殿は、灰狼族の言葉が分かるのでござるか?!」

「え? アラタさん、ブランカが何言っているか分かるんすか?」


 ぶっ! 見事にハモられた!


「ま、まあ、以心伝心というか、分かる時もあるというか、でも、合ってますよね?」


 うん、奈月翻訳機の存在を明かすのは、とても面倒だ。

 俺はそう言いながら、マゴイチを睨む。


「た、確かに、拙者が乗ろうとしたのは事実でござる。灰狼族が馬の代わりになれば、これは大きな戦力になると、確かめたくなったのでござる!」


 ふむ、悪気は無かったと。しかし、何とも好奇心旺盛、いや、里想いと言うべきか?

 だが、ブランカからすれば、いい迷惑なのは間違いない。


「う~ん、あたいも少しは思った事があるっすけど、こいつはプライドが高そうなんで、無理っすね。それと、さっきも言ったとおり、ブランカも今日から里の仲間っす。なんで、マゴイチ、ちゃんと謝るっす!」


 ふむ、サヤもそういう目でブランカを見ていたと。

 とことん、戦国時代のような里だな。

 ちなみに俺は違う。何か芸をしてくれないか期待していただけである。もっとも、芸どころか、魔法を見せてくれたが。


「え? 許可が下りたでござるか? なら、ブランカ殿、失礼したでござる!」


 マゴイチは、しっかりと頭を下げた。


「ウガガ」

(許すそうです)

「うん、ブランカも受け入れてくれたようです。じゃあ、マゴイチさん、これから宜しくお願いします。店の方は、今度行かせて貰いますので」

「そうでござるか! じゃあ、もし良ければ、今から案内するでござる! 丁度、拙者の当番の時間も終わりでござる!」


 ふむ、今気付いたが、そろそろ日が暮れようとしている。

 また、振り返ると、サヤと同じ忍者衣装に身を固めた男が、マゴイチに向かって手を振りながら駆けてきた。交代要員だろう。


 そして、確かにこいつの店にとやらには、少し興味がある。もし、日用品とかを扱っているのならば、俺も買っておきたいところだ。


 俺はサヤを見る。


「別に、あたいは特に急がないっす。でも、こいつの店に行っても、大したものは無いっすよ? まあ、ハイカラ好きの人には受けてるみたいっすけど」


 ハイカラ? 俺の世界じゃ死語だな。

 そして、こいつの鎧兜を見る限り、洋式の武器の店か?

 ふむ、時間があるのなら、行って損にはなるまい。この世界の水準が分かるだろう。


 案内される道すがら、門番をしていたマゴイチが何故店を? と聞くと、門番の仕事は当番制で、マゴイチのような若い男性ならば、義務なのだそうだ。でも、月に一度程度なので、誰も不満を洩らしたりはせず、寧ろ、里の役に立てるチャンスだと思われているらしい。


「着いたでござる! ここが、拙者、いや、父上の池田いけだ屋でござる」


 ブランカも連れて、でかでかと『池田屋』と書かれたのれんを潜ると、割と広い店内の中に、所狭しと品物が並べられている。

 しかし、その商品の大半は、この和風の里に似つかわしくないものばかりだった。


 手前は女性の洋服関連が多く、スカート、ワンピース、ブラウス、下着など、俺の世界で着ても、違和感のない商品ばかりだ。

 そして、その奥に、マゴイチが着けている、鎧兜、その他、フルアーマー、盾、剣など、西洋風の武器防具も揃えられていた。

 サヤもあんな事を言っていたくせに、興味があるのか、下着などを手に取って確かめている。逆にブランカは全く興味が無いのだろう、入り口で、巨大な置物と化してしまった。


「お~、これは凄い! 品揃えも豊富ですね! 俺の世界でも通用するかも!」


 うん、骨董品を扱う、マニアックな店というコンセプトなら、あってもおかしくは無さそうだ。


「それは嬉しいでござる! ならば、近衛殿も、西の出身でござるか? ここの商品は全て、父上が西の国々から仕入れてきたものでござる。気に入った物があれば、先程の詫びも含めて、安くするでござる!」


 ふむ、ここならば、当面の俺の課題、普段着などの日用品などもありそうだ。

 サヤの家族を見た感じ、この里には、男の下着は、ふんどし以外無さそうな気がするし。

 そして、金ならば、先程サトリから頂いた、盗賊達の遺品?がある。

 どのくらいの金額かは分からないが、貨幣の価値を知る為にも、丁度いいな。


 目当ての普段着は、ジーンズ等は無かったが、普通の洋服、そして、スーツまで売られていた。更に下着も、流石にブリーフは無いものの、トランクスのようなものがあった。

 うん、これなら問題はないな。問題は値段だが、何とかなるだろ。足りなければ、先に懸賞金を取りに行くだけだ。

 俺が普段着を見繕っていると、奥の方で、何やら声がする。


「マゴイチ、あの方が今日来た、近衛さんよね?」


 ふむ、俺の噂は既に広まっているようだ。


「そうでござる! そして姉上、これはチャンスでござる!」

「ええ、マゴイチ、よくやったわ! 早速仕事に取り掛かるわよ!」

「合点でござる!」


 ん? なんだなんだ?

 その声と共に、店の奥から、マゴイチと共に、やたらひらひらのついた、ピンクのドレスを纏った女性が出て来た! 

 何と、驚いた事に金髪だ! この里で金髪の人間は初めて見る。そのストレートの髪は、はっきりと谷間が出る胸元まで伸ばされ、完全にドレスとマッチしている。

 マゴイチと同じ青い瞳も相まって、かなりの美人。どこぞのお姫様と言われても通りそうだ。ふむ、ハーフか?


「あの~…」

「あ、初めまして、ごきげんよう。私は孫一マゴイチの姉、美鈴みすずよ。それで、良かったらそのランセル、見せて欲しいんだけど、いいかしら?」


 俺が聞くより先に、その女性が答えてきた。

 そして、俺に近寄り、やはりマゴイチ同様、上から下まで俺を舐めるように見る。


 あの~、とっても近いんですが?

 おまけに、かがむと、その、ドレスの胸元からはみ出しそうな物が、とっても気になるんですが?


 そして、これは困ったな。出来ればこの美人に協力してあげたいのだが、奈月先生は、長時間俺から離れられない。この人の目的は、ルイネルの最新作、もとい、奈月先生を調べる事だろう。


(少しなら構いませんよ。中は偽装しておきますし。それに、アラタもお金が必要でしょう。そして、アラタはああいう女が好みなのですか?)


 ぶはっ! 俺の視線は当然ばれていると。

 まあ、先生の中に入れてあった、貨幣の価値も確かめなければならないし、丁度いいか。


「わ、分かりました。俺も確認したい事がありますし。でも、すぐに返して下さいね」


 ランドセルが勝手にずり落ちてきたので、俺が開くと、中には盗賊の金だけが入っていた。

 ふむ、あの異次元空間は封印中と。


 俺は両手で金をかき集め、ポケットに捻じ込む。結構な量で、ポケットはパンパンだ。


「はい、どうぞ」


 俺が差し出すと、二人はマッハで奈月先生をひったくり、奥のカウンターに引き籠る!

 マゴイチがメジャーで測定し、ミスズさんは、何やらメモを取っているようだ。


 ふと、背後からの視線に気付く。


「ん? サヤさん、何かいい物はあった?」

「い、いや、いい物は、そのアラタさんのポケットの中っす! 何すか? 10両はあったっすよ?」


 そっちかい! そして、これは迂闊だったな。

 しかし、見られてしまったものは仕方が無い。ついでに、貨幣の種類を教えて貰おう。


「ん~、この金は、あの盗賊の持ち物だよ。ひょっとして、これ、被害者に返さないといけないとか? あと、この金の価値が解らないんで、教えてくれると嬉しいんだけど?」

「そ、それはないっすけど、そうっすか~。あいつらそんなに溜め込んでたんすか~。そうっすね~、これ買ってくれたら、何でも教えるっすよ~」


 彼女は、満面の笑みで、両手に真っ白なブラとパンツを抱えている。


「ぬお? でも、サヤさんところにはこれからお世話になるし、値段次第かな? 俺も、これからこの里で生きて行かないとだから。でも、サヤさん、この店の物は大した事無いって言っていたのでは?」

「そ、そんなに高くないっす! 3朱くらいっす! そ、それと、下着だけは別っす! さらしだと、胸が成長しないっす!」


 彼女はそう言い訳しながら、慌てて下着を後ろ手に隠した。


 ふむ、下着は洋式の方がいいと。まあ、俺には関係ないか。そして、確かに彼女の胸は、まだまだ未熟のようだ。

 

 それはいいとして、確か、1両が10朱で、1朱が1000銭。で、団子が一櫛3銭だっけか?

 で、俺的には、1朱は1万円くらいかな?ってところだったが。


「うわ~、たかが下着でも結構するんだな~。まあ、今は余裕があるしいいよ。じゃあ、授業の方を頼む」

「了解っす!」


 俺は、両手に一種類ずつ貨幣を載せる。


 ふむ、この最も大きい、金色の、形と大きさが500円玉くらいの貨幣が1両。

 次に、これまた金色の、穴の開いた、5円玉みたいなのが、1朱。

 で、100円玉そっくりなのが、1貫。

 最後に、10円玉みたいな色の奴が1銭と。


 ん? 良く見ると、ちゃんと、両、朱、貫、銭と、刻印してある。

 己の愚かさを悔いつつ、俺も普段着を適当に見繕い、サヤと一緒にカウンターに向かう。


 ちなみに、盗賊の金は全部で11両と少しあった。

 俺の価値基準が正しければ、100万ちょいってところか?

 当面の資金としては申し分なかろう。

 サヤに、山分け分の3両を先に渡すと、また商品を選びに行ったのだろう。マッハで消えた。


 カウンターでは、既に奈月先生の調査は終わったようで、ランドセルを前に、これまた満面の笑みで、姉弟が俺を出迎える。


「毎度ありでござる! 全部で1両2朱5貫でござるが、1両にまけるでござる!」


 ふむ、流石は輸入物。関税がかかっているのかどうかは解らないが、結構するな。

 女物の下着の値段は解らないが、ワゴンセールならこのクラス、全部で数万円もしないのにな~。

 しかし、サヤの奴、男に下着を買わせる根性は凄いな。まあ、隠そうとはしていたから、まだ許せるか?


 俺が一両をカウンターに出し、奈月先生を受け取ろうとすると、何故か、姉のミスズさんが掴んで離さない。


「近衛さ~ん、このランセル、売って欲しいな~。今なら、2両で買わせて貰うわよ~」


 ぐはっ!

 そういう事かい!

 しかも、この女性ひと、男の扱いに長けていると見た!

 肘をカウンターにつき、少し前かがみになり、その豊満な谷間を俺に見せつける!


 しかし、奈月先生、2両だそうですよ?


(アラタ! あの脂肪の塊を、その左腕で掴みなさい!)


 ぶはっ!

 まだ背負ってもいないのに、俺の頭に直接声が鳴り響く!


 うん、それは俺もしたいが、許される訳もなく。せめて、この左腕がまともならと恨めしい。


「い、色々な意味で非常に魅力的ですが、遠慮させて下さい。ただ、俺の知識で役立つことがあれば、その時は協力させて貰いますよ。そうだな~、マゴイチさん、さっきの銃を見せてくれますか?」


 そう、俺はあのマゴイチの銃が気になっていた。

 例え魔法があっても、銃そのものの発想は悪く無いと思う。俺の世界じゃ、銃は最もポピュラーな兵器だ。しかし、今時単発式ではな~。もっとも、ライフルのように、長射程と高い命中率があるなら別だが、あの銃にそれは期待できそうにない。


 そして、この里がどんな里なのかは、未だに分からない事だらけだが、さっきの俺への里人の感想、『戦力になりそうだ』とか、あと、サヤ達を見ていると、この国はどうやら紛争当事国のようだ。なら、予算が足りないって話も納得できる。


 勿論、俺も戦争とかは嫌だ。

 しかし、ある程度の力が無ければ、同じ土俵で話し合いだってできまい。

 俺も、せっかく里の一員に加えて貰えたのだから、ここは協力してやりたいな。


「あら、残念ね~。でも、まだ脈はあるようね。マゴイチ!」


 マゴイチが、これまたマッハで奥に消える。

 そして、奈月先生にポケットの金を仕舞い、背負い直していると、すぐにあの銃を片手に戻ってきた。


「おお~! 近衛殿も、これの良さが分かるでござるか! これは拙者が改造した、特別製でござる! それで、何でござるか?」


 お、こいつは武器の改造まで出来るようだ。

 尚更いいな。


「取り敢えず、見せて下さい」


 子供の頃、銃のプラモデルとかは作った事があるので、少しくらいなら構造も分かる。


 俺はマゴイチから銃を受け取り、着火装置を重点に良く見る。

 ぱっと見た感じは、火縄銃を少し短くしたってところか? 引き金は無い。


 ふむ、弾は既に込められていて、すぐに撃てる状態だな。

 そして、どうやら火縄銃を進化させたもののようだ。明らかに、元々は火縄(種火)で着火する方式だったものを、火打石のようなものを、板バネの力で薬室に打ち付けることで、ちゃんとした撃鉄になっている。多分、ここがマゴイチのオリジナルなのだろう。

 ただし、火薬と弾は別々なので、弾込めには時間がかかりそうだ。

 弾だって球形なので、直進性が悪そうだし、何よりも火薬の威力が逃げる。

 また、銃身にも、照準器となるようなものがついていないので、狙い難い。


 だが、これなら改良できそうだ。


 俺は銃をマゴイチに返しながら言う。


「ありがとうございました。それで、これって一度に一発しか撃てないし、弾込めにも時間がかかりますよね?」

「そうでござる。でも、符術だって似たような物でござる。サヤちゃんや、その母上のキキョウ殿ならともかく、普通は、10秒に1回が限度でござる。これだって慣れれば、10秒もあれば、弾は込められるでござる」


 ふむ、魔法と同等と。そして、魔法の性能も少し解ったな。


 そこにサヤが戻ってきた。

 両手には、また下着を抱えている。今度は青縞か…って、どうでもいいな。

 そして、開口一番。


「アラタさん、銃なんて邪道っす! さっきも言った通り、あたいらには符術があるっす! マゴイチも、そんな物に頼っているから、魔力が伸びないんすよ」


 ふむ、やはりサヤは銃は嫌いと。

 まあ、あんな魔法が使えるんだから、彼女には不要かもな。


 しかし、これにはマゴイチも、顔を真っ赤にして反論する。


「それはサヤちゃんだから言える事でござる! 拙者のような、元々素質に恵まれていない者は、道具に頼るしかないでござる! そして、銃なら誰にでも扱えるでござる!」


 なるほど、理解できた。マゴイチは才能に恵まれなかったので、銃に頼らざるを得なかったと。

 そして、マゴイチの言い分は、間違っていない!


「サヤさん、ちょっといいかな?」

「あ、済まないっす。でも、符術は使えば使う程、魔力が上がるっす。なんで、最初から道具に頼るのはダメなんすよ。それはアラタさんだって知っているはずっす!」

「う~ん、それに関しては何とも言えないけど、サヤさん、あの、『雷槍』だっけ? 何発撃てる?」

「え…、まあ、体調にもよるっすけど、あれだと5発が限度っすかね?」

「じゃあ、相手が多数なら? そう、あの灰狼族の時は、サヤさんでも無理だったよね?」

「そ、そうっすね。親父や母上ならともかく、あたいじゃ、あの数はどうにもならなかったす」

「サヤさん、そこで何か気付かないか?」

「あ~、そういう事ね! 確かにサヤちゃんは凄いけど、魔力には限りがある! でも、銃なら、弾さえあればいくらでも撃てる! 近衛さんはそう言いたいのね!」


 いきなりミスズさんが割り込んできたが、まあいい。

 本当はサヤに答えて貰いたいところだったが。


「た、確かにそれはそうっすね。でも、魔力が切れても刀があるっす!」

「うん。刀は置いておいて、俺が言いたいのは、魔力が無くても使える銃というのは、かなり便利だってことだよ。なので、俺はマゴイチさんの考え方は間違っていないと思うよ。もっとも、現時点ではサヤさんの勝ちだろうけど」


 サヤは首を捻っているので、まだ完全には理解できていないようだが、マゴイチは違った。いきなり俺に手を差し出してくる。


「やはり、分かってくれる人は居たでござる! 近衛殿、拙者の事は、孫一まごいちと呼び捨てでいいでござる! 貴殿の方が年上みたいでござるし。そして、本当に感謝するでござる!」


 俺はこんな事くらいでと思ったが、悪い気はしない。

 その手を握り返す。


「そ、そうなんだ。じゃあ、孫一、俺の事もアラタでいいよ。そうだ、今度時間あるかな? うまくすればその銃、サヤさんには勝てなくても、馬鹿にはされなくなるかもしれない。ちょっと見ただけだけど、連発式は無理でも、射程、命中度、装填速度等は向上させられると思うよ。例えば、銃身に直線になるような目印を2つつけるだけで、照準器になって、狙いがつけやすくなる」


 うん、まだ簡単に改良できる点はあるが、一度に言っても無理だろう。


「え? 本当でござるか?! やはり、この銃はもっと良くなるでござるな! 拙者は、訓練の時以外は、大抵ここで店番をしているでござる! なので、いつでもいいでござる! ではアラタ殿、待っているでござる!」


 孫一は、深々と頭を下げる。


 そこで、いきなり頭に声が鳴り響いた!


(うわ~、何かいい気分だ~。え? 俺の誤解だった? あれ? ごめんな~っ!)


 ぶはっ!

 これが奈月先生の言っていた、感謝によって、恨みが相殺されるって現象か!


(ええ、アラタの気持ちがこの者に届いたのです。良くやりましたね)


 俺は左手を見る。


『205936』


 うん、きっちり一人分。

 だが、俺、まだ何もしていないぞ?

 なので、この誠意に応える為にも、ここにはまた来ないといけないな。


(いい心掛けです)



 孫一に商品を袋に詰めて貰っていると、ミスズさんまでが頭を下げる。


「近衛さん、弟の為に本当にありがとうね。なので、あたしの事も『美鈴みすず』でいいわよ。そうだ、孫一! 近衛さんが来たら、必ずあたしにも教えなさいよ!」

「う~、アラタさん、こんな店さっさと出るっす! そろそろ飯っす!」


 商品を受け取るや否や、俺はサヤに手を引かれ、強引に店から連れ出された。

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